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第19話

その夜、浩一はアルバイトから戻るとすぐ御堂に電話をした。

「アルバイトに行ったら、幸せオーラが出まくってるって言われた」という

浩一に「じゃあ、僕もそうかな」と答える 御堂。

 うん。幸せオーラ、出ていていいじゃない?という浩一。

「アルバイト、1週間がんばってね。金曜日、夜遅くても僕起きてるから」

 何食べたい?という御堂にあれ?料理してくれるのかなと淡い期待をもつが

「スーパーで買ってくるから」との答えに期待はすぐにしぼんでしまう。

 だが、

「そういえば、御堂。火曜日アルバイトの面接っていってたけれど」

「うん。前から家庭教師派遣会社に登録していて、そのテストが明日なんだ。そこの会社ってバイトとしては、結構割がいいんだよね」

「でも、今まで 教えてた子も続けるんだろう?大変じゃない?」

 それってその子 かわいそうかもよと浩一は家庭教師先の生徒を心配した。急にやめるなんていうんじゃないよなと尋ねると

「その子は、いいんだ」

 何かを断ち切るように きっぱりという御堂の声に浩一はいつもの御堂には似合わない厳しい言葉に不可思議さを感じるがそれ以上尋ねなかった。

 その後、ふたりは何もなかったのように明日の授業の話や、土曜日の昼間は何をするかなど予定を立てたり話を続ける。 

 そして電話を切るとき

「金曜日はさ。俺の知ってる店で食べようよ。俺がご馳走してやるから」

と浩一はいい、御堂は最後に「好きだよ。お休み」と告げる。

 その声と吐息を感じたように頬が温かくなり浩一は ふっと笑った。

 電話を終えたあと、静まり返っている部屋で、浩一は 先ほどの会話の中で気になったについて考え、最近登録したメールアドレスに メールを送った。

 気になったことは 早めに対処したほうがいい。

 これは 浩一が これまでの経験で培った教訓であり、災いを避けるための得策だと確信していた。


 次の日 大学で また大倉が浩一の席を用意してくれていた。

 彼はもう自分が浩一の連れと決めているようで「御堂君とうまくいったの?」と尋ねながら 昨日の講義ノートのコピーを用意してくれている。

 甲斐甲斐しいことこの上ない。

「うん。ありがとう。大倉君のおかげだよ」

「はは。そういってくれてうれしいよ。ところで、立石ミサ。あいつ、おまえのこと噂してるぞ。ゲイだって」

「ふーん。ま、別にいいけれど」

 まあ、人の噂は75日っていうから、と浩一は 笑うが内心はそれほど穏やかではない。あいつのことだから 何をするかわからない。なんといってもヨウのところへ直接行ったり、昔のことをあれこれ聞きまわっていたらしいから、普通じゃない。ヨウのことをこれ以上 傷つけるならそのときは なんとかしなくては。

「でもなあ。立石って馬鹿だよな。自分が捨てられたことをあんな風に暴露して周りが引くっていうもんだよ」

 大倉はそういって笑っているとミサと 腰ぎんちゃくのような前田が入ってくる。

「噂をすれば、ご登場だ」と浩一に目で合図した。

 ミサが講義室の席に着くと、そこかしこの席からくすくすと笑い声と共に小さなひそひそ声が聞こえ始める。

「あの子。中学時代の彼氏をストーカーしてたんだって」

「えー。しつこすぎ。今、隣にいるのが今の彼氏でしょ?」

「彼氏何もいわないんじゃない?」

 座っているだけでも学生たちの囁く「ストーカー」「しつこい」という言葉に浩一は驚きながら周りを見た。

 肘をつきながら それを見ている大倉は「土曜日のシンポジウム。結構 みんな出ていたんだな」と感心している。

 浩一は、やっとこれは シンポジウムの時ミサが騒いだことが発端で噂になっているのだと気付いた。

 学生たちのさざ波のような人々の声と好奇の視線にミサは驚くが、彼女は顔を上げ、噂する学生たちを見、そして浩一に気がつくと 鋭いまなざしをなげかけるが言葉を発せず、唇をかみしめながら講義室を後にした。

「あー。出て行っちゃった。このくらいで負けちゃうなんて、弱いね。あの子」端正な顔になぜか見合った冷たい言葉に浩一は 少々ミサを同情する。

 しかしそれをどう感じ取ったのか、大倉は 

「変な同情、しないほうがいいよ。浩一。ああいう手合いはややこしいから。噂って75日でこれ以上 何もしなければ大丈夫さ」と唇だけで笑った。


 大倉の言う通り、大学内では逆にストーカーをしていた女がいるという噂が流れた。

 浩一の「男の恋人がいる」という確信のない話より、彼女の言動から「あり得る」と感じられたからだろう。

 昼休みに学食に向かう途中の廊下で一応注意するようにと御堂にメールを打つと「心配しないで」とすぐに 一言返ってきた。

「じゃあ、大丈夫みたいだね」

 いつの間にか 大倉は 浩一の後ろから覆いかぶさると浩一の手元をがっちりとホールドして、携帯メールを読んだ。

「でもさあ。絵文字とかないわけー。ラブラブな一言とかさ」

 かなりがっつり見ている大倉だが、別に何も隠すことないので浩一も それほど怒りもしない。

 じゃれてくる大きな動物に体を揺らしながら、自分の携帯を取られないように抱きこむ。

「あいつは 絵文字だらけっていうガラじゃないし」

 御堂とは メールより携帯、携帯より 直接会って話したい。

おそらく、絵文字をふんだんに使っても好きだよって言葉は直接相手の目を見ないと伝わらないんだ。

 学食の手前に来て、背に乗りかかっていた大倉はぱっと離れると食券をこれまた浩一の分も買い、一枚浩一に渡す。

「お祝いに今日は奢ってあげるよ。ただし、今どうなってるか教えて」

「Aランチごときで お前には、話したくないな」

 といいつつ本当は浩一自身、誰かに聞いてほしかった。

 大倉は御堂を知っているし、同性愛についても理解があるようだ。こういう友人がいて正直よかったと浩一は、心から思っている。

 やがて、Aランチ、俗に言う焼肉ハンバーグ定食のトレイを持ってあいているテーブルに移動し、二人で向きあって食べ始める。

 大きなテーブルに合い席だが、ほとんどの学生は自分たちの友人たちとの

会話に忙しく男二人の話に聞き耳を立てる人などいない。

「御堂君は、君とおつきあいすることに決定したわけね。

 で、御堂君の前の彼氏は、どうなったの?」

 大倉は皿に申し訳なく乗っているカリフラワーをフォークで突き刺すと

浩一の前に突き出した。

「楓さんとは、付き合わないと言ってたけれど。一応、楓さんの従兄弟に 色々と情報もらうつもりなんだけどね」

「情報はどんななときでも必要だ」

 食事をしながらでも大倉の言葉は、いちいち説得力がある。

 浩一はそうだよね、と箸を進めていると携帯が鳴り始めた。

『吉田』と液晶に名前が出たので、すぐに電話にでるとすぐにすっとんきょうな声が聞こえてきた。

「高野ー。ちょっと来てくれよ。今、うち大変なことになってんだ」

「は?」

「おまえ、あいつと付き合うんだろ?そのことで奴が暴れまくってんだよ」

「やつ?」

 浩一には吉田の言っていることが理解できなかったが何か自分に関わることが関係しているらしいことはわかったので、食事も早々に吉田の家に向かうこととなった。





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