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悪魔の手記  作者: 月影悟
6/8

静かな想い

深い森の中、騎士デイモンはただ馬を走らせる。吹き抜ける冷涼な風が、これから彼を呑み込むであろう嵐の予兆を、一瞬の静寂として運んでくる

ついに彼女の目から涙が数滴こぼれた。うつむきながら

「私…私…意識が戻った時には、もう手遅れだった。両親の死体のそばに立っていて、血まみれで…」

デイモンは同情の念を込めて彼女の肩に手を置いた。

「お前の話を聞いた時…あの悪夢を再び生きているようだった。娘たちは逃げろと懇願した。アナだけは、お前を殺すと確信していた」

「彼女が願うなら…」

彼女は小さく笑った。

「今でも信じられない…あなたが私を助けてくれたなんて」

「俺もだ」

「でも、あなたの事情は?なぜこんな姿になったの?なぜ私を助けたの?」

「長い話になるけど、要するに吸血鬼、特に吸血鬼への憎しみは、何世紀も前の事故が原因なんだ」

「待って、何?何歳なの…」

「そうだろう。奇妙に聞こえるが、今は話さないでおこう。まあ、狩人になったばかりの頃、スコットランドで吸血鬼を始末するよう命じられたんだ。あのクソ野郎が感情を持った空っぽの怪物じゃないような振る舞いをし始めた。俺はそれを聞き、信じてしまった。その結果、村人全員が虐殺される羽目になった…」

彼は目をそらした。記憶が脳裏を駆け巡る。

「あの日から、俺は奴らの言うことなど一切聞かなくなった。ただ殺し、進むだけだ。だがヘレナは他の奴らとは全く違っていた。奴らも皆そうだった。最初から俺が彼らに対して手加減していた唯一の理由は、 彼らに対する確かな疑念にもかかわらず、互いに感情を見せ合っていたからだ。それが俺には理解できなかった。あまりにも混乱した。そしてお前は、彼らのために即座に死ぬ覚悟さえしていた」

