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7/16

 衝撃的な男の子との出会いがあった、次の日。


「お宅の息子さん、すごくキビキビ動いて働きっぷりはいいんだけど、なんせお客さんの気持ちを考えないから問題発言が多くてねぇ。昨日からクレームが入りっぱなしなんだよ」

「す、すみません……」


 おばあちゃんの家から30分離れたコンビニへ、なぜか私はミヤと来ていた。その理由が「店長からミヤの行動への注意喚起」であることは、冒頭を読んでもらえると分かる通りである。


「ロボットみたいに正確に動くし、間違いもない。だけど、それだけじゃぁいけない。サービス業というだけあって、気遣いもいるんだよね。それがこの子には欠けているというか、なんというか……」


 もっと酷い言葉を言いそうになったようだが、そこは踏みとどまったらしい。店長は言葉を濁す。


「とにかく、これ以上問題を起こすようなら雇用を見直す必要があると思ってね。それが不当な理由にならないように、ご家族に来てもらったわけなんだよ。少しの間、息子さんの働きを見てもらおうと思ってね。きっと俺の言ったことが正しいって分かると思うから」

「はぁ……」


 内心「ミヤは息子じゃないけれど」と思ったけど、店長からすると「今はそんなことを言ってる場合じゃない」と突っぱねられそうだから言わないままにした。

 コンビニの人手が足りないのは本当らしく、目の下にクマを作った店長は、店内とバックヤードを忙しなく行き来している。その間ミヤは何をしているかというと、店長が向かう先々へ先回りして、やるべきことを済ましているように見えた。


「あぁ、次はアレをしないと」

「やっておきました」

「あ、ほんと? じゃあ次はコレを」

「それも終わりました」

「……早いね」


 ミヤについてなんやかんや言った店長だけど、こういう働きぶりには感謝しているのか、素直に「ありがとう」と言った。するとミヤもお礼を言われて喜ぶ……かと思いきや、彼は会釈をするだけに終わる。特別に会話を挟むわけじゃなく、客のいない店内では、淡々と業務が進んでいる状態。それはもう静かすぎるほどの。


 これは……客だけではなく、職場の人間関係についても問題があるのではないだろうか?


 そんな一抹の不安を抱いた時だった。

 やや腰が曲がったおばあちゃんが、一人で店に入ってくる。なんと真夏の昼下がり、一番暑い時間に歩いてきたらしい。四方八方から流れる汗を、首に巻いたタオルで忙しなく拭いている。


「水をくれんか?」

「あちらにあります」


 命からがら、ではなく、おばあちゃんは喉がカラカラだったらしい(いや脱水になれば命だって危ないわけだが)。声をかけられたミヤは、奥にある飲み物の入った冷蔵庫を指さした。おばあちゃんは「あんな所に」と、ポツリと呟く。


「最近、あたしゃ足が悪いんよ」


 そう言いながら、店内に設けた椅子に腰かける。これはご老人の多い星浮き町で店を構える、店長の配慮だろう。

 冷房の効いた店内でやっとゆっくりできたのか、おばあちゃんは「ほう」と息を吐く。

 その姿を見たミヤは「じゃあ俺が水を」と、冷蔵庫へつま先を向ける。


「………」


 だけど何を思ったか、それきり動かなくなってしまった。前へ出した足を、再び後ろへ下げる。どうやら冷蔵庫には行かないらしい。


「お水は、あちらにありますので」


 それだけ言って、レジの前に立つ。助けてくれるかと思いきや、あっさり見捨てられた(ように感じた)おばあちゃんは、目を三角につり上げて声を荒げる。


「ちょっと取りに行ってくれりゃいいだろうに、気の利かない店員だね」

「……」


 ミヤは、おばあちゃんの声を「聞こえないフリ」をした。それにまた腹を立てたおばあちゃんが「ちょっと」と、座ったまま手招きする。ミヤはやや眉根を寄せたが、素直にカウンターから出て来た。


