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4. すぐそこにいる

「では、あなたが砂にならなかったので、転移の精霊を試す段階に移ります。魔導士を呼んできなさい」

 転移用魔力を準備する魔導士がまだ呼ばれていない。ということは妹が砂になり魔導士の出番が来ない可能性の方が高い、と考えていたことになる。

 それに気づいた彼女は声を荒げた。

「もういいです! そういうことなら自力で行きます!」

「歩いてくれると」

「わたしには…兄の真実を知る権利があるはずです! 誰も教えてくれないのに、夜に急に連れ出されて、無断で危険なことさせられて、しかも恩着せがましく、これはもう横暴というか非道です!」

 びしっ! と彼女が人差し指を非道傲慢魔術師の顔に突き付けた時、だらっとしたその袖からしゅるりと白煙が巻き立った。煙というより微細な光の粒子が、鳥の群舞のように意思を持って旋回している。

 魔術師と魔闘士が三人同時に、あっ、と驚愕した。

「精霊! ローブに隠れていたのか」

「なら、あなたのお兄さんの専属精霊ですよ!」

「何の能力持ちだった? 識別鏡がどこかに…」

 慌てる魔術師たちを横目に、彼女はエプロンのポケットから蓄魔晶石を出す。彼女が連行されたのは夕食の料理中だった。鍋を火にかけるところだった。発火と火力の維持調節の紋が刻まれ、それに必要な魔力が貯められた蓄魔晶石を使って鍋を加熱しようと、ポケットに入れてあった。

 火の精霊は無数にいて王国中を網羅しており、誰もが利用できる。人々は生来、精霊を操る魔能、魔力を操る魔導を持っているからだ。平均的には火の精霊を炊事や暖炉、照明に使える程度だが、魔能が特に優秀なら魔能士、中でも戦闘魔術が得意なら魔闘士、魔導が優秀なら魔導士、総じて魔術師と呼ばれる。

「魔力を燃料にして、火であの紋を模写してー、」

 床の転移紋より一回り小さな紋が火で描かれ、彼女の足元に着地する。

「うわっ…えっ、召喚文言は? 発火の紋は?」

「嘘だろ、転移紋を目コピした! 妹さん魔導士だっけ?」

「待ちなさい! 杖…水性の杖はどこだ…!」

 傲慢魔術師が自らのローブを漁っている間にも、彼女は事を進めていく。

「で、大気の魔力を集めてー、ぎゅっと凝縮、貯める。集めて、ぎゅーして、貯めてー…」

「何だあの蓄魔晶石は! あのサイズであんなに溜められるなんて、魔術省にも…」

「詠唱すっ飛ばすスタイルは、あの人の…」

「やめなさい! よしありました、祝福されし王の忠実なしもべたる水の精霊よ、我ここにその恩寵を請い願い…」

 彼女が蓄魔晶石から魔力を複製転移紋に魔導すると、周囲の空気が満足に身震いするように揺れた。必要消費魔力に足りた徴候だ。彼女はそこへ足を踏み入れる。

「あちち、はいっ転移の精霊さん、お願いします!」

「待ちなさい、永久に輝く賢王の実直なしもべにして水を司るせいれ、ああああ」

「わー! 転移精霊もいけそうだー!」

「すごい、北嶺と自力で転移するの、あの人以来だぞ!」

 え、どの人…と訊こうと振り返った彼女の目に映ったのは一瞬の多色の乱舞、その後に一面の雪景色だった。

「寒い…さっっむい! 痛い? 寒すぎ!」

 急いでぶかぶかローブの生地を体に引き寄せる。見回すが深い雪と、雪明りにおぼろげな岩影と、濃紺の空の細い月しかない。

 だけど、と彼女は寒さに歯をがちがち鳴らしながら考える。

 紋とは精霊への指示の一部始終がすでに描き込まれているものだ。転移先は北嶺前線基地付近に違いなく、道が整備されていないわけがない。

 彼女は火の消えた転移紋跡で蓄魔晶石を握った。

「外灯あるなら発火紋で点くね」

 幸い火の精霊は山岳地帯まで行き届いていて、点火した外灯が雪山に炎の点線のように浮かび上がる。

「もしかして道路の融雪設備もあるかな? あっ、それっぽい小屋発見」

 外灯が照らす岩陰に石積みの小屋があった。大きな炉が据えられ、その内部を太いパイプが通っている。

「王都中央並みの設備だね。この循環パイプを温めれば! あーあったかい! 鍋煮込み用蓄魔晶石がこんなに万能だったなんて、ありがとう兄さん」

 さすがに道の雪を溶かすには多くの魔力が必要だった。彼女が大気中からせっせと魔力を採集していると、

『あなたは何てことを!』

 やけに近くから傲慢魔術師に違いない声が聞こえて、小さく飛び上がる。

「どこ?」

『軍の転移紋を勝手に使うなど重罪です、国外追放刑で』

『ご無事ですかー! 転移できましたかー?』

『これは遠隔会話です、施術したピンがローブの襟元にあります。指でもあごでも、どこかで触れながら話せば音の精霊が我々に届ける施術ですので! 使う度に精霊を呼び出さなくてもいい迅速簡便仕様、これお兄さんたちの発明品ですよ』

 首元の生地をびょっと伸ばしてみると、魔術省の仰々しい紋章をかたどった彫金細工のピンが留めてあった。

「こうかな? 聞こえますか? 雪山なので、転移はできてるかと」

『すごいな! 何がどうなってるのか分からないがすごいな!』

『聞きなさい、今すぐ下山して魔闘士の先導と監視のもと、次は歩いて』

『基地まで、ああ今は研究所でした、研究所まで道がありまして』

「外灯と融雪装置を見つけて稼働させました」

『賢い! さすがあの兄にしてこの妹!』

『その勢いで門番も突破だ! 応援しています!』

『あなた方は減給です。魔闘士という人種は本当に魔能ばかりで思考が足りな』

「この遠隔会話ピン、特定人物の会話をブロックすることはできませんか」

『残念ながら、我々の権限では』

『お察しします』

『あなた方、明日からの寝床を心配しなさい。我が東塔派の魔術師たちが一斉に、何らかの告発をするでしょう。詭弁であろうが、東塔が黒と言えば黒にできるんです』

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