「だが、これからどうするつもりだ?村も王様も、お前が何かを持ってくるのを待っている。おそらく我々の首だろう」

「別に。村には悪魔…吸血鬼を倒したと伝えればいい。奴らを殺し、心臓に木の棒を突き刺したら、その身体は灰になったと」

「そんなに俺たちを憎んでるのか?」

「彼らは吸血鬼や怪物、悪魔を憎んでいる」

「私もその一つに数えられるのか?」

デイモンは彼女の方を向いた。

「お前をそう呼ぶ理由はない」

「俺も殺した…」

「お前が言った通り、奴らは当然の報いだ。信じてくれ、俺がお前の立場なら同じことをしていただろう」

彼女は微笑んだ。その瞳は昼間でも輝いていた。

「何がそんなに面白いんだ?」

「何でもない。ただ…こんな風に誰かと話すのは久しぶりだ。普通の人間みたいに…」

「普通の人間は、私と話すのをあまり楽しんではいない」

「なるほどね」

「おい!失礼だな」

二人は少し笑った。彼女の性質にもかかわらず、彼女は彼が今まで出会ったどの吸血鬼とも違っていた。彼女は優しかった。

「そろそろ村に戻った方がいい」

「どうして?ここが気に入らないの?」

「アナって名のうっとうしい奴がいるのに、どうして楽しめるんだ?」

彼女はまた笑った。

「あなたたち、まるで兄妹みたいね」

「それでも、私はここに来た目的は…何だったか。とにかく終わった」

「なるほど…ハンター様は狩りを終えられたのですね」

「ああ…そうだな」

二人は振り返り、再び広間へと足を踏み入れた。少女たちがテーブルに座り、朝食をとっている。彼はゆっくりとヘレナのそばへ歩み寄り、彼女の肩に手を置いた。

「あれはケーキか?」

ヘレナは少し顔を赤らめて答えた。

「盗んだんじゃないわ。誓うわ」

「いや、盗んでないよ。自分で作ったんだろ!」

「実は…」

「私が作ったの!私が焼いたのよ!」

アナは席から飛び上がった。

「美味しそうでしょう?」

デイモンは嫌そうな顔で彼女を見つめた。

「そんなもの…何であれ食べるくらいなら死んだ方がマシだ」

アナはテーブルを拳で叩いた。彼女の目には純粋な怒りが浮かんでいた。

「もう一度言ってみろ…」

「最悪に見えるわ!」

「この野郎!!!」

アナはテーブル越しに彼に飛びかかろうとしたが、リサが二人を掴んで引き離した。

「まったく、お前たち二人、同じ場所にいられないな」

「でもママ!彼が先に始めたんだもの!」

「お前が料理できないのは私の問題じゃない」

「もういい、二人ともやめなさい!」

アナは席に戻り朝食を続けた。するとリサがデイモンを見た。

「デイモン…一緒に…朝食を食べない?無理強いするつもりはないのよ。 もし行きたいなら、行っていいのよ!ただの提案だったの…」

デイモンは彼女に微笑んだ。

「もちろん!あれだけ血を失ったんだから、腹ペコなんだよ」

彼女は少し赤面し、素早く彼の手を握った。

「でも私の血をあげたのに…そんな風に感じるべきじゃないわ…」

「何だって?!!!」

「ええ、あなたが気を失った後、私があなたを殺してしまうかもしれないと怖くて、私の血をあげたの。人間の体の異常は、大抵それで治るから」

デイモンは椅子を掴んで腰を下ろした。

「だから効かなかったわけだ!」

リサは彼の隣に座った。

「ハンターは任務前に狼男の血を飲むの。吸血鬼にとっては毒みたいなもので、噛まれるのを防いでくれるのよ」

「だから昨夜、私にあのことが起きたんだ!」

アナはケーキをひと口食べながら言った。

「君はそんなに飲んでなかったから、ただの普通の毒みたいなものだったんだ。でももしもっと飲んでたら…まあ、悪いことが起きてたかもしれないけどね」

「私は? 私に襲いかかったあの剣は何なの?」

ヘレナは彼女の肩に手を置いた。

「オーロラは一晩中、痛みに泣き続けていた。ようやく安らぎを得られたのは、日の出から一時間後だった…」

デイモンはうつむいた。自分のしたことに恥じ入った。

「あの剣は狼人間から授かったものだ。彼らの骨で造られている。血と同様に、吸血鬼の自己治癒を阻む。君が…私が…」

彼は言葉を続けられなかった。

「君たちにこんなことをしてしまって、本当に、本当に申し訳ない。昨夜経験したことは、君たちが受けるべきものではなかった。誰一人として…」

彼はリサを見た。突然、何かを感じた。柔らかい何かが…

「最初に襲ったのは私たちだ。実際、私の計画だったから…謝るべきは私であって、君じゃない…」

アナが彼にケーキの一切れを差し出していた。

「もしあなたが私たちの言うことを聞かなかったら…ヘレナの言うことを…私の計画が馬鹿げていたせいで、きっと妹たちは死んでた…だから…私…私…ごめんなさい…」

アナはテーブルに顔を伏せ、声をあげて泣き出した。姉妹たちは慰めようとしたが、どうすればいいのかわからなかった。リサは何か言おうとしたが、彼女も言葉を失っていた。こんな経験は誰一人としてしたことがなかった。昨夜、村で死そのものを目の当たりにした。吸血鬼であろうとなかろうと、彼女たちはまだ十代の少女だ。この出来事は彼女たちにとって重すぎるものだった。 耐えられる 範囲を超えていた。デイモンもその気持ちを知っていた。彼らより幼い頃に味わったものだ。弱さを感じる感覚を彼は理解していた。アナの涙は、彼の遠い過去を思い出させた。

