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第12話

 アートセンターを出た後、大倉は明るく

「じゃ、浩一。月曜な、そんでもって御堂ちゃん。またね」と手を振って帰って行った。


 シンポジウムが終わってもまだ人は多く残っており、意見交換などをしている。

環境学に関するパンフレットや資料をもらうと、浩一と御堂は大学を出たが、まだ陽は高かった。

「御堂。どこかいきたい所ある?俺、今日はバイトないし」

「バイト 休んだの?」

「うん。そのかわり来週は1週間、まるまる出ずっぱりになるけどね」

 長谷川に今回土曜日バイトを変わってほしいと頼んだ時、こう言われた。

「浩一。それってこのこの間の女の子とデートだろ?やっぱりつきあうんだ」

 そういって、浩一とシフトをすんなり変わってくれたのだ。

 でも、相手が男だといわなかったが、まずこの感じはデートの流れだと浩一も感じた。

 この辺は、女の子にとってはおしゃれな街と言われている。元々外国人がたくさん住んでいたらしいのでその名残というのかまだ洋館に住んでいる人もいるし、教会やら美術館もある。

 おしゃれな雑貨屋とか、カフェとか少し離れた所には 映画館が併設されているショッピングセンターがあるけれど、この後の予定は思いつかなかった。

 

「それなら、桜川に行かないか?ほら、ここから近くだし」

 桜川は 沿線沿いにあるきれいな川で桜の名所だ。

 しかし、もう桜は散っている。

 でも、あそこの桜があったから、もう一度御堂に会えた。何だかそれがシンボリックな感じがする。


 御堂がいきたいなら、どこへでもと浩一がいうと

「桜川さ。家のすぐ近くなんだ」と御堂は、微笑んで答えた。



 桜川は、西に連なる山々のさらにおくに水源があるという川で、それに沿って桜並木が作られ、緩やかな流れは内海へと繋がっている。

また全国桜百選にも選ばれるほどの、景勝地でもあり桜の季節は大勢の人で賑わう。

僕は桜も好きだけれど、なによりこの雰囲気が好きなんだ。

もう桜は散ったけど、並木道は 散歩を楽しむ人や川べりに作られた小さな小川で水遊びを楽しむ子供達の明るい笑い声が絶えない。

 なんか いいねと浩一が言うと 浩一ならわかってくれると思った と御堂。

 一層、川面で子供たちの喚起する声がして その方を見ると子供たちが 網をもって魚を採ろうとしている。

「嘘だろ。ここに魚?」

 町中の川に魚なんていないと思っていた浩一は眼を丸くするが、川がきれいなったからね、と御堂は言った。

 立ち止まってきらきらひかる川面を見ながら、御堂は目を細める。その姿を見て浩一はあの中学のときのことを思い出す。


 あの中学の通学電車の中、風景がきれいと同じように考えていた彼に親近感を持ったあの日も彼はそういう目をして景色を見ていたと。


「きれいだな」

 浩一がいうと御堂は「本当に」と言って笑う。

「また一緒に、同じものを見て同じことを言えるようになったね」

 子供たちの笑い声が聞こえる川辺で、浩一は微笑む御堂の顔を見て、頷いた。


 そうして、浩一が引っ越しする前の何か月かはいつも吉田も交えて3人で帰っていたことを思い出した。

 

 俺達、結構、仲がよかったんだ。でも、ミサがなんかわかんないけれど御堂に対してなんか言いだして。

 あいつ変な嫉妬心が芽生えて浮気がどうのとか変態とか言っててそんで俺が 怒って・・・

 ミサの切れ具合が普通じゃなかった、ので結局何が原因だったのかすら、覚えていなかったが。


 染められた髪色がやさしく、やわらかな顔立ちが映えて見える。

 御堂のその温和な微笑みを見て思わず、言葉が先に出た。


「あのさ・・・好きだよ」と 告白してみるが、御堂はまた子供たちが遊んでいる姿に目を奪われているらしく聞こえなかったようだ。


 この返事は、今はまだ返してくれないだろうなと浩一は、御堂の見ている方に目をやりながら、木々の小道を歩きながら 他愛のない話をし始めた。


 話は、この近辺の話から始まった。

 桜川近辺ががこの何年でどのくらい変わったか、とか浩一がいなくなってからの学校や吉田や御堂自身のこと。


「正直、御堂って名前を聞いても本当にぴんとこなかったんだよな。ヨウって名前は誰かにあったと思ってたんだけれど」

 そのとき御堂は、うっすらと笑って浩一を見上げる。

「僕、親が離婚したから名字が変わったんだ。だから覚えてないのは無理ないよ」

 そっか、と浩一は 御堂の髪を軽く触れる。

 家族の問題はどこにでもある。それは 浩一自身にもわかる。

 でも、御堂のことについては、ミサとも美奈とも、今まで知り合った彼女とは違う、なんでも知りたいしずっと話していたいと思う。


 体が勝手に動いて御堂の髪に触れていた。

 

「 御堂。俺さあ。おまえの名前、忘れてごめんな」

「 いいよ。僕も 前の名前、好きじゃないし」

「 それに 浩一は 今、また友達でいてくれるじゃない」


友達、何だろうかと 浩一は思う。

ああ、こいつが女ならここで 告白なのにと思うのだけれど。


「 御堂さ。雰囲気変わったじゃん。きれいになって、垢抜けて」

 本当、きれいになって、そんでもって やさしいしかわいいし、男だけれど・・・でも、男とかそんなのひっくるめてもやっぱ・・・ 好き・・・なんだよな。俺。


「 ありがと。でも 中身はあの女の子の言ったとおりだよ」

「 ミサは、わけわからないやつだから、ほっときゃいいんだよ」

でも 当たってるかもねと 落ち込んでいるような御堂に浩一は にっこりと笑って 肩を軽く叩いた。

「それにさ。俺は、ミサよりおまえと一緒にいるほうがいいんだから」

 

 そのとき御堂は本当に?と小さくいうと浩一は当たり前だろ?と笑って大きく頷いた。



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