扉の向こう
深い森の中、騎士デイモンはただ馬を走らせる。吹き抜ける冷涼な風が、これから彼を呑み込むであろう嵐の予兆を、一瞬の静寂として運んでくる。
「まったく、俺はバカだ。本当にバカだ! 彼女、せいぜい15か16に見えるのに、悪魔のような生き物を殺したいって詳細まで説明しちまった。この娘が君を怖がってるなんて考えもしなかったし、さらに怖がらせてしまった! 彼女が俺を怪物だと思い始める前に、本当に謝った方がいいだろうな。 でもそれでも…彼女が名前を教えてくれた時…ヘレナ…初めて会った時から彼女の顔がなぜ見覚えがあったのか分かった。あの顔の前に立っていると、まるでまた学校で話しているみたいだ。俺がスター・ウォーズの知識を説明して、彼女があの美しい笑顔でただ聞いていたあの頃のように。信じられない…彼女がしたあの後で…彼女を恋しく思うなんて…」
「くそっ!」
デイモンはノートを閉じて投げ捨てた。過去の記憶が脳裏を駆け巡る。事故の光景…事故?
「事故なんかじゃなかった…あいつは故意にやったんだ。あのクソ野郎は俺の目を見て、彼女を襲ったんだ!」
彼は地面に落ちたノートを見つめた。埃まみれで古びている。この土地にいる誰よりもずっと古い。
「とはいえ、彼を責められない。結局、あの生活は俺よりハナの方がふさわしかった。おそらく…ヘレナはジョンにふさわしく、俺には…俺には…」
突然、ドアをノックする音にデイモンは飛び上がった。素早くベッドから起き上がり、ドアを開けた。
「まだ鎧着てるの?心配しないで。今夜は誰も噛みつかないから」
少女は笑いながら言った。三姉妹の長女だった。
「何かお手伝いしましょうか?」
「私じゃないわ。でも子供たちが、またあなたの馬と遊びたくて必死なの。おじいさんも、あの小さな集まりに行くかどうか聞いてきたわ」
「もう始まってるのか?」
「火を焚いてからもう一時間経ってるわ」
「わかった、すぐ行くって伝えて」
少女は呆れたように目を回し、立ち去った。彼は素早く地面に落ちていたノートを拾い上げ、バックパックの中の他の荷物に押し込んだ。部屋に鏡はなかったので、髪を数回手で整えると、その場を離れた。遠くからかすかな音楽が聞こえてくる。
「よし、ケイト・ブッシュ、また君がステージを盛り上げる番だ」
彼は馬を解き放ち、村を歩いた。村の中心には普段より大きな焚き火が燃え、子供たちが走り回り、もちろん焼きたてのケーキの香りが至る所に漂っていた。馬を自由に歩かせると、子供たちは歓声を上げて馬を見つめた。笑顔で遊ぶ子供たちを見ていると、うっかり別の少女にぶつかってしまった。
「気をつけてよ、ハンター!」
それは真ん中の妹だった。
「ごめん、気づかなかった」
少女は彼の隣に立った。
「お姉ちゃんが、まだ鎧を着てるって言ってたわ」彼女は笑いながら言った。
「そうだろうな」
彼女は短い髪を耳の後ろに流し、手を上げた。
「私はオーロラ。姉はアナで、小さい方はヘレナよ」
デイモンは優しく彼女の手を握った。
「僕はデイモンだ。」
「よろしく、デイモン」
年配者たちが楽器を持ち込み、子供たちのために演奏を始めた。
「アナは見たけど…ヘレナは見てない。今夜はいないの?」
「外が暗くなると、彼女は外出するのが怖いんだ。特にあの事故以来ね。」
「なるほど…でも、こんな皆が集まる時を逃すのは彼女にとって残念だな」
「じゃあ帰り道にケーキを持って行ってあげようか」
「ああ。親切だね」
彼はがっかりした表情を隠すのに失敗した。彼女と話すのは未来への旅のようだった。彼が閉じ込めた世界からの解放のようだった。
「あの吸血鬼について何か見つかったか?」
彼はすぐに自分の世界から抜け出し、オーロラを見た。