「あんたはお客さんに対する配慮ってもんがない」

「……それは、必要ですか?」

「当たり前じゃろ! ここは店であんたは店員、あたしゃお客! 店員が客に配慮するのは当然じゃ!」


 見ている私がハラハラしてくる光景だ。店長を呼ぼうかと思ったら、店長はバックヤードの壁からこっそりコチラを覗いていた。既に顔が青い。……なるほど、こんな調子でミヤが一人一人と対立していたら、店長も気を揉むわけだ。

 だけど店長、ミヤは普通の人間じゃない。ロボットなんですよ――と言えたら、どれほど楽か。

 ロボットは「共感」はしてくれるかもしれない。だけど「自ら配慮する」ことはしないはずだ。なぜなら彼らは心を持たないから。気持ちがないロボットに人間の気持ちをくみとれと言っても、それは不可能な話だ。


「でも、引っかかるんだよね……」


 ふと、ついさっきの光景を思い出す。

 さっきミヤは、おばあちゃんが「水がほしい」と言った後、冷蔵庫に向かおうとしていた。きっとお水を持ってきてあげようとしたんだろう。

 だけどやめた。途中で「何かに気づいた」ように、己に制止をかけていた。

 あの時ミヤは、何を思ったんだろう?


 逡巡していると、おばあちゃんの怒鳴り声が耳をつんざく。どうやら今の間で、言い合いに拍車がかかったらしい。変わらずミヤはしれっとしているけど、おばあちゃんの顔は赤鬼になったように真っ赤だ。「大体、チャラチャラした服を着てからに」と、ミヤの私服にまでいちゃもんをつけ始めた。

 店長を見ると、なぜか両手を挙げて「降参ポーズ」をしている。次にしきりに私を指した。どうやら「親族である私が何とかしろ」ということらしい。

 親でもなければ親族でもないし、どうして私が――などと思っていると、ガタンと大きな音が響く。ついに殴り合いのケンカが⁉と覚悟して見ると、顔を赤くしたおばあちゃんがダランと脱力していた。支えるミヤが、ゆっくり彼女を床に下ろした。


「熱中症だ」

「え、熱中症⁉」

「こんな炎天下の中を歩いて、首に蒸されたようなタオルを巻いてりゃ、そりゃあな」


 ホットタオルと化したタオルをはぎとったミヤは、おばあちゃんを支えていた腕を抜く。次に、奥にいる店長に「119番通報をお願いします」と指示をした。店長は驚きながらも、すぐスマホを手にする。「救急です」と答える店長の声は、最初出会ったと同一人物とは思えないほど、弱々しい声だった。


 店長が狼狽するくらい、あまりに突然のことだった。おばあちゃんが倒れる前兆なんて、全くなかった。だって大声でミヤを責めていたし……。

 それでもミヤはおばあちゃんを受け止めた。ケガのないように、しっかり支えた。その姿は店員の鏡、なんて思う私は、ミヤの肩を持ちすぎているのだろうか。


「おい、ボサッとしてないでスポーツドリンクを持ってきてくれ。コンビニには経口補水液を売ってないから」

「わ、分かった!」


 目の前で人が倒れるという衝撃的な光景を見てしまったからか、走り出した私の足は震えていた。冷蔵庫に伸ばした手も、ペットボトルを掴んだ指もブルブルだ。だけど応急処置をする渦中のミヤは、全くの平常心でアレコレと指示を出している。


「ミヤはすごいな。勉強や仕事ができるだけじゃなくて、人を助けることもできるんだから……」


 って、何を羨んでいるんだ。こんな時に。

 煩悩を振り落とし、走ってドリンクを届ける。するとおばあちゃんの首には、既に氷嚢が当てられていた。その横には、封の空いた塩タブレット。どうやらミヤの指示で、店長が開けたらしい。それをおばあちゃんは、少しずつ口に含んで食べていた。ドリンクも同じで、ストローをさせば飲んでくれる。良かった、とりあえずは大丈夫なようだ。

 安堵していると、救急車のサイレンが聞こえ始める。山奥だからもっと時間かかるかと思ったけど、早く来てくれて何よりだ。

 そうして救急車が到着し、救急隊員さんに引継ぎをする。「適切な処置をしてくださり感謝します」と言われたミヤは、コクリと頷くだけだった。

 サイレンが遠くになっても呆然とする私とは違い、ミヤはタブレットやドリンクを片付け始めた。……何やら店長に言っている?