「わあ…」

突然、全員がデイモンを見た。あの瞬間に最も予想外の言葉だった。アナが顔を上げると、デイモンが彼女に渡したケーキを食べていた。

「少し冷めてるけど、それでも美味しい。もう一片もらおうかな」

皆が困惑した。

「でも、君が作ってくれたからって食べないなんて、すごく悪いことじゃない? もう二度とこんな機会はないかもしれないから、本当に良かったよ」

それでも彼らが何を言っているのか理解できなかった。

「だってさ、起こり得たけど起こらなかったことに泣いても意味ないだろ?起こらなかったことを楽しんで幸せになるしかないんだ!」

オーロラは彼をもっとよく見ようと少し身を乗り出した。

「デモン、それって今まで見た中で最悪の同情だよ!」

「まあ、せめて試しただけマシだろ…」

突然、足に重みを感じた。アナが彼の足の上に座り、抱きついてきたのだ。彼女は耳元で囁いた:

「ありがとう…」

「何に?お前を殺さなかったこと?それとも最悪の同情の仕方?」

彼女は涙をぬぐいながら笑った。

「両方かな」

アナが抱きしめていると、別の手が彼の手に触れた。振り返ると、リサが微笑みかけていた。アナは彼から降りて元の席に戻った。ヘレナもオーロラも今や微笑んでいた。少なくとも彼女たちを少しの間笑顔にできた。それだけで十分すぎるほどだった。朝食後、女の子たちは掃除を始め、リサとデイモンは城を出て一緒に散歩に出かけた。

「木も地面もまだ濡れているわ。ドレスを汚さないように気をつけて」

「昨夜、あの汚れたブーツで私の家に入ってきたくせに、今さら私のドレスに一、二の泥汚れがつくのを心配するなんてね」

デイモンはうつむいた。

「昨夜は正気じゃなかった。それに俺のブーツが汚れてるのは、いつも森や海の真ん中にいるからだ。わざわざきれいにする必要なんてない。それに君のドレスほど高価でもないんだ!」

彼女は笑った。

「これは私と同じ年頃よ。当時は高価だったけど、もう価値なんてないと思うわ」

「お姫様のものよ。もちろん価値があるわ!」

彼女は目をそらし、木のそばに立ち去った。

「でも、もう私はお姫様じゃないから…」

デイモンは彼女のそばに立った。風が木々の間を駆け抜け、彼女の美しい髪をかき分けた。その髪が彼の目の前でひらひらと舞う。

「ただ願うのは、娘たちが私のように生きられなかった人生を歩めること。この世界で普通の女の子として。王女でもなく、無防備な少女でもなく、狩られる側でも…狩る側でもない人生を」

「年齢の割に、本当に彼女たちの母親に見えるわ」

彼女は苛立ったような目で彼を見た。

「私の年齢?何歳だと思ってるの?」

「19?」

「190歳よ!」

数秒間、デイモンは表情を崩さずに彼女を見つめることに成功した。しかしその後、彼は笑いをこらえきれなかった。

「なんで私を笑うの?失礼よ!」


「ごめん…ごめん!だって君は見た目は19歳の女の子で、声も19歳の女の子なのに、今考えてみたら、本当に190歳の女性みたいに振る舞ってるんだもん」

「ひどい人ね!!!」

彼女は何度か彼を叩こうとしたが、彼は逃げてしまった。今度は彼女も笑っていた。森の中を彼を追いかけていると、突然彼の姿が消えた。彼女はあちこち探したが、見つからなかった。

「わかった、あなたの勝ちよ!出ておいで」

声ひとつ聞こえない。

「ねえデイモン。噛んだりしないから、約束するよ!」

もう少し待ってみたが、やがてがっかりした。

「お願い…私、狩りがそんなに得意じゃないの…」

彼女は低い声でそう言った。突然、背後から足音が聞こえたが、振り返ると、彼女はデイモンからほんの数インチの距離に立っていた。彼にあまりにも近すぎて、彼の息遣いを感じられるほどだった。