「いや、まだだ。実はずっと部屋にいたんだ。でもパーティーが終わったら、この森を散歩してみるかも」
「なぜ後で?」
「この人々を見てくれ。この炎が彼らの心と大地を照らす様子を。吸血鬼はこんな時に狩りをしない。こういう状況では、人々は結束して強くなる。彼らは幸せを簡単に諦めない。吸血鬼が求めるのは抵抗ではなく支配だ。獲物を追い詰めるのが楽しいとか、 そんなことを言うこともあるが、それは人間に対する支配力を誇示するための、彼ら自身の作り出した嘘に過ぎない」
「今まで何体の吸血鬼を倒した?」
「わからない…300を超えると数えるのは難しい」
少女はその数に衝撃を受けた。妹のように怯えることはなく、ただ呆然とした。そして視線をそらしてから、別の質問を投げかけた。
「一番年上の…あなたが殺した最年長の吸血鬼は誰だったの?」
デイモンは少し考えた。最古参か…
「たぶん…500か600歳くらいか。年老いてはいたが、それほど強力ではなかった。見つけた時は、子供並みの力しか持たない老人のようだった。心臓に木の棒を突き刺して燃やす前に、彼が殺した哀れな子供たちと同じ苦しみを味わわせた」
「まあ…王様があなたをここに送ってくれたのは幸運だったわね」
彼女は微笑んだが、デイモンにはその笑顔が作り物だと見抜けた。
「姉の元へ行く。あの吸血鬼と対峙する時は、しっかり正気であるように」
そう言うと彼女は素早く立ち去った。彼の頭にはヘレナのことしか浮かばなかった。かわいそうな娘は今頃、森の真ん中で一人取り残され、きっと怯えているに違いない。今朝自分が告げた言葉のせいで、さらに恐怖に震えているだろう。 彼女をここに連れてくれば、そんな心配事をしばらく忘れさせてやれたかもしれない? しかし、その考えをきちんと整理する間もなく、デイモンは森の中を歩いている自分に気づいた。彼は彼らの家の場所を尋ねず、代わりに老人に城の場所を尋ねたのだ。そして今、彼はそれを見ることができた。この森の中にあって、誰の目にも隠れることのないほど大きな城だった。 実際、あの城は自己中心的な生き物が住み、獲物さえ連れてくるのに完璧な場所だった。とはいえ、今の彼の目的は城ではない。遠くから灯りが見えた。間違いなく探していた家だ。近づくにつれ、誰かが泣いているような小さな な音が聞こえた。静かな悲鳴に不安が増し、彼は剣を握りしめ、迷わず家へ駆け込んだ。
「ヘレナ!!!」
家は空っぽだった。小さなテーブルと三脚の椅子があるだけ。声は止んだが、誰かが息をしている音、わずかに動く音がまだ聞こえた。吸血鬼がここにいるのかもしれない。彼女が一人きりの隙に襲ったのかもしれない!家は一部屋しかなく、デイモンは怒りに任せてドアを壊し、部屋に突入した。
「出ろ、悪魔め!!!」
その瞬間に彼が感じたのは後悔だけだった。おそらく今ほど自らを恥じたことはなかった。ヘレナは部屋の隅で膝を抱え、片手で口を押さえていた。小さな怯えた顔から涙が流れ落ちている。
「お願い…殺さないで…私を…」
「ヘレン、ごめん…」
彼が一歩近づくと、彼女はさらに震えだした。見開いた目で彼の手に握られた剣を見つめている。
「違う、違う!お前を狙ってるんじゃない!ヘレナ、俺は…お前が危険にさらされてると思ったんだ!」
彼は素早く剣を鞘に収めた。それから少し近づき、彼女の前に跪いた。
「聞いてくれ。泣き声を聞いて、君が危険にさらされているかもしれないと思って…だから家に押し入ったんだ。剣は君を守るためだった。誓って!」
彼の言葉にもかかわらず、ヘレナは恐怖で震え続けていた。
「なぜ…なぜここにいるの…」彼女はかろうじて声を絞り出した。「私の…姉妹たちは…」
