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悪魔の手記  作者: 月影悟
3/5

血の境界

深い森の中、騎士デイモンはただ馬を走らせる。吹き抜ける冷涼な風が、これから彼を呑み込むであろう嵐の予兆を、一瞬の静寂として運んでくる。

アナがドアのそばに立っていた。全身ずぶ濡れだった。

「パンを買いに戻ったんだけど、急にすごい雨で。家には戻れないし、一番近かったからここに来たんだ。中に入れてくれない?」

デイモンは彼女が中に入れるよう道を空けた。彼女は素早く中へ駆け込んだ。

「朝まで待てなかったのか?こんな時間にここに戻ってくるのが賢明だと思ったのか??」

「朝に妹たちに食事をあげなきゃいけないんだ、わかるだろ?」

「じゃあもっと早く来るか、他のものを食べればいいじゃない。お宅に何も食べ物がなかったの?」

彼はドアを閉め、振り返って彼女に向き直った。

「でも何週間も食事してないんだ…」

「何だって?」

彼女の言葉を理解する前に、彼女は彼の首を掴み壁に叩きつけた。目を開けた瞬間、彼女は獣のように襲いかかってきた。彼は攻撃をかわし刀に手を伸ばしたが、背中を掴まれた。彼女は彼を引き起こし地面に叩きつけた。

「この野郎…」

彼女は突然彼の背中に飛び乗り、首を掴んだ。

「ずっとお前を味わいたかった!」

ためらうことなく牙を彼の首に突き立て、飲み始めた。

「ちくしょう、離せ!」

突然、彼女は痛みに悲鳴を上げた。デイモンはその隙に彼女を蹴り飛ばし、立ち上がって地面で血を吐きながら呻く彼女の顔面を殴った。そして剣に手を伸ばした。掴み取ると振り返ると、彼女は彼の目の前に立っていた。デイモンが反応する前に、彼女は彼の首を掴み壁へ叩きつけた。 複数の壁を破壊し、自分の部屋の隣の部屋へ飛び込んでいった。

「ちくしょう…」

首に押し付けられた圧力で苦しみながら、彼はゆっくりと立ち上がった。

「一体何のつもりだ?!」

オーロラとヘレナが部屋の隅に立っていた。突然アナがこちらへ向かってくるのに気づき、彼は地面の剣へ素早く手を伸ばしたが、オーロラが彼の手を掴んで止めた。

「離せ…」

オーロラは牙をむき出し、腹部に蹴りを浴びせると、雨の中へ彼を吹き飛ばした。

「クソッタレ…」

デイモンは立ち上がり、両手を構えた。

「来いよ!」

オーロラは非人間的な速さで彼に襲いかかったが、デイモンはそれをかわし、顔面にパンチを叩き込んだ。 衝撃で彼女は大きくよろめいた。彼はさらに顔面、そして腹部を蹴り上げた。剣はまだ部屋に落ちていた。彼は部屋に入り、ヘレナがまだ隅に立っているのを見つけた。彼は剣を拾い上げに行った。

「デイモン、お願いだから聞いて…」

突然オーロラが彼の前に現れ、剣を握ったままの彼を再び蹴り飛ばした。その瞬間、同じ光景が繰り返された。

「二度目よ、こんなこと!」

彼はしっかりと立ち上がり、雨の中、目の前に立つオーロラと素早く戦いを始めた。オーロラは手や剣で彼の攻撃をすべてかわし、突然の動きで剣を握る彼の手を掴んだ。彼は剣を落とし、もう一方の手でそれを掴むと、素早い動きでオーロラの腹を切りつけた。オーロラは痛みに叫びながら後ずさった。デイモンは剣を彼女に向けた。

「このクソ野郎!」

「やめて!!!」

ヘレンが二人の間に割って入り、止めようとした。

「デイモン、約束したじゃない!」

「このクソガキ!真っ二つに切り裂いてやる!」

デイモンは両手で剣を握りしめヘレナに突進したが、再び背後から誰かに掴まれ、持ち上げられて地面に叩きつけられた。彼が再び起き上がる前に、アナが剣を奪い取り、彼の目の前でそれを折った。立ち上がろうとする彼には、オーロラの痛みに満ちた無声の叫びが聞こえた。