「やったぞ!」

「こんなことするなんて、本当に悪いわね!」

「お嬢さん、申し訳ありません。二度とこんなことはしませんから!」

「やめておいた方がいいわよ、さもないと次は血をあげないから!」

「あら、それはお楽しみ?それともお約束?」

彼女は近づき、デイモンを見つめながら彼に寄り添うように身を寄せた。

「またそんなことしたら、お仕置きしてやるわ。もう血はあげない。それに約束するわ…」

彼女は彼の手を掴んだ。

「飲むのをやめないわ!」

デイモンは彼女に微笑んだ。

「今のはまた俺を挑発してるだけだぞ!」

二人は笑い合った。 互いの瞳を見つめ合いながら。リサがデイモンの体に両腕を絡めつけると、彼の手が自分の を包み込むのを感じた。心臓が激しく鼓動する。かつてない速さで。あの夜、人間性を失った時に失ったと思っていた何かを感じていた。それが今、目の前にあるのに、まだ信じられなかった。理解しようとするのをやめて、ただ感じようとするべきなのかもしれない。そうして初めて、この感情は…

「ハンター?!!!」

二人は一斉に振り返り、デイモンを呼んだ者を見た。老人がデイモンの折れた剣を握りしめ、彼らの前に立っていた。その背後には、棍棒や斧を持った男たちが数人並んでいた。

「ここで何をしている?」

彼女は荒い息を吐いていた。

「私たちが…吸血鬼に殺されたと思ったんです!」

ほぼ二世紀ぶりに、これほど多くの人々の真ん中に立つのは初めてだった。

「昨夜は誰も眠れなかった。お前を一人で行かせるわけにはいかないと…助けるべきだと思った。何しろここは我々の村だ」

突然、老人が彼女を見た。

「彼女は誰だ?ハンターか?」

皆が彼女を見つめていた。全ての視線が彼女に釘付けだ。ささやき、視線、斧…気づく前に、彼女は後ずさりしてデイモンの背中にぶつかった。どうすればいいのか。何を考えればいいのか。もしかして彼の計画だったのか?彼に連れ出され、今や罠にかけられた。なんて愚かな…彼は結局ハンターなのだから。 逃げ場はなかった。デイモンの手が彼女を包み込むのを感じると、彼女はうつむき、目を閉じた。終わりを受け入れる。

「彼女はあの城に閉じ込められた」

「閉じ込められた?」

「ああ。あの城に入った途端、彼女の助けを求める叫び声が聞こえた。吸血鬼は村での俺との戦いで傷ついていたから、 城に戻って彼女の血を吸い、力を回復しようとしたんだ。あの化け物が彼女をこれ以上傷つける前に、俺が間に合ったのは彼女の幸運だった」

リサは目を開け、微笑みかけるデイモンを見つめた。

「なんてヒーローなんだ…じゃあ、この大勝利を祝おうじゃないか、ハンターよ!!!」

皆が武器を空に掲げながら、彼の名前を叫び、歓声を上げた。

「狩人よ、永遠に生きよ!」

老人が前に進み出て、優しくリサの手を握った。

「さぞかし大変だっただろう。我が村はすぐ近くだ。もしこの土地の者でないなら、好きなだけ滞在していいぞ」

「あの人は村のパン職人だ。きっと君も彼のケーキを気に入るだろう!」

老人は後ろにいた他の男たちに向き直った。

「さあ、村へ戻ろう、みんな。今夜は盛大な宴だ。お前たち全員に配れるだけのケーキを作るため、人手が必要だ!」

再び歓声が上がり、一行は村へ向かって歩き出した。デイモンとリサは少し離れた位置を歩いていたが、ある地点でリサが突然立ち止まった。

「どうしたの?」

彼女は目をそらした。頬は真っ赤で、髪の毛の先をいじっていた。

「私…できない…」

「でもどうして?」

「だって…」

デイモンは彼女の真正面に立った。そして彼女の顎をつかみ、自分を見るようにさせた。

「あの人たちは、君をありのままの姿で見ている。普通の女の子としてだ!」

「でも私は普通の女の子じゃない。そうじゃない?」

デイモンは答えなかった。

「彼らは私の死を祝っている。親は子供を怖がらせて家に閉じ込めるために私の話をし、年長者は常に復讐を企んでいる。普通の女の子のように生きる資格なんて私にはないのよ、デイモン…」