「みんな無事だよ。全員無事なんだ。だから君を迎えに来たんだ。村でパーティーが開かれていて、君がそれを逃すのは残念だと思ったんだ。それに正直なところ、君に言ったことで君が僕を怖がっているかもしれないと思うと、本当に申し訳なく思っていたんだ…」
彼女は少し落ち着きを取り戻していた。震えは止まったが、まだ身構えたままだった。デイモンは部屋を見回した。寝室も机もない。同年代の女の子なら普通にあるものが、ここにはなかった。
「あっ、すっかり忘れてた。ほら!」
彼は自作のポケットにしまっていたケーキを彼女に差し出した。
「受け取った時は温かかったんだけど、外は少し冷えてるから…温かくて新鮮じゃなくてごめんね」
彼女は一瞬ためらったが、すぐに受け取った。
「ありがとう…」
そして静かに、落ち着いて食べ始めた。
「おいしい?」
彼女は優しい微笑みでうなずいた。デイモンは気まずい沈黙が刻一刻と深まっているのを肌で感じ、立ち上がりながら彼女に手を差し伸べた。
「行こうか?」
「私…わからないわ」彼女は不安そうに、もしかすると恐怖すら含んだ口調で言った。
「どうして?みんな楽しんでいるよ。ケーキをもっと食べたり、僕の馬と遊んだりしたくない?君はそれが好きだと思ってたけど」
彼女は答えなかった。ただ黙ってケーキを食べ続けた。
「もし…嫌なら…僕、帰るよ…」
「やめて!」
彼女は突然床から飛び上がった。明らかに彼の退出を止めたのだ。
「私…できない…」
「できない?」一言一言がデイモンをますます混乱させた。
突然彼女は歩き出し、デイモンの手を強く掴んだ。
「行こう」そう言うと、彼を家から引きずり出した。
デイモンは彼女の小柄な体格にもかかわらず、その力強さに驚いた。彼女の手は力強くも、 厳しさはなかった。気づく前に、彼は小さく笑ってしまった。ヘレナは立ち止まり、彼を見た。
「どうした?」と困惑した口調で言った。
「何でもない…行こう」
再び歩き出すと、デイモンは彼女のことばかり考えてしまった。彼女はいつもこうやって彼を扱う。昼食に遅れた時、彼が教室で他の子とふざけていたせいで、校内中を引きずり回されたあの時のことを思い出した。目的地に近づくにつれ、彼女は速度を落とした。今や彼女の手は彼の手をより強く握っていた。彼女は緊張していた。
「ケーキがなくなる前に急ごうよ!」
今度はデイモンが先導した。馬と遊ぶ者や焚き火のそばで踊る者を見かけても、ヘレナは一瞬たりとも彼の手を離さなかった。二人はさらにケーキを手にし、焚き火の向こう側、木陰のどこかに腰を下ろした。
「家で一人でいるよりいいよね?そう思わない?」
「ええ、そうね」偽りの笑みを浮かべて答えた。
「ヘレナ、何か気になることでもあるの?」
彼女は恐怖に満ちた顔で彼を見た。そして無理やり笑みを浮かべた。
「いや…何でもないわ。どうして聞くの?」
「話すと毎回緊張してる。僕を見ると必ずあの怯えた顔をする。今朝の会話のせい?」
彼女は突然、防御的に両手を上げた。
「違う!全然違うの!ただ…その…あなたの私を見る目が…」
「ああ、なるほどね」
「でも…違う!そういう意味じゃ…」
「おいおい、わかってるよ。そのことについては謝るけど…仕方ないんだ。君が僕の古くからの友達を思い出させるんだ!あの子は…君とそっくりだった。同じ目、同じ髪、同じ振る舞い、そして同じ…」
「名前…?」
「そう、名前まで同じなんだ。今朝、もう話したかもしれないけど。実は、パン屋で初めて会った時、本当に驚いたんだ。自分の目を疑ったよ!それ以来、君と会うたびに、話すたびに、遠い昔の記憶が大量に押し寄せてくるんだ」
「でも…君は僕よりそんなに年上には見えないけど?」
デイモンは気まずそうに笑った。
「ああ、それだけど…ええ、そうなんだ。まあ、そういう感じかな…」
「まあね?」
