第6話
ほんの少しの時間だったと思う。やばい・・・と思った時は かなり というか本気で キスしていた。
唇が軟らかかったし、なんか どういったらいいかわからなかったけれど、薄く開いたそこから自分の舌を差し込むと御堂のそれが少し触れた。
そのとき、ようやくなにかに覚めたように、浩一は、唇を離した。
そして、いつのまにか掴んでいた手首を離すと御堂は赤らめた顔のまま浩一を見つめた。
やっちまった・・・と思った時にはもう遅い。すぐに手元にあるグラスを引き寄せるとそれをぐいっと飲みほした。その様子を 御堂はじっと見つめている。
沈黙が怖かった・・・というか なんでキスしたのか 浩一自身わからない。
「ごめん・・・。俺、なんか変だわ」
やっと出た言葉に 御堂は 小さく首を振った。
「ううん」
二人っきりのそのスペースがなぜか寒々しく感じる。
「あの・・・」御堂が何かを言おうとしたとき、ぱたぱた足音をさせと吉田が料理を持ってやってきた。
「お待たせしましたー!ウィンナシュニッツェルとタイ風焼き鳥でーす」
その場にちぐはぐな料理とやたらと明るい声、しかし二人はただ吉田に苦笑いを送る。
「おまえ・・・」
「え?何?高野とメガネ。どうした?」
「いや。ちょうどいいところに来たなって」
「え?お邪魔だった?ごめーん。すぐ行くから、ごゆっくり」
そういって立ち去ろうとしながら、吉田は御堂が顔を赤らめて下を向いているのを見た。
「おいおい。メガネ。何、赤くなってンの?乙女か。おまえは」
「あ、いや。違う。俺が」
吉田に、にじり寄られてますます顔があげれない御堂をかばおうとするが、逆に矛先が高野に向いた。
「は?高野がメガネちゃん食っちゃったの?」
はいーー??なんでそうなるの?
「違うよ。吉田。馬鹿言わないでくれよ」
ようやく御堂は顔をあげると吉田は満足したように彼の頭を撫でる。
「はいはい。わかったよ。ま、今から料理どんどん出すから 残さず食べろよ」
「俺らはお子様か」
笑いながら去っていく吉田に高野はある意味救われた気がした。
「ねえ。高野」
「ん?」
「彼女、どう?」
御堂はそういうとシュニッツェルに手を伸ばした。吉田はもう初めから切ってくれているので二人ともそのまま食べられる。
「ああ。あの電車のとき電話してきた?あいつとは もう無理だな」
「なんで?」
「東京とこっちじゃ遠いし。遠距離って柄じゃないし」
「遠距離だから?」
「そういうんじゃなくって。当分いらねって感じ」
「ふーん」
もうさっきのあれは、なくなってるような御堂の口ぶりにほんの少し残念な気がした。
普通なら野郎となんて酒が入っててもしたくないのに結構今、素面でキスしてしまってそんでもって それが気持ちいいと思えた。
というか、御堂少し舌を出してきた・・・。
「あのさあ。御堂」
「何?」
「さっきの・・なんだけれど」
浩一の言葉に御堂の瞳が少しだけ揺れた、とそのとき浩一の言葉を遮るように、御堂は明るく笑って言った。
「浩一さあ。早く彼女、みつけるべきだよ。やっぱり」
次の日、浩一は 学校を休んだ。