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悪魔の手記  作者: 月影悟
10/12

祝祭の終わり

深い森の中、騎士デイモンはただ馬を走らせる。吹き抜ける冷涼な風が、これから彼を呑み込むであろう嵐の予兆を、一瞬の静寂として運んでくる。

「お待たせ!」

「ミラーさん!来てくれて嬉しいわ!」

デイモンとリサは玄関で客を迎え、アナはテーブルを回りながら誰か必要なものがないか確認していた。パーティーが始まってからほぼ1時間が経つのに、姉妹の姿はまだ見えなかった。心配だった。間に合わないのではと。デイモンや母に尋ねることもできなかった。彼らにストレスをかけたくなかった。今夜は彼らのための夜。最高のものになるはず。村から多くの顔見知りが集まっていた。子供たちは走り回り、年配者たちは談笑している。かつて恐怖の対象だった城が、今やその美しさで彼らを魅了していた。そしてこの美しさの中心にいたのは、彼女の母だった。デモンに寄り添い、ずっと微笑みながら。彼が他の人と話す間、そっと彼を見つめながら。彼に狂おしいほど恋していた。アナは、デイモンへの想いを初めて打ち明けた相手だった。ついに幸せになれたこと。ついに自分も…生きられると信じられたこと。もしかしたら…ハッピーエンドは物語だけのものじゃないのかもしれない。二人が客の対応で忙しくしている隙に、彼女は素早く台所へ向かった。棚からそっとケーキを取り出すと、そこにはこう書かれていた:

「お父さん、お誕生日おめでとう!」

彼女は微笑んだ。幸せだった。デイモンが初めて彼女のケーキを食べた日を思い出した。あれから長い年月を経て、今度は彼のために。彼だけのために、また一つ焼いたのだ。とはいえ、オーロラとエリナにはパーティー用に大きなケーキを用意するらしい。だから明日まで取っておくべきかもしれない。何せパーティーにケーキを持ち込みながら誰にも分け与えないのは、少々失礼かもしれない。彼女はケーキを見つめ続けた。数ヶ月で人生がこれほど変わったのだ。姉妹は生きている。母の命も。もしかすると…デイモンは彼女たちにとって祝福だったのかもしれない。天使、いやそれ以上!彼女は既に荷物をまとめ、明日の準備を整えていた。デイモンが言ったように、日本にはもう一人、妹が待っている。ただ願うのは、自分が彼女にとって良き責任ある姉になれること。自分の姉妹に対してそうありたいと願ったように。これはあまりに良すぎて現実とは思えなかった…

「おいしそう!」

女性が台所に入ってきた。アナはその声に飛び上がり、一瞬ケーキを隠そうとしたが、彼女の青い瞳と目が合うと、緊張が解けた。

「ごめんなさい、お父さんかと思って…つまり、デイモンかと思って!」

彼女は笑った。

「お父さん? そんなに年上には見えないわよ!」

彼女は近づき、アナの隣に立った。赤い髪が長い黒のコートの上に流れ落ちる。

「まあ、私も驚かないとは言えないわ」

笑いながら言った。

「顔と声は私と同世代みたいだけど、話し方を聞くと、十代の体に閉じ込められた老人だって気づくのよ!」

二人は笑った。レナラは髪を後ろに掻き上げ、アナとケーキを見渡した。

「彼へのプレゼント?」

「ええ。明日…明日が彼の誕生日なの!私…実は姉妹でサプライズを仕掛けようと思ってたんです!」

レナラは微笑み、優しくアナの手を握った。

「なんて素敵なの…」

突然、彼女の目が大きく見開かれた。微笑みが消え、アナの手を見つめる。握りしめすぎていることに気づかず、慌てて手を離した。

「ごめんなさい、ごめんなさい!つい…考え込んでしまって!」

二人はしばらくそこに立ち尽くした。何も言わずに。アナは困惑し、レナラは今感じたことに衝撃を受けていた。アナはケーキを棚に戻し、扉を閉めた。そしてレナラにうなずくと、その場を離れた。レナラは微笑みで応えるしかなかった。数秒後、彼女も台所から出て行った。周囲の人々を見つめながら、彼女の世界は崩れ落ちていた。誰も恐れていない。不安げな様子すら見せない。吸血鬼だらけの城にいることすら気にしていない。では誰が王に狩人たちの助けを求めるよう頼んだのか? 彼女はそもそも吸血鬼なのか? もしそうなら…あの温もりは何だったのか…考え込む暇はない。何が起きていようと…答えを知っているのはただ一人。彼女は近づき、背後から彼の肩に手を置いた。デイモンが振り返ると、目を見開いた。呼吸が荒くなり、手が震えて言葉が出ない。リサも振り返り、レナラより先にデイモンの恐怖に満ちた顔を見た。なぜデイモンがこの女性をそんな目で見ているのか、彼女は困惑した。彼は彼女を知っているのか?彼女は…危険なのか?それとも彼女は…