「俺の独断なんで、俺の給料から引いてください」


 どうやらタブレット代とドリンク代を払う、と言っているらしい。しかし、これには店長も「いや」と首を横に振った。


「気が動転した俺に代わって色々指示だしてくれてありがとう。助かったよ。これは俺が買う。タブレットは休憩室に置いておくから、ミヤくんも食べてくれ」

「……はぁ」


「はぁ」とそれだけだったので、私はミヤの背中をぺシリと軽く叩く。面倒くさそうな目で見られたけど、ここは怯まなかった。人間関係は大事だ。学校でも、きっと職場でも。


「ここはちゃんとお礼を言うところだよ、ミヤ」

「……」


 あからさまにミヤは面倒くさそうな顔をしたけど、バックヤードに入って行く店長を呼び止めた。


「店長、えっと……あ、ありがとうございます」

「こっちこそ。頼りにしてるから、またがんばってくれよな」

「……はい」


 そうして店長は奥で作業、ミヤはカウンターへ戻る。何気ない会話だったけど、心なしかミヤが嬉しそうに見えた。ニコリともしないから、判断が難しいけど。


「で、あんたはいつまでここにいるんだ」


 まるで「邪魔になるから帰れ」と言われたようだ。いや、実際は買い物しないから「邪魔」であることには変わりはないから、その通りなのだけど。

 店長から注意を受けた時はどうしようかと思ったけど、ミヤの働く姿を見られてよかったな。


「ミヤは優しいよね。人への配慮がないって店長が言ってたけど、私は違うと思うよ」

「……どうだかな」


 ミヤは、さっきおばあちゃんが寝転がっていた場所へ、ついと目をやる。その顔には、やや影が落ちている。


「俺はロボットだ。人の心は分からない……はずだった」

「はずだった?」

「長くロボットやっていると、不思議と分かってくるんだよ。俺はいつしか人の感情というものを理解するようになった。そうして人と同じく、俺も感情を持つようになった。……異質なロボットだ」


「まさか」という驚きよりも、「やっぱり」という納得の方が大きかった。だってミヤはさっき、おばあちゃんの代わりに水を取りに行こうとしていた。あれは「配慮」そのものだ。つまり「ミヤには心がある」という証明だ。


「百年後の世界では、俺らロボットは家事代行として各家へ派遣される。今の派遣会社のようなものだ。そこで言われたことを淡々とこなすが……俺は『依頼人がどうしたら喜ぶか』ということを考えてしまってな。指示されていないことまで行うようになった。その結果、気味悪がられて不良品扱いだ」

「え……」


 人へ配慮した結果、不良品扱いなんて……。

 良かれと思ってしたことが裏目に出た時のミヤは、一体どんな気持ちだったか。想像すると、胸が締め付けられる思いがした。


「だから、ここでは自分の感情を殺しているんだね。配慮しないよう、逆にストップをかけているんだね?」

「そうだ。出る杭は打たれるって言うだろ。余計なことは身を滅ぼしかねないと、散々に学んできた。不良品だからと返され、たらいまわしにされ……。あんな思いは、もうゴメンだ」


 そんなことがあったなんて……。感情を持つミヤだからこそ、傷ついただろうな。

 話をするにつれ、ミヤの漆黒の瞳から光はなくなっていった。だけど徐々に明かりが戻ってくる。


「俺は、誰からも『いらない物』だった。でも一人のじいさんと会って……その人は、俺をずっと傍においてくれた。一人身だったから、寂しかったのもあるんだろう。世話を焼く俺を一度も『気味悪い』とは言わなかった。さっきの店長のように、何度も『ありがとう』って言うんだ」

