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第10話

家に帰る道すがら、彼はとぼとぼと歩きつつ長谷川に指摘された御堂に対する想いを考え始めた。

 

 中学の時の御堂は、今とは全然違う ガチガチのさえない少年だった。

 いつも本を読んでいて。でもオタクとかではない、自分の世界を持ちつつ周りと共生している といった感じだ。

 確か、浩一が東京へ行く前に 少し仲良くなったと思う。それも吉田が入ってたから 3人で、という感じだったけれど。


 そうそう。そのときリサと付き合ってて、何かそのとき俺、御堂のことでリサが電車の中ですごい剣幕で何か入ってきて。リサがそこで泣いて、ストーカー化したんだっけ。

 そうこう考えていると携帯にメールが入ってくる。

 名前は、吉田ではない。

 浩一はすぐにメールの主に電話した。


「もしもし。御堂?」今、考えていた人への電話に浩一はどきどきしている。

「うん。浩一・・あのね」

「どうした?」

 

 御堂は 言葉をつまらせながらゆっくりとした声で言った。

「ん。ちょっとさあ。あの、か・・環境学の大井教授の本とか持ってない?」

「ごめん。教授の授業、うちは2年からしか取れないんだよな。まだだからない」

「あ・・・そう」


 残念そうな御堂の声に、こちらも浩一は少し落胆する。声が聞きたくて電話したってわけじゃないんだ、という想いと本当に環境を勉強したいという彼の真摯な姿勢が見てとれ、こちらが気恥しくなる。


「そういえば、今度大井教授のシンポジウムっていうのがうちの大学でやるんだ」

「え?いつ?」

「今週の土曜日だったと思う。地域の活性化に伴う地方行政の影響力とかそれに伴うなんとかって」

 ポスターがあっちこっちに貼ってあったけれど、あまり覚えてないんだよなと浩一。

しかし面白そうと興味を示すう御堂の言葉に浩一は「じゃあ、よかったら来ないか。俺も一緒に行くよ」と言ってしまう。

「え?浩一、一緒に行ってくれるの?嬉しい」

 明るい、本当にうれしそうな声に浩一は顔を綻ばせる。その心が和む声だなーとほのぼのとなってしまう。

「変なこと言うようだけれど、俺、御堂の声、好きだな。もう着メロにしたいくらい すっごく癒されるんだけれど」

 和んでいる空気の中、浩一が口にした言葉に、御堂はえっと小さく言ってえ・・まじでそれ、嬉しいと小さく呟いた。


 なんかかわいい反応が帰ってきたぞと思った浩一は いやいや、とかぶりを振る。

 こいつは男で、友達なんだから・・・。何、かわいいなんて考えてるんだ。


 そんなことを匂わせないように、話を戻そうとしたとき、御堂が尋ねる。

「土曜日、そっちの大学に行ってもいいの?」

「いいよ。シンポジウムって一般の人も来るだろうし、それに俺も御堂の勉強したいこと気になるし」

「うん。環境学って本当に大事なんだよ。ダイオキシン問題とか、黄砂とかあるじゃない?それだけでなくて僕たちの生活に密接したところでたくさんの自然がね・・・」

 癒され効果のある声を聞きながら、帰宅し、片づけをし電話が終わったのは午前1時。

「ちょい 長電話して悪かったな。今度から御堂の番号で割引できるようにしとくから」

 会話の終わりに浩一がそういうと御堂は「そうだね」と笑った。


 






 環境学のシンポジウム、なんてどうなんだろうと浩一は思っていたが、結構盛況なようで、外部の大学生やサラリーマン、そしてエコ活動のNPOの人や団体に関わっている人が集まっているらしく、駅は土曜日に関わらず賑わっている。

 浩一は、そういった人々の中、御堂と駅で待ち合わせ、寄り添いながら大学に向かう。

「本当に大井教授って有名人なんだ」

「そうだね。TVとかに出ているコメンテーターとか、あとエジンバラ大学の環境学の教授とか 呼ばれているから そういうのを見たいと思う人もいるんじゃない?」

「げ・・エジンバラ大学って教授 英語で話すんだろ?俺、英語苦手」

「うーん。でもね。専門書なんか読みやすいと思うよ。僕、日本の翻訳より向こうの原書を読んでるから」

「嘘」

「本当だって。今度貸してあげるよ」

 英語は大の苦手なのに、とぶつぶついう浩一を上目づかいで御堂は見た。

「でも今日は、通訳がつくと思うから安心して」

「あ。それならよかった」

「でも英語の勉強は続けた方がいいよ」

 話をしながら、大学内の大講堂に到着するとかなりの人が入っており、席はほぼ埋まっていた。

「まじかよ。こんなに人が来るなんて、実行委員会、何してんだ?」

「いいよ。浩一。ここらへんで立ってても」

 離れてなら座れるかも、と空いている席を探していると、高野、こっちだよと声がした。


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