「もういい!言いたかったのは…」
「わかったよ。説明してくれてありがとう。もうそんなに緊張してない」
「ああ…あのさ、前回会った時、彼女をケーキに誘いたかったんだ。覚えてる?故郷に新しくオープンしたカフェ…いや、ベーカリー!彼女がケーキをすごく好きだって知ってたから。結局誘えなかったのが、なんだか悲しいよ」
「でも、どうして?」
「まあ、いろいろあってさ。俺は町を出て、二度と戻らなかった。近い将来戻るつもりもないし。たとえ戻りたかったとしても、今は遠く離れてるからな」
「じゃあ、僕も彼女に会いたいな」
デイモンは微笑みながら彼女を見た。
「どうして?」
「だって、自分とそっくりな人物に会ってみたいんだ!」
「僕もまた会いたいな…彼女がまだ僕のことを覚えてるかどうかはわからないけど…」
「今、何してると思う?」
「たぶん、私の知り合いと結婚してるんじゃないかな。もしかしたらもう子供もいるかも。でも、それは私の知ったことじゃない…」
彼女は彼の悲しげに考え込む顔を理解したような眼差しで見つめた。そしてゆっくりと近づき、彼の大腿に手を置いた。
「きっとまた会えるわよ」
彼は彼女の手の上に自分の手を重ねた。
「本当にそうしたいのか、自分でもわからない」
彼の目尻に小さな涙が浮かんだが、すぐに拭った。
「ああ、君は本当に俺の頭を混乱させるのが上手いよ。でもね、今本当に欲しいのはもう一片のケーキなんだ!」
「でもこれが最後の一切れだったんだ。やっとの思いで手に入れたのに」
「じゃあ、あそこに行って自分たちで作ろう。僕は最高のベーカーだし、君も自慢できる材料があるはずだ」
ヘレナは少し顔を赤らめ、目をそらした。
「ありがとう…でも、それが本当に良い計画かどうかはわからないわ。でも、どこか別の場所に残ってるかもしれないわね!」
「どこに?」
彼女は少し彼に身を寄せた。
「村長のために特別にケーキを焼くのよ!彼女はケーキが大好きで、 彼女の家からは一日中いつでも焼きたてのケーキの香りが漂っているの」
デイモンは真剣な表情で彼女を見た。
「つまり、王様直々の騎士である俺に、あの貧しいお嬢様の家に押し入ってケーキを盗めと?」
ヘレナは自分の提案に恥ずかしそうに目をそらしたが、デイモンの突然の笑い声で振り返った。
「それが私の言う楽しみってやつさ!よし、ここで待ってろ、すぐ戻るから!」
ヘレナは彼の去る姿を見送った。まず老人の元へ、次に村長宅へ向かう。そして一瞬で炎の向こうに消えた。彼女はそわそわと落ち着かない様子だ。この場所に居心地の悪さを感じていた。 狩人…デイモンへの恐怖は消えていたが、夜中に家を出て命を危険に晒している現状に、彼女は周囲をきょろきょろと見回し続けた。今すぐ逃げ出した方がいいのか、それとも危険を冒さず彼と一緒にいるべきか。 もしかしたら…あの事実にもかかわらず、彼は本当に自分を守ってくれるかもしれない。
「戻ったぞ!」
突然、デイモンが丸ごとケーキを手に現れた。
「デイモン…いえ、ハンターさん! 何をなさったんですか?」
「ケーキを一つ持って来ただけさ」
「でも…丸ごと1個じゃない!」
「まあ、彼女を大量の糖分から救ってるんだ!彼女の年齢の者にとってどれだけ悪いことか分かるだろ?彼女は私に感謝すべきだ」
彼は彼女の隣に座り、ケーキを手渡した。
「ちょっと待って!」
すると彼は短剣を抜いた。その刃が彼女の目を眩ませた。
「あれは…」
「スコットランドの古い友人からの贈り物だ。美しい場所だ!」
そして突然の動きで、それでケーキを切り分けた。
「さあ、これで始められるぞ!」
ヘレナは彼の動きに反応できず、ケーキが既に半分に切られているのを見つめるだけだった。すると彼は片方の半分を彼女から奪い取る。