「アナ…治らない…助けて…お願い…」

「ヘレナ!助けてやれ!」

デイモンが彼らの真後ろに立ち上がった。素手で戦う準備を整え、腕を構える。アナは振り返り、牙を剥き出し、完全に黒く染まった瞳で彼を睨みつけた。

「かかってこい、このクソ女!」

アナが迫ると、激しい格闘が始まった。デイモンは彼女のパンチを全て防ぎ、絶妙なタイミング( )で顔面に一撃を叩き込んだ。痛みでガードが緩んだアナは、まだ血を吐きながら咳き込んでいた。 次に彼はアナの髪を掴み、後ろに引きずり倒すと肘で顔面を蹴り上げた。倒れ込んだアナに、デイモンは最後の一撃として顔面を蹴りつけ、彼女を気絶させた。彼は他の女たちに向き直った。オーロラは血まみれの腹を抱えたまま地面に倒れ、ヘレナは姉妹の惨状に衝撃とパニックに陥っていた。

「俺は全ての兆候を見逃したんだ」

彼は短剣を抜いた。夜に光る刃。

「デイモン…お願い…」

ヘレナは恐怖で震えていた。

「知ってるか?これは狼男からもらったんだ。彼らの群れのアルファだ。賢い老いぼれだ。なぜ俺にこれをくれたと思う?」

彼はヘレナの怯えた瞳をじっと見つめた。

「吸血鬼を殺すためだ!」

彼の手にある短剣を見た瞬間、彼女は泣き出した。あの時、家で彼と出会った時と同じように。意識を保っていたオーロラが、妹を自分の胸に抱き寄せた。今、この瞬間、デイモンはようやく動きを止め、信じられないという表情で二人を見つめた。

「何をしているんだ…」

恐怖で彼を見られなくなったヘレナは、顔をオーロラの胸に埋めた。デイモンの視線は、恐怖と涙に満ちたオーロラの瞳と交わる。デイモンはただ呆然と立ち尽くしていた。しかし、彼は考えを変えた。警戒を解くわけにはいかない。今こそ。

「二度と俺を弄ばせるものか。ここで決着をつけてやる!」

彼が一歩踏み出すと、オーロラは目を閉じて運命を受け入れた。だがデイモンが短剣を振り上げる前に、誰かが彼の手を掴んだ。

「…傷つけるな…私の姉妹を!」

アナが彼を掴み、壁に押し付けた。衝撃で短剣は手から落ちた。彼は首を絞める彼女の手を振り払おうともがいた。

「オーロラ…ヘレナ…」

アナは彼らを呼びかけようとしていたが、彼女自身もほとんど声が出せない状態だった。明らかに苦痛に苛まれ、それ以上に…心配そうだった?以前ほどの力はなく、十分な圧力が加わればデイモンは脱出できてしまうだろう。

「お願い…目を覚まして…」

アナはデイモンを抱きしめながら泣き出した。

「行ってくれ…お願い!ヘレナ…オーロラ…」

デイモンは抵抗をやめた。再び衝撃を受けた。彼女が泣いている。信じたくはなかったが、それは演技ではない。彼女は心配している。彼らのことを心配しているのだ。彼はゆっくりと振り返り、二人を見つめた。皆が恐怖に震え、怯えている…互いを失う恐怖に。

「ありえない…」

突然、遠くの森から聞こえた声に全員が振り向いた。狼だ。

「ちくしょう…」

次の瞬間、アナは目の前の壁に叩きつけられ、壁を突き破った。自由になったデイモンは素早く短剣に手を伸ばしたが、それはヘレナの震える手に握られていた。妹の前に立ち、彼に向かって短剣を構えている。

「お願い…これ以上近づかないで…」

彼女の声は震えていた。

「ヘレナ、俺は…」

背後から蹴りが飛んできて、彼は地面に叩きつけられた。ゆっくりと立ち上がり、彼女に向き直る。雨と夜の闇で彼女の顔ははっきり見えなかったが、その声と姿は彼にはよく分かっていた。

「おい、小狼。俺を忘れたか?」

巨大な白い狼が口を大きく開けて彼に襲いかかった。彼は素早く攻撃をかわし、ヘレナの元へ戻った。

「短剣をよこせ、今すぐだ!」

ヘレナはただ恐怖に震えながら、彼を見つめていた。

「ヘレナ…」

狼は彼を壁に叩きつけ、壁を壊して部屋の中へ放り戻した。彼は周りを見渡し、アナが地面に倒れ、痛みに耐えながらドアの方へ這っているのを見つけた。突然、狼がどこからともなく彼に飛びかかってきた。彼は素早く転がり、狼を背後から掴んだ。両手で彼女の口を閉じさせ、地面に叩きつけた。そして狼を押さえつけながらアナに向かって叫んだ。

