13. 疑われる
新米審査官も中堅審査官もしばらく押し黙ったまま、暗くなった水盤の水面を見つめていた。
中堅が慎重に口火を切った。
「後輩魔闘士くんの話が真実なのかは、その場にいた者しか分からない。闇性魔力の発生源が北嶺自体だという話も含め、彼の話はあまりに我々の…日常からかけ離れている」
「そう…いう見方もありましたね。闇がちな後輩さんは精神に有害な闇性魔力の影響下にあるので。ただ、あまりに真に迫っていて…圧倒されてしまいました」
新米は椅子に背を預けて、ふうと息を吐く。中堅も首を回して緊張を緩めた。
「信憑性を確認するのが望ましい。彼の精神鑑定次第ではこの審査は打ち切りになる。闇堕ちかどうかにかかわらず鑑定は可能だし有効だからね」
「討伐当日の詳細を魔闘士隊長に聴取しますが口外禁止令下、情報統制下にあるかもしれません」
「精神鑑定の依頼先は注意深く選んだ方がいい。後輩くんは分家とはいっても東塔派閥を牛耳る魔術師一族だ。だから話が複雑になる」
中堅は物憂げに続ける。
後輩くんは魔獣の死骸の調査が終わるまでは、闇性魔力耐性が高い者として…こういう言い方は良くないが、使い道がある。命を猶予されている。
後輩くんを見失ったら、東塔派は身内から闇堕ちを出したうえに、使えるから生かしてやっている道具の脱走を許したことになる。あるいは闇堕ちから変性した新たな魔獣の脱走、かもしれない。大失態だ。だから傲慢魔術師が消息不明を内々に収めようと動いた。
こうした不安定な状況下で後輩くんの精神鑑定の話を聞きつけたら、傲慢魔術師が豪語したように黒と言えば黒にできる東塔派だ、鑑定結果をねつ造することもできるだろう。使えるが不安要素の強い道具に見切りをつけるかもしれない。
「一方で後輩くんは故意に王国を危機にさらしているかもしれないんだ」
闇性魔力の発生源は北嶺と言う話が真実だとする。
後輩くんは妹さんの話から、彼にとっての英雄である先輩魔闘士くんが英雄扱いではないどころか、その献身的な戦死さえ世に公表されていないことを知った。
後輩くんがこの処遇に怒り、魔術省や社会に不満をぶつけるなら、闇性魔力の増大を報告せず王国に被害を与えることが強力な復讐になるのでは?
「後輩魔闘士さんが情報隠蔽によって破壊活動を企てているという可能性は、彼が見切りをつけられる…懲罰的な処遇を決定的にさせかねませんね」
「ただ、記憶石を送ってきた匿名告発者は後輩くんだと推測される。彼を圧倒的に不利にする記憶石を彼自身が審査部に送ってはこないだろう」
「記憶石は犯罪予告で、動機を見させられているのかもしれません」
新米と中堅の審査官は二人そろって、うーんとうなる。
「堅牢な旧軍事基地内にいる魔闘士の活動を物理的に阻止するのは難しい。彼はたくさんいる火の精霊を使い捨てながら戦うことも出来るんだ。落ち着いて、もう少し再生を続けてみよう」