「君がリサだね!」

レナラが手を差し出した。デイモンはそれを見て、リサが握手をしようとするのを止めようとしたが、レナラがリサの手を握るのを目にした時にはもう遅かった。

「ええ…私…以前お会いしたことは?」

「いいえ!正式には会ったことはないけど、あなたのことはよく聞いています!」

そう言うと彼女はデイモンを見た。

「私の息子の心を奪った男ね!」

むしろ私がデイモンに聞くべき質問じゃないの?!」

デイモンは周囲を見回し、リサが客の対応で忙しいことを確認すると、再びレナラに向き直った。

「なんでここにいるんだ、ママ?!」

今度はレナラが身を乗り出した。

「お前がめちゃくちゃにしたからよ!」

「何だって?」

「お前には使命があったんだ!」

「その使命は果たした!その後誰も傷つかず、皆が人生を楽しんでるんだ!」

レナラはリサを見た。

「でも、誰もが人生を楽しむに値するわけじゃない」

デイモンが彼女の視突然デイモンが割り込んだ。

「リサ、ちょっと待ってくれ。ここで少し待っててくれないか?」

彼女が答える間もなく、彼はレナラの手を掴み、隅へ引きずり込んだ。レナラは壁にもたれ、目の前で文字通りパニック状態のデイモンを見つめた。

「一体ここで何してるんだ?!」

「それって、界を遮った。

「彼女は違う!他の連中とは違う…」

「そう。私も気づいたわ。彼女も、あの娘も、同じ温もりを手にしていた」

「何?どの娘だ?」

「黒と赤のドレスを着た子よ。正直言うと、あのドレスがちょっと羨ましいわ」

怒りに駆られたデイモンが彼女を壁に叩きつけた。

「彼女に何をしたんだ?!?」

「何も…」

「嘘つくな母さん!お前は俺以上に奴らを酷く扱ってる!」

突然レナラは彼の手を掴み、軽々と押し返した。

「もし私が何かしようと思えば、とっくに全員死んでたわ」

「お前を信用できない…」

「彼女は違うって言っただろ。俺も感じたんだ!吸血鬼の体はいつも死体のように冷たいが、彼女の手は…普通の人間と同じだった…」

「彼らは普通だ!」

「じゃああの死体は?デイモンに恐怖を与えたあの光景は?」

振り返るとリサの姿は消えていた。

「あれは違うんだ、母さん!」

「どう違う?説明しろ!」

「ここは場所じゃない!」

突然、レナラが彼の両肩を掴み、自分の目を見据えさせた。

「これが最後のチャンスだ。奴らが冷酷な悪魔のような存在じゃないと証明しろ。さもなくば、狩人たちがすぐにここに来る。奴らは躊躇なくお前たちを皆殺しにするだろう!」

「狩人…?」

デイモンは後ずさり、壁にもたれかかった。全てを理解できない…母親…狩人…彼らを殺す?これまでの全てを経て、そんな結末は許せない。一度命を失った。二度と繰り返せない。彼は言葉を失った。今、何をすべきか全く見当がつかない。狩人…今この瞬間、ここにいるのか?この部屋に?母がいたのに気づかなかった…今ここにいるかもしれない…きっとここにいる。彼は周囲を見回した。物音は次第に大きくなる。皆が自分を見ている気がした。リサ…アナ…ヘレナ…オーロラ…

「いや…いや…いや…」

レナラが彼の傍らに立った。

「デイモン…お願い…ここで起きようとしている虐殺を止められる理由を、私に教えて!」

デイモンは困惑した表情で彼女を見た。

「彼らを失うわけにはいかない…彼女を失うわけには…」

「失わないわ…」

突然、後ろからリサが現れ、優しくデイモンを抱き寄せた。そしてレナラを見た。二人は真剣な表情で互いを見つめ合った。

「あなたも見たでしょう。私の手を握った時、感じたでしょう? あなたの目に映っていたわ」

レナラは何も言わなかった。

「あなたは私を狩りの対象として見ていない…」

そして彼女はデイモンの目を見た。

「初めて会った時、彼の目にもそれを見たわ…」

「それだけではあの狩人たちを納得させられない…」

突然デイモンが彼女に向き直った。

「じゃあ一体どうしろってんだ?ここに留まって奴らが死ぬのを見てるだけか?『殺すべき者だけを殺す』って言ったのはお前だろ!」

レナラは息子に返す言葉がなかった。心の奥底で、彼女は感じていた。いや、そもそも必要などなかったのだ。彼らが手を触れ合う前から、彼女は見ていた。彼らの瞳に宿る輝きは、すでに身体の温もり以上の感情を帯びていた。