彼女の手がゆっくりとデイモンの顔に伸び、彼の耳の後ろの髪を撫でた。

「大丈夫よ。もう長い間、慣れっこだから…」

「それじゃ納得できないわ」

「何?ちょっと!やめて!」

突然デイモンは彼女の膝裏と背中を掴み、引き上げた。

「悪いけど、今のお前のくだらない言い訳、マジで腹が立つ!今すぐ俺を殴って城に逃げ帰るか、その美しい口を閉じて俺についてくるか、どっちか選べ」

彼女は顔を赤らめ、彼の胸に顔を埋めた。数秒後、ゆっくりと呟いた:

「あなたって本当に意地悪ね…」

デイモンは笑った。

「そして俺はそれがすごく楽しいんだ!」

そう言うと、彼は赤ちゃんを抱くように彼女を抱きかかえながら村へ向かって歩き始めた。彼女は彼よりずっと力があったから、軽く押せば自由になれたはずだ。でもそうしなかったのは、少なくとも彼女の心の大きな部分が、普通の女の子に戻った感覚を知りたいと思っている証拠だとデイモンは理解していた。目的地にたどり着くと、デイモンは彼女を下ろした。 しかし、ほとんどの住民が祝賀に出かけている村に入ろうとした時、彼女は足を止めた。この未知の感覚が彼女を苛立たせた。これがずっと望んでいたことなのに…それでも本当に自分は普通の少女で、決して…ではないと信じられるだろうか?

「さあ」

デイモンがそっと彼女の手を握った。彼女は微笑み、一歩踏み出した。村へ、人々へ、子供たちへ、彼女がずっと望んでいた生活へ。一歩ごとに震えが増し、彼の手をより強く握りしめる。しかし、 再び引き返そうとする前に、彼らは村の真ん中に立っていた。彼女は人々の横を歩いていた。普通の人の。パン屋から出てきた老人が手を振って迎えた。

「おい、じいさん、あのケーキを二つ取っておいてくれよ。いいか?」

老人は彼らに微笑み、リサを見た。

「新入りのお客さんには特別に作ろう!」

リサは思わず彼に微笑み返した。すると前方で駆け出す小さな女の子と出会った。リサを見つけると、少女は駆け寄ってきて跳び跳ね始めた。

「ママ、すごくきれい!」

リサはその言葉に顔を赤らめ、微笑み返した。まるで自分の娘たちを見ているような気がした。

「大きくなったら、ママみたいになりたい!」

リサはゆっくりと身を乗り出し、彼女の頭を優しく撫でた。

「もう私よりずっと美しいわよ、小さな娘さん!」

「マリア?!!何してるの?!!」

突然、母親が駆け寄ってきて彼女の手を掴んだ。そして今や怯えているリサを見つめた。

「ごめんなさい、そんなつもりじゃ…」

「いいえ、いいえ!お願い!娘が邪魔してごめんなさい!いつも私のそばにいなさいって言ってるのに、一人でふらふら歩き回って」

そしてデイモンを見た。

「でも、あなたのおかげで、もう怖くないわ」

デイモンは彼女にうなずいた。そして再びリサを見た。

「わあ。そのドレス、すごく綺麗!触っても…いい?」

彼女の反応にまだ動揺していたリサは、慌てて首を振った。

「ええ、ええ!どうぞ…」

そう言うと、彼女は自分のドレスを掴み、女性に触れさせた。

「本当に素敵!すごく高かったんでしょう?」

「実は…叔父からの贈り物なんです」

女性は微笑んだ。

「まあ、そんな叔父さんがいてラッキーね!」

その後、彼女と娘は別れの挨拶をして去っていった。リサはまだ信じられなかった。誰かと話したのに、嫌われることもなく、ただ…普通の人同士のように話せたのだ。気づかないうちに、彼女は微笑んでいた。そこにいられてとても幸せだった。振り返ってデイモンを見ると、彼も微笑みながら彼女を見ていた。彼女は顔を赤らめ、そっと彼から目をそらした。

