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第13話

 並木道を通って 行くと左方向の住宅街に1棟のマンションが目についた。

「ここがうちなんだよ」

 少し前のデザイナーズマンションだったそうで家賃も安いと言っていたが、広さは2LDKだし、駅にも近いらしく電車の音が聞こえてくる。立地もいいから浩一の所より家賃は高そうだ。

 今、浩一の部屋は、築10年以上の古い部屋だったのでこの生活は御堂の部屋はかなりうらやましい。

 部屋に入ってソファに座ってもまだ、きょろきょろ見まわしてしまい、その様子に御堂は小さく笑った。

「昔のデザイナーズっていっても外側だけ。内装は前の住人が今風に変えていってくれたから結構快適になってるんだ」

 他の部屋はガラス張りでお風呂が丸見えなんだよと言われ、そういう部屋に住んでいる人はどういう人なんだろうと想像したとき、なぜか御堂の裸が浮かんだ。

 やばい。かなり毒がまわってる・・・と浩一は、目の前にある英文の雑誌を引き寄せた。

 ナショナル ジオグラフィックと書かれてあるそれは、後進国の人々の環境問題やアフリカの動物保護、温暖化のことが書かれているらしい。

 英語を読む習慣をつけているという話はどうやら本当らしい。

「定期購読してるんだ。よかったら持っていってもいいよ」 

 冷えた缶ビールを渡され、「飲むでしょ?」と言われるが、見たことのないラベルだった。

 あの吉田の店に置かれていたものにも同じようなものがあったことを思い出す。

「おいしいんだよ。あと炭酸系のジュースみたいなもんならあるけれど・・・」

 そういって、冷蔵庫の中をあけるとつまみらしいものを探っているようだ。

「何もないから、ピザでも注文しようか」

「俺、何でもいいよ」

 御堂がピザ屋のテイクアウト用のメニューを探している間、浩一はビールを飲みつつ、まだ部屋の中を見回していた。通販で買ってきたであろうソファにテーブル、テレビ、観葉植物となぜか大量の本が そこかしこに置かれている。家具類は、学生が普段使うのに十分なもので、そんなに高価なものはない。1人暮らしの部屋だ。

部屋を見たら本人がわかるというが、なるほどそうなのかもしれない。それらを見てなぜか浩一は安堵した。

「この近くにあるピザ屋さんのだけれど、ね。何がいい?シーフード?」

 ピザ屋が置いて行ったであろうメニューを浩一に見せながら 楽しそうな御堂にほほえましく思いながら浩一は2種類のハーフピザを指差した。

「あ、いいね。じゃあ、サービスの小さいピザを一枚つけて」

 嬉しそうに注文する御堂を見ながら、浩一は、もう一本ビールの缶をあけた。


「どう?なかなかいけるでしょう?」

「うん。そうだな」

 ピザは、注文してから十数分で届けられるという。それまでは、ビールを飲んで待っていようということになった。

「何か、ピッチ速いよ。浩一」

 いつのまにか、ラフなシャツに着替えた御堂が、こちらも少し酔っているのか頬を染めて三角座りをしている。

可愛らしくくすくす笑う彼の目が潤んでいた。


 綺麗な眼をした御堂を見ながら、浩一は、なぜ初めて会った時自分はすぐに彼が自分の友人で会ったことをわすれていたのか、不思議でならなかった。

 中学時代の彼は、真面目そうな黒髪の黒縁眼鏡の少年で、どこか神経質そうな繊細なイメージがある。

 しかし、今の彼は柔らかそうな髪、優しげな瞳。線の細さだけが昔の面影だ。


 こんな顔であのとき、俺と話をしていたっけ?

 何かがこいつを変えたのか?


「御堂、お前、吉田とは高等部もずっと一緒だったのか?」

 ソファの隣に座った御堂に浩一は尋ねる。

「一緒っていうか、まあ高等部では同じクラスだったしね」

 御堂が、ゆっくりとそういうと、浩一は素直にうらやましいなと呟いた。

 そういえば 吉田が 御堂がモテまくってたとかいってた。

 確かに、今の御堂の顔なら、どんな女でも付き合ってくれるだろう。しかし・・・


 浩一は、この部屋に入ってから気になっていることに気がついた。


 この部屋には、女っ気がまったくしない。女の影がない。


 となりでちびちびとビールを飲んでいる御堂がちらっと浩一を見た。

「浩一は、向こうではどうたった?」

 向こうは、東京のことだろう。

「向こうの学校ってさ。共学だったんだけれど、お嬢ちゃん、お坊ちゃんだらけでさ、俺に全然合わなくって。

 で、大学は必ずK学院に戻ろうと思ったんだけれど、俺、失敗しちゃって。それで、滑り止めのO大に入ったんだ。すっげー恥ずかしいけれど、まあ、結果、もう一度こうして御堂にも逢えたからよかったと思うけど」