「嬉しかった?」

「……混乱した。何が正しいのか分からなくなった。そうして正解が分からないままに、じいさんは死んでしまった。俺はまた、一人ぼっちになったんだ。俺は一度も『引き取ってくれてありがとう』と言えないままで……後悔した、ずっと」


 そうか、いつかミヤが「やろうと思うことがあるなら先延ばしにしない」って言っていたのは、この経験があったからなんだ。

 ミヤは目をつぶった後。一呼吸置いて、ゆっくり瞼を持ち上げた。


「思い出屋さんに会ったのは、その時だ。

 店主は『ロボットのお客は初めてだ』と驚いた。

 そりゃそうだろう。

 思い出屋さんは、心に傷を負った人が行く場所。心を持たないロボットが行くなんて筋違いもいいとこだ。あの女店主も、目を丸くしていたよ」

「百年後の店長は、女性なんだね?」


 ミヤは頷く。


「竹を割ったような性格の人だよ。こっちが落ち込んでると知っていて、あの態度……。いや、おかげで寂しさなんてものは、だんだん吹っ飛んでいったから、良かったんだがな」


 あのミヤを唸らせる女性とは、一体どんな人なんだろう。よく分からないけど、強そうなのは確かだ。

 思い出屋さんの店主になる人は、もしかして癖のある人たちばかりなのかもしれない――そうなると、ますます自分には務まらない。だって私は平々凡々な女子高生だ。

 だけど、こういう時に何て声を掛けていいかは、何となく分かる。私が思い出屋さんの素質があるから、ではない。私たち人は、この世に生まれた時から心が備わっているからだ。


「未来では恣意的な目で見られるかもしれないけど……でも私は、人の心を持つミヤがいいなって思うよ。だからミヤの心のままに動いてほしい。優しくなることにブレーキをかけてほしくないな」

「俺の、心のままに……」


 考え込んだミヤは、何も言わなくなってしまった。変なことを言ってしまっただろうか……?


 心配しているとチャイム音が鳴り、一人の女の子が店に来る。転がるように入店する様は、ひどく急いでいるように見えた。


「あの、おばあちゃんが、倒れたと聞いて! おばあちゃん、無事ですか⁉」


 汗をダラダラ流す子は開口一番、コンビニの制服を着たミヤに尋ねた。見た目中学生の、ミヤと同じくらいの年齢の女の子だ。

 こんな若い子が、星浮き町にいたんだ。

 若いと言えば、昨日の男の子も――


 芋づる式で昨日の痴態を思い出し、顔にボンッと熱がこもる。続いて、店のラックにかかっているおせんべいを見てしまった。

 せんべいを持つ女――と男の子に認識されただろうな。あぁ、もう私って……。

 今はもうせんべいを見るだけで恥ずかしい。好物であるけれど、しばらくは食べられなさそうだ。


 一方、肩で息をする女の子へミヤは近づく。


「おばあさんなら救急車で運ばれました。もうここにはいません」

「そう……ですか……。あ、すみません、ええっと……」


 女の子は混乱しているらしい。口の中で「救急車」と繰り返す。だけど家族に連絡を取るためか、ポケットのスマホを取り出した。だけど手が震えているのか、ポロッと滑り落としてしまう。


「あっ!」

「おっと」


 流れるようにミヤが拾う。さっきも、あぁやっておばあちゃんを助けたんだろうな。さすがロボット、すごい動体視力だ。私ならきっと間に合っていない。

 女の子は「ありがとうございます」と、涙目でお礼を言った。ミヤはスマホを返す際、彼女の肩へポンと手を置く。


「おばちゃんの意識はある。今頃は病院だろう。家族に連絡も言っているはず。だから落ち着け。今度はあんたが事故か怪我するぞ」

「は、はい……」


 髪をポニーテールにした女の子は、ジワリと目に涙を浮かべた。その姿を見ると、ミヤも「げ」という顔をしたが、そばを離れることはしなかった。ポンポンと、何度も彼女の華奢な肩を叩く。


