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22. 眠くならない薬を仕込む

「兄は手帳の魔闘士さんに奥様を見守るよう頼まれています。兄がどうしていたか知りませんか」

 妹は静かに座り直してから聞いた。

「知っています。殉職者のご遺族を魔闘士隊長、魔闘士数名が定期的に訪ねていますから。古株先輩の奥様から、先輩が援助してくれていると伺ったことがあります」

「えっ、じゃあ今は急に援助がなくなってきっとご心配ですよね。いくらだろう、わたしが工面してお届け…」

「大丈夫です。先輩は手配していました…先輩が備えていたと、あの書類を代筆したときに気付くべきでした」

「兄が何を代筆させたんですか」

「遺される人への気遣いです。僕はそれを踏みにじる者を看過するつもりはありません」

 所々にかすれた血の跡がある古株魔闘士の最後の筆跡を、妹はじっと見つめる。

「魔術省が兄の遺品として届けてくれた物の中に、手帳はなかったんです。情報漏洩防止のための規則だろうって分かってます。私はいいんです、兄は使ってなかっただろうから。でも、これは…」

 はい、と後輩が穏やかに先を促す。

「これは遺書で…自分のことを気にかけてくれたと知れる書置きがあったら、嬉しいと思うんです」

「情報統制に抵触しない部分はご遺族が受け取れるよう、審査部に判断を仰ぎましょう。大丈夫です、あなたの言葉は審査部に届きます」

「後輩さんに聞きたいことがあります」

 妹は顔を上げ、後輩魔闘士をまっすぐに見た。よほど真剣な顔だったのか、後輩は普段から良い姿勢をさらに改める。

「兄は最期に何て言ったんですか」

『除染室に転移して、先輩は少し笑って一言呟き…』

 そこまでは聞いていた。何を呟いたのか、後輩の語る兄の最期の情景に頭も胸もいっぱいで、聞く余裕も勇気もなかった。

 後輩の返答は、少し言いにくそうに一拍遅れた。

「『君を善くしすぎたかな』…でした」

 妹の反応も一拍遅れた。

「はい?」

「ごめんなさい、先輩の最後の言葉が妹さんじゃなくて。僕が闇性魔力を使って先輩を基幹除染室に転移させたりしたから、呆れながら労わってくれたんだと思います」

「善くしすぎた…使い走りばかりさせて、後輩さんの奉仕精神を強くしすぎたってことでしょうか。後輩さんってなんかもう麻痺してますもん。むしろありがとうございますくらいの思考で。魔術じゃなくても精神操作って出来るんだなって」

「えっと…、」

 後輩は耳まで赤くなっている。

「弁明の機会をください」

「どうぞ?」

「僕としては奉仕ではなく…助力と言う方が自然です。先輩の突破力というか突破させる意志というか、突破したその先が楽しみすぎてしょうがない的な、悪童みたいだけど真っ直ぐな情熱は衝撃的で」

「あー…兄さんの、笑顔でガツンと壁に顔から突っ込んでく感じが放っておけないのは分かります」

「失望させたくなかったんです。僕が助力すれば失望させずに済むんじゃないか、と感じてしまって。先輩の隠し事が色々と発覚した今では、一方通行な僕の驕りだったと痛感しますが」

 妹はうんうん、と共感してうなずく。

「私も色々隠されてたみたいですね。毎晩のように白い薬も飲みながら兄のために蓄魔晶石を充填してたのに、兄の最期の言葉は後輩さん…いいんです兄は善き後輩だー善き後輩だーって言って可愛がっていましたからね、いいんです」

「先輩助けて…。伝えるのをためらってしまい、申し訳ありませんでした。ところで聞き捨てならない白い薬というのは?」

「使ったことないですか? 夜遅い作業の時に温かい飲み物は眠気が増すので危険なんです。そこで兄特製の『眠くならない魔法の白い錠剤』です」

「初めて知りましたが、飲み物より真性に危険な代物では。いや…本当に魔法ならいいのか?」

「『すぐに眠れる魔法の錠剤』もあるんですよ。作業が終わってから飲めばすぐに二日眠れます」

「それもいけないやつです。魔法かどうかにかかわらず」

「そう、危険なんですよ。どっちも白い錠剤なので間違えないように、せめて眠れるほうは粉にしてもらわないと。その方が効き目も早く出ますし、増量も簡単で…」

「さらに危なくしないでください。使ったことはありませんが、使われたことはあるかもしれません、先輩に。眠れるほうを」

「家で爆睡した日がありましたね。実は兄がパイに仕込みました。寝込んだ後輩さんのローブを脱がせて魅了の術をかけたんです。『あなたは魚を好きになるー』」

「『あなたがた兄妹を好きになる』なら、とっくにかかってます。さあ、ずいぶん夜遅くなってしまいました。今度こそ休んでください」

「後輩さんは無自覚にわたしを眠らせませんね…」

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