「今すぐ妹たちをこの村から連れ出せ!!!」

アナは血まみれの口元と震える手で、困惑した表情で彼を見つめていた。今ここで何が起きているのか、まったく理解できていない様子だった。

「こいつは狼男だ。一噛みで即死する!妹たちを助けに行け」

その言葉を聞くと、アナは素早く壁をつかんで体を起こした。デイモンがまだ狼を押さえつけている間に、姉妹の元へ駆け出した。

「人間らしく話しかけてくれなかったのか?」

狼は彼の下で唸り声をあげ、必死に逃げ出そうとしていた。彼はアナがオーロラとヘレナを抱えて後ろに下がるのを目にした。

「ヘレナ!短剣を!投げてくれ!」

ヘレナは立ち尽くした。葛藤していた。それが正しい行動なのか確信が持てなかった。

「ヘレナ!お願いだ!」

彼女はまた涙をぬぐい、再び泣き出しそうになりながら、素早くその場を離れた。

「ちくしょう。今や俺とお前だけだ、美しき者よ!」

狼はついに束縛を解き、背後から彼を倒した。彼が立ち上がろうとした瞬間、少女が彼の上に飛びかかり、ナイフを顔面に突き立てた。彼女を押さえつけながら、彼は微笑んだ。

「お前、全然年を取ってないな」

「黙れ!!!」

少女は怒りと憎しみを込めてナイフを押し付けながら叫んだ。

「もうこんな馬鹿げたことはやめよう、エリナ!」

すると彼は彼女の手を離した。ナイフは顔のすぐ横に刺さり、頬を切り裂いた。彼は素早く彼女を押し退け、その上にまたがり押さえつけた。

「やめて!」

「お前が彼を我が家に連れてきたんだ!お前が彼を殺したんだ!」

少女は彼に向かって叫び続けた。

「あれは愚かな過ちで、今でも自分を許せない。でもこんなことをしても何も解決しない!」

「父はあなたの過ちで死んだ!家族全員があなたのために焼け死んだのよ!」

突然、デイモンは部屋に近づく足音を聞いた。足音は次第に近づいてくる。

「エリナ、やめてくれ、お願いだ!」

「生きたまま食ってやる…」

デイモンは素早く動き、彼女の顔面を殴りつけて気絶させた。そして素早く部屋のベッドから毛布を掴み、彼女の裸体を覆った。ゆっくりと彼女を引き起こし、壊れた部屋から出た。外には恐怖に震える人々が立っていた。中には夜の闇を見通すために松明を掲げている者もいた。

「なんてことだ…ここで何が起きたんだ?」

老人が尋ねた。

「吸血鬼が…俺を襲った。傷つけた…傷つけたが逃げられた」

「この娘は誰だ?」

村長が尋ねた。デイモンは彼女の顔を見た。白い髪が雨に濡れて垂れ下がっていた。

「この可哀想な娘は、吸血鬼が襲ってきた時、雨宿りで私の部屋にいたんだ。 彼女は傷ついていて、着替えが必要だ。助けてやれないか?」

デイモンは少女を老人に手渡した。すると一人の若い女性が前に進み出た。

「私の家に泊まらせてあげましょう。面倒を見ます」

「お嬢さん、本当に助かります」

彼は自分の部屋に戻り、荷物を掴んだ。馬に荷物を結びつけ、出発の準備を整えた。

「待て!どこへ行くつもりだ?」

老人はまだエリーナを抱えたまま彼に駆け寄った。

「追いかけるんだ。今なら居場所がわかる」

折れた剣を持った少年が駆け寄ってきた。

「これはご主人様の剣ですか?」

「もう役立たない。お前が持っていけ」

「これは?」

短剣だ。ヘレナが残していった。おそらく彼のために。彼は短剣を掴んだ。

「これは使える」

彼は馬に跨る。

「娘の面倒を見てくれ。目を覚ましたら、俺が会いに戻ると伝えろ」

返事を待たず、彼は馬を駆り、雨に濡れた森の永遠の闇へと消えていった。


お読みいただき、ありがとうございます!次章も近日公開予定です。

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