「ここを出る時、おばあちゃんはちょっとだが笑いもしていた。だから大丈夫だ」

「はい……ありがとう、ございますっ」


 おばあちゃんの安否を聞いて、ついに女の子は泣きだした。ポロポロと、次から次に涙をこぼす。ミヤはやっぱり「げ」という顔をしたけど、女の子の肩から手を離し、次に意外な物を掴んだ。


「ほらティッシュ。使え」

「はい……っ」


 今の行動は、ミヤの気持に基づいたものだろう。弱った女の子の心に、ミヤが寄り沿ってあげたいと思ったんだ。


 ミヤはこの時代でも「気味悪い」と謂われないために、心がないロボットを演じ続けていた。だけど店長や女の子と接して、「そんな演技はしなくていいかも」と気づいたかもしれない。

 そう思うと、心がスッと軽くなる。


「店長の悩み、思ったよりも早く解決するだろうな」


 きっとこれから彼は、心を込めて接客するだろう。ミヤの思うがままに、ミヤの気持ちが動くままに。そんな彼が見られたら私も嬉しい。


「さて、帰りますか」


 女の子のことはミヤに任せておくとして。用事が済んだし、私は帰って勉強するとしよう。

 表に停めていた自転車に、ヨイショとまたがる。


 盛夏。その暑さに苦しんでいるような、セミの鳴き声(というか唸り声)。だけど夜にはガラッと顔を変え、カーテンのように満点の星空が輝く。


「花火、したいなぁ」


 花火と星空、どっちがキレイだろう――なんて幼稚なことをふと思い立ち、もう一度コンビニへ入る。ミヤから「少女を連れ帰ってくれ」という視線を浴びたがスルーして、花火セットを買って外に出た。


 そうして、自転車をこいで二十分。

 この坂道を登れば、あとはおばあちゃん家までずっと下り坂だ――なんて思っていたら、途端に自転車がグラリグラリと揺れ始めた。次に全く漕げなくなって、仕方なくサドルを降りる。タイヤを見ると、明らかに前輪がパンクしていた。


「うわぁ、最悪だ……」


 大木の影に移動して、ハアとため息を吐く。こけなかったことは幸いだが、こっちに来てからというものの全く勉強できていない。あっという間に一週間がきてしまいそうだ。

 一週間経ったら姉がおばあちゃんの家に来て、私は一緒に帰ることになっている。この調子で勉強ができなくて、真っ白のテキスト、プリントがお母さんに見つかったらどうしよう――


「それは、まずいなぁ……」

「なにがまずいの?」


「え」とビックリして顔を上げる。そしてすぐ後悔した。なぜなら昨日天文台で会った男の子が、私の後ろにいたからだ。この炎天下の中、相変わらず涼しい顔をしている。肌が妙に青白い……木影にいるからだろうか?


「あ、もしかしてパンクしてる? ちょっと見せて」

「あ、ちょっと……!」


 男の子が、颯爽と私の横を通り過ぎる。彼は手が汚れるのも気にせず、自転車のありとあらゆる箇所を触った。

 ずっとおばあちゃん家にあった自転車だから掃除が――と心配していると、案の定、十秒も経たず彼の手は真っ黒けになってしまう。


 壊れた自転車は掃除もしていなくて、おまけに花火セットまで持っていて……。極めつけは、昨日のおせんべいだ。


 あられもない自分の姿に、ガクッと首を垂れる。同時に男の子の首筋にスッと汗が垂れた。心のどこかで「もしやこの子は幽霊?」なんて現実離れした予想をしていた私は、彼が生身の人間であると知る。そして少し、ほんの少しだけ、


「どうかした?」

「い、いえ。何も……っ」


 目の前の男の子に興味を抱く。

 彼は一体、どこの誰なんだろう?

 

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