「今夜をもっと楽しもう!」
ヘレナはようやく微笑み、彼にうなずいた。
「ええ」
ケーキを食べ始めると、ヘレナは思わず彼に尋ねた。
「失礼だけど…あの吸血鬼のことだけど…」
「あのさ、前にみたいに君を怖がらせたくなくて…」
「いや、違うの!ただ知りたくて…もし…あなたがそれを見つけて…」
「それで?」
「殺さなかったら」
デイモンは彼女の言葉に困惑した。
「でも、なぜ殺さないんだ?」
「だって…もしかしたら…もしかしたら…君が思っているほど悪い奴じゃなかったかもしれないんだ!」
「ヘレナ、あれはすでに人を殺している。どうして死に値しないと言える?」
「ええ…彼らは吸血鬼だから、好きか嫌いかは関係ないけど、生きるためには血を飲まなきゃいけないの!たぶん彼らはただ…」
「ああ、それは分かっている。だが生存に必要な血の量はそれほど多くない。吸血鬼が人間を殺すのは、単に飢えを満たすためじゃない。力を求めているんだ」
「たとえ罪悪感を感じても、止められないんだ!」
「彼らは感じない。感情など持たず、ただ欲望と力を求めるだけだ」
「でももし…」
「聞いてくれ。約束する。もしあの化物がほんの少しの感情、ほんのわずかな悲しみや後悔さえ見せたなら、俺は生かしておくだけじゃなく、守って助けるだろう。ただ、俺の 長い人生で、何に対しても人間の感情を見せた吸血鬼を一人も見たことがないんだ!」
「なんて優しい心を持ったハンターなの!」
突然、彼女たちの姉妹が背後から現れた。アナはデイモンの前に立ち、オーロラは地面に倒れていたヘレナを引き起こした。
「妹が少し神経質なのは承知しているけど、本気じゃなかったよね?」
デイモンは立ち上がり、彼女に向き直った。ヘレナはオーロラの背後に隠れていた。
「私が発見した瞬間、奴に何かする機会は絶対に与えない。とはいえ…」
突然アナが指を彼の唇に当てた。
「『でも』なんてないわ!あなたは吸血鬼を殺すためにここにいるの。それ以上でもそれ以下でもない」
デイモンは彼女の手を振り払った。
「俺の役目は分かってるよ、お嬢ちゃん」
「で、俺の妹と二人きりでケーキを食べながら話すのが、お前の仕事の腕を上げる計画の一部だったのか?」
デイモンは答えられず、ただ立ち尽くして、森の奥にある家へと去っていく二人を見送った。彼は下を向くと、草の上に彼女の残したケーキの切れ端を見つけた。それを拾い上げ、寮に戻る途中、馬に与えた。ドアを開け、ベッドに横たわる前に剣を脇に置いた。 ゆっくりと横になり、目を閉じた。なぜ彼女は自分の名前を知っているのか? 姉たちのことは? もしかすると彼女たちは、この一連の出来事の背後にいる人物について何かを知っているのかもしれない。守ろうとしているのか? だがなぜ…吸血鬼が感情を示す? デイモンは独り笑った。少しでも感情を持つ者なら、あの化け物があの可哀想な娘の父親にしたようなことは決してしない。
「ジョン、気をつけろ!!!」
彼は叫びながら彼の前に飛び込み、矢を胸に受けた。一瞬、視界が真っ暗になった。胸に鋭い痛みが走る。呪いが彼を食い尽くそうとしている。視界が戻ると、ジョンが瓶を握りしめて彼の前に立っていた。
「ジョン…お願いだ…」
「お前よりあの子の方が受けるに値するんだ…」
「ジョン…」
突然、彼はバタンと閉まるドアの音に飛び上がった。外からは激しい雨音が聞こえていた。一体何時だかわからないが、誰かがドアをバタンバタンと閉め続けている。
「今行く!」
一体誰がそんな風にドアを叩くんだ!彼はドアを開けに行った。
「一体何しに来たんだ?!」
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次回、物語は大きく動き始めます。




