11. 命運を握る
「たいへん…な」
と新米審査官が呟けば、
「ことになっ…た」
と中堅審査官が継いだ。
「記憶石の日付…ほんの一週間前ですよ」
「百日間の戦勝記念祝祭の費用は、確認体制が不十分だった魔術省に請求されるべきなのか?」
「そこですか」
「いや魔獣を倒した、すなわち戦勝は虚偽ではない。闇性魔力消滅させたぞ万歳祭ではない、という意味で国民を騙してはいない」
「北嶺が闇性魔力の発生源だという調査は、どこまで上がっているんでしょう? もし魔術省が隠蔽していて王に届いていなければ大大大問題では」
「後輩くんが誰にも報告していない可能性もある。魔獣が時折暴れて起きる雪崩風だけでも、山岳地帯で汚染や倒壊の被害が出て住めなくなった村もある。それを上回る闇性魔力が蓄積しつつあるんだ。東塔どころか王国を滅ぼしかねない事態だよ」
「王国滅亡ですか。危険思想の闇がちじゃないって話だったのに」
「いやいや大丈夫だ、きっと妹さんが救ってくれる。堕ちた魔闘士は全てに背を向け闇に向かう。彼を追いかけて彼女は走り続け、ついに倒れ込んだ時、暗雲が割れ、蒼天からまばゆい光と共に白い鳥が神の杖を運んで舞い降りてくる…」
「思春期の空想に逃げないでください」
「だめか。闇性魔力測定班の連絡先を探しておくけど、魔術省の下部組織だから動くかどうか…」
「とにかく急いで次の映像をチェックします。鐘でチン! の特許問題なんか後回し…なんですが、そういえばさっきの記憶の中で、後輩さんも何か勘づいているようでした」
左手で次の記憶石を準備しながら、右手で特許登録書の複製書類をめくる。
鐘でチン! の発明者は予想通り先輩魔闘士、特許権者も同じ。
特許使用料の受取人は二人の見慣れない名前だ。一人目の名を魔術省員名簿で検索すると、同姓の古株魔闘士が浮上した。一年前の魔獣定期観測の際に行方不明になり、北嶺の門に識別紋章が残されたままの人物だ。特許使用料の受取人はその妻だった。
新米審査官の胸がざわつく。
二人目の名は特許局魔術担当部長の名前だった。経歴を見ると魔闘士を引退し配置換えになったと判明する。
受取期間はそれぞれ死亡時まで、二人の死亡後は無償公開。
申請代理人、つまり実際に特許局に書類を提出した人物欄は後輩魔闘士だったが訂正線が引かれ、別の名前が書かれている。魔獣討伐で英雄となった魔闘士の一人だった。事情聴取の日程調整、とメモする。
鐘でチン! 特許の関連項目の一、紋の細分化と実行アルゴリズムの特許。二、紋の実行アルゴリズムを蓄魔晶石に刻印した刻紋蓄魔晶石の特許。
二つともに特許人は先輩後輩魔闘士二人、無償公開、申請代理人は後輩魔闘士。
「無償公開? 大金持ちになれるのに! 寛大すぎる…そして後輩さんの使い走りぶりがすごい…」
「儲けじゃなく、悪用防止に権利を明白にしておくための特許取得という印象だね。だけど、鐘でチン! だけが無償公開じゃないどころか、特許使用料の受取人は全くの第三者に見える」
「特に特許局魔術担当部長が不自然すぎます」
担当部長が魔闘士を除隊したのは先輩魔闘士の入隊前で、書類上は彼らに直接の関連はなく、繋がりがはっきりしない。
一方、妻が特許使用料の受取人になっている古株魔闘士と先輩魔闘士には接点が見つかった。古株魔闘士が行方不明となった一年前の魔獣定期観測の際、数名の魔術師と共に先輩魔闘士も北嶺へ赴いている。
特許局魔術担当部長の資産状況と、先輩魔闘士との関係を調査。そう書き留めてから、新米審査官はひとつ息を吐いた。
「審査のキーワードがフィッシュパイである理由は、特許使用料受取人が不正に関わっているから…かもしれません」
中堅審査官も同意してうなずく。
「受取人は本来、妹さんだった可能性がある。常に先輩魔闘士くんのお使い係だった後輩くんは、恐らくそれを事前に知っていた。だから疑問を抱いた。妹さんが使用料を得ているはずなのに、その供給源である鐘でチン! をよく知らないことに」
「そうですよ。そもそも、フィッシュパイを加熱して焦げ目までつけようという先輩魔闘士さんの情熱、もはや執念から生まれたであろう発明品を、料理担当だった妹さんが所持していないのが不自然です」
さらに調べると、鐘でチン! の特許申請代理人として記された魔闘士と特許局魔術担当部長は二人とも東塔派閥だった。東塔派は数が多いとはいえ、これも偶然ではないように思えてくる。
「状況から見ると、この不正の匿名告発者は後輩魔闘士さん?」
「可能性は高いようだ」
「あ、次の記録石の再生準備ができ…ああっそうでした、北嶺が闇性魔力なんでした、特許はもうどうでもいいです、王国が闇にのまれたら特許も全て無意味です」
「妹さんにどうか白い鳥よ、神の杖を…いや紋は最小自動化、杖も不要のご時世だ。神の…神の、実行アルゴリズム刻紋入り蓄魔晶石を…これはさすがに現実におもねりすぎている」
「白い鳥が彼女に渡したのは銀の輝く、鐘でチン! の蓋。彼女がそれを後輩さんの頭にカパッとしてチン! その澄んだ音に闇は祓われ、我に返る後輩さんなのでした。めでたし」
「そして彼の髪はチリチリに…やめようよ! そんなオチは!」