 酒の力で自分の恥ずかしい部分を堂々と言い切ると、浩一は笑い飛ばした。

 しかし、そのとき御堂は静かにそれを聞き、そして浩一の傍に寄ってくる。


「そんなに東京がいやだったの?」


 顔を寄せて尋ねてくる御堂の目元が、少し赤らんできれいだった。

 やっぱり 男でも綺麗なものは綺麗と思った時には彼の肩を抱いていた。

 じっと 見つめながらその顎を上向かせる。

 一度味わったあの柔らかい唇が、そこにある。


「御堂、つきあってる人、いる?」


「いないよ」


 拒否することをしない御堂にどうしても好きと言わせたい。抱き寄せて口づけると御堂の唇が開かれる。

 ゆっくりと舌を差し込み絡めながら、もっと深くむさぼろうとすると御堂の手が 浩一の背にまわされる。


 吐息だけが 部屋に響き 空気がゆっくりと濃厚に変わっていくことを感じながら、それを二人で堪能する。

あ。やばい・・止まらない、と目を薄く開けると長いまつげがそこにある。何度も唇の角度を変え、口内をくまなく愛撫しながら、ソファにもつれながら互いの背を愛撫した。


 唇が名残惜しげに離れていくのを感じながら、御堂が目をあけるとし、自分の上に浩一が眉をひそめていた。

その唇が光っているのを見て御堂はそれに手を触れる。


 言葉はいらないというように微笑むと、そのとき インターホンが鳴った。


「あ。ピザだ」


 二人の声が重なったことに対し、自然と笑い声が出る。


 浩一はソファから立ち上がると 「じゃ。ピザを食べたら続きするから」と言い放ち、御堂は ただ笑うしかなかった。


 その後、ピザを食べながらまたビールをあおり、その後は 二人、そのソファで寝転がりながら先ほどの続きのキスを交わす。


 長く濃厚なくちづけを交わし、浩一が御堂のシャツを脱がそうとボタンをはずそうとすると、彼はそれを制するようにその手をやさしく掴んだ。


「浩一。それは・・・まだいいんじゃない?」

 途中で 止められたことで拒否されたと愕然とする浩一に、御堂は

「浩一は、男同士のやり方 知らないでしょ?僕は女の子じゃないんだよ」と続けた。

 

 確かに、浩一は 男と関係をもったことはないし、興味もなかった。

 しかし、この口ぶりで言うなら御堂は知っているのだろうか。

 浩一は尋ねたかったが、それを聞く勇気は今はない。


「俺は、ヨウが好きだよ」

 御堂をヨウと呼ぶと、御堂は目を大きくはためいて、だめ、と言った。

 今はだめ、と言われてもこれだけは伝えたいと思う。

 御堂の髪をやわらかく撫でると浩一の下で花のように微笑んだ。

「僕もだよ。でも、ここまでが、浩一にとって限界じゃないかなって」


 俺たちは まだキスまでの関係?と浩一は聞きたかったが、それでも ヨウがほしいと思った。

誰よりもそばにいて、声を聞きたかった。


「俺はヨウが好きだし、ヨウがまだっていうんなら、待てると思う」

 いつまでかわからないけれど、この関係を 壊したくなかった。

 男同士だから、どういうやり方か、調べたりしなくちゃいけないし、知識がなければヨウを傷つけてしまう可能性があることは知っている。

  

 体だけじゃないんだ。ヨウのすべてが好きだと浩一は ヨウを抱きしめながら囁くと御堂は 浩一の背をやさしくなでながら、なぜか泣きそうな顔をして目を閉じた。


「ね。キスして。僕 浩一のキス。好きなんだ」

 やさしい声でねだる愛しいものに 浩一は、嬉しそうに頷いて口づけを与える。

 互いの指を絡め、夢中になって行うそれは 浩一の今までの経験の中で一番甘く官能に満ちた空気が 長く漂っていた。


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