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23. 嫌疑をかけられる

 『古株魔闘士の手帳が情報統制に抵触するか審査』と書きかけていた新米審査官は文に線を引き、『手帳をご遺族にお返しする』と書き直した。

 寄り添う、と呟いて手許を見つめる。

「先輩魔闘士さんが古株さんのご遺族の見守りを『備えていた』と後輩さんが言ったのは、鐘でチン! の特許使用料受取人に古株さんの妻を指定していたことだと考えられます」

 後輩は先輩に頼まれて特許局へ提出する書類を代筆した。先輩は箱に鐘でチン! を入れ、提出を代行してもらうつもりで後輩の机の上に置いた。そのまま二人とも討伐遠征へ出発し、戻れなかった。

 遠征終了後に先輩の箱だと分かって大柄魔闘士が形見分けの場、兄妹の家へ運んだ。妹の許可を得て中身を確認し、特許局への申請物だと知って、大柄が代行を引き受けた。

 鐘でチン! の特許使用料受取人に指定することが先輩にとって殉職後の遺族への気遣いであり手配であるなら、受取人のもう一人は妹であるのが一番自然だ。元魔闘士とはいえ現役で働く特許局魔術担当部長になっているのは明らかに不審だ。

「大柄さんと魔術担当部長が共犯という見立てで聴取に行きます」

 新米の推測に、中堅審査官も同意する。

「先輩くんが研究や魔獣弱体化のために古株氏を洗脳、脅迫、説得などで魔獣の巣に向かわせ、事前に口裏を合わせておいた内容を手帳に書かせた可能性を考えた。が、それで得られる先輩くんの利益が小さすぎるし不確実すぎる」

「では、先輩さんの報告通り事故だと」

「うん、古株氏は事故で遭難したと考えるのが自然だ。様々な可能性を検討するのが仕事とはいえ、彼らを疑いすぎていたようだ」

「白い薬については?」

「そう…だねえ…きっと特許を取得するつもりで妹さんを実験台に」

「同意なく?」

「アウトだね」

「妹さんは冗談で言ってますけど、先輩さんは後輩さんの爆睡中に本当に魅了術をかけて共同研究や使い走りで奉仕するよう操作したかもしれません」

「有り得る。僕らは疑う職業。公平と公正のためだからこそ、あらゆる可能性を疑わざるを得ない孤高にして苦悩の審査官。王の剣である魔闘士たちさえその鋭敏な洞察と追及から逃れることは出来ない…木の葉舞う逆風の中、我々は目を凝らして行くのだ」

「職業ものもいけるんですね」

 次に再生する記憶石を取り出しながら、新米がふと首をかしげる。

「妹さん、分かりやすいようでだんだん非言語思考がちになるので、言葉から推測するしかない時があります」

「頭の中で言葉を使わない、意識せず判断するタイプか。自分の行動をはっきりと説明できないから、聴取に手間取る。理由はあるのに『どうしてやったのか自分でも分からない…』と感じる人たちだな」

「考える間もなく後輩さんが次々驚くようなことを言うから、思考が止まりがちになるのも無理はありませんが」

 再生される映像の中で、彼女はまだ眠れぬ夜を過ごしていた。寝袋の中で蓄魔晶石を充填しながら、時々奇声を発して回転している。

「あなたがた兄妹に魅了されている、なんて後輩さんが爽やかに言うから…」

「罪な男だ」

「誘惑罪でしょうか」

「彼に誘惑しているつもりはなさそうだった」

「魅了罪」

「たらし罪」

「思考停止させ罪」

「奇行させ罪」

「確定です」

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