「なんでそんな目で見てるの?」

デイモンは笑った。

「君が彼女と話してる姿がすごく可愛かったからさ。まるで誰かと話すのが初めてみたいだったよ」

突然、彼女は心配そうに彼を見た。

「変だった? 言うべきじゃないこと言っちゃった? 絶対バカみたいだった…なんであんな子供っぽいことしたんだろう…彼女、絶対私嫌いだよ…」

デイモンは彼女の両肩を掴み、再び自分の目を見させた。

「君は良かったよ。いい?変でも子供っぽくも聞こえなかった。バカな真似なんてしてないし、彼女は絶対に君のことを気に入ってた!むしろすごく可愛く聞こえたよ。俺だったら、君の声をもっと聞きたくて、その会話を続けてたと思う。だからもうそんなこと自分に言い聞かせるのはやめろ、いいか?」

彼女は内側から燃え上がるように熱かった。顔は真っ赤で、恥ずかしさで震えている。デイモンが手を離すと同時に、彼女は素早く背を向けて顔を覆った。

「こんなこと…声に出して言わないで…」

「いや、俺が言う必要なんてないよ。みんな盲目じゃないと、自分で気づかないはずがない!」

「デイモン!」

彼は笑った。

「わかった、わかった。二人きりの時だけ言うよ」

「ダメ! 絶対に言うな!」

彼女の可愛らしい照れくささに、彼は笑いを止められなかった。

「じゃあ、君の美しさを褒めるにはどうすればいいんだ?」

突然、彼ははっとした。

「わかったぞ!」

彼は彼女の前に駆け寄り、微笑みながらお辞儀をした。

「デイモン…何してるの…」

「私…」

「一体何してるのよ?!」

突然アナが彼らの隣に現れた。リサは彼女の突然の出現に飛び上がり、すぐに顔を背けて赤らんだ頬を隠した。デイモンは遠くから他の女の子たちがこちらに向かってくるのに気づいた。

「ここで何してるの?」

「まあ、お祝いだしヘレナがどうしてもまたあのケーキを食べたがってたの。でも私、ケーキより面白いものを見つけた気がするわ! 」

「黙って!何も見てないんだから!」

アナは彼に向かってニヤリと笑った。

「え?本当に?」

そう言うと、彼女はリサを見た。

「まさか本当にここにいるなんて、お母さん」

突然リサが振り返り、デイモンを指さした。

「彼が無理やり連れてきたのよ!」

不意を突かれたデイモン。

「おい!そんなことないだろ!」

「ほら、お母さん?彼にはマナーなんて全く分かってないって言ったでしょ!」

オーロラが後ろから加わった。

「女性に対してそんな態度じゃ失礼よ、デイモン!」

「オーロラ、お前もあいつらの味方か?」

彼女はアナの隣に立った。

「事実を述べているだけよ」

するとアナはリサの腕を掴んだ。

「さあお母さん。村に来るのは初めてでしょう?見せたいものが山ほどあるのよ!!!」

リサが何か言う間もなく、二人は彼女を引っ張って行った。デイモンは後ろからそれを見て微笑んだ。こうなって良かったと。この世界にはまだまだ学ぶべきことが山ほどある。何百万年も生きていても、まだ新しいものが見えるのだ。振り返った時、彼の頭は後ろに立っていたヘレナの頭にぶつかった。

「ヘレナ?!」


あけましておめでとうございます。


今回は、少し静かで穏やかな時間を書きました。

戦いのあとに残る感情や、言葉にしきれない想いを感じていただけたら嬉しいです。


新しい一年が、皆さんにとって優しい物語でありますように。

今年もどうぞよろしくお願いします。

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