「本当に…私の息子を愛しているの…?」

リサは彼女の瞳をじっと見つめた。

「心の底から」

その瞳に偽りはなかった。燃えるような赤い瞳が。デイモンはようやく我に返り、立ち止まった。

「母さん…わかってるだろう…」

「信じている」

デイモンは驚いた。彼もリサも、レナラの言葉に不意を突かれた。

「私は自分の目に見えるものを信じる…」

彼女は一歩踏み出し、デイモンの頬に触れた。

「君が彼女に抱く愛が見える…」

そしてリサを見つめた。

「君を信じるわ、お嬢さん。私の息子への君の愛を…」

突然、デイモンは彼女の腕の中に飛び込んだ。強く抱きしめる。彼女も微笑み、彼の頭にキスをした。涙をこらえながら。微笑みながら二人を見つめるリサを、レナラも抱き寄せた。

「ごめんね。もう一度確かめたくて!」

皆が笑った。彼女は確信していた。吸血鬼であろうとなかろうと、彼女は息子に狂おしいほど恋している娘なのだと。突然、デイモンは彼女の腕から抜け出し、彼女を見つめた。

「母さん、狩人たちが来るって言っただろ…彼らを説得はできなくても、俺たちなら…」

「火事だ!!!」

誰かが叫んだ。反応する間もなく、全員が城から駆け出した。

「一体何が…」

外へ飛び出すと、遠くに巨大な炎が見えた。城からでも炎が確認でき、木々が生い茂る中、その光さえも見えるほど巨大だった。

「彼らにやめるよう…」

「彼ら?!!!」

デイモンが彼女に問いかけた。再び恐怖で震えながら。

「母さん…狩人たちが来るって言ったのに…じゃあ誰が…」

「私は他の三人と一緒に来たの。彼らには何もするなと言ったのに…」

「何をしたんだ…」

レナラはパニックに陥った。彼らに何もするなと言ったことを思い出した。言ったんだ!

「私…言ったの…デイモン、誓うわ!お願い、信じて!」

彼女が最後に見たのは、怒りと心配が入り混じったデイモンの顔だった。彼は火の方へ走り出した。リサも後を追おうとしたが、彼女は引き止めた。

「ダメ!」

「ダメってどういうことだ?!娘たちが危険にさらされているかもしれないんだぞ!」

レナラは彼女を引き戻した。

「もし私が思う人物の仕業なら、外は全く安全じゃない!」

リサは彼女を信じられるか確信が持てなかった。デイモンと同じ瞳をしているけれど…でも彼女はデイモンじゃない。

「聞いて。私はあなたを信じた!今度はあなたにも私を信じてほしい!お願い…」

リサはようやくうなずき、二人は家の中へ入った。レナラはドアを閉め、彼女を見つめた。

「娘たちはどこにいる?全員をまとめなければ!」

「ヘレナとオーロラは外にいたけど、アナは…」

突然彼女は一歩踏み出し、呼び始めた。

「アナ!アナ!いるの?」

「黒と赤のドレスの女の子のこと?」

「ええ…ええ!出て行くのを見かけた?」

「いや、いや。最後にキッチンで見たわ!デイモンの誕生日のケーキを作っていて…」

言い終わる前に、リサはキッチンへ駆け出した。後ろからレナラも追いかけた。二人が中に入ると、一瞬で視線が地面に落ちたケーキに釘付けになった。




こんなこと…ありえない。いや、今日だけは。彼女たちには。彼がここにいる間は。約束したのに。彼と一緒にいれば安全だと約束したのに。新しい人生を約束したのに。チャンスがあると告げたのに。見せてくれたのに。信じさせてくれたのに。彼は…彼は…

「お願い…お願い…」

涙が彼の頬を伝った。あの娘たちはこの世の全ての幸せに値する。幸せになる権利がある。安心を感じられること。普通の女の子のように生きられること。炎は彼が近づくにつれ大きくなっていった。あと一日。あと一日耐えれば、彼女たちは望む人生を歩める。何百万年も生きてきた彼が、今初めて懇願していた。この夜が終わって、新しい日が訪れますようにと。新しい日。新しい人生。約束通りヘレナと釣りに行くのだ。アナとオーロラは食事の準備をし、リサは部屋で出発の準備に一日を費やした。彼女を馬に乗せ、皆に別れを告げる。この村に。過去の生活に。ユキは新しい姉妹に会ってきっと喜ぶだろう。皆が彼らの家で共に暮らす。リサとデイモンは昼食を準備し、アナとオーロラは裏庭の庭の手入れをし、ユキとヘレナは部屋で一緒に遊び、過ごした。毎晩デイモンにお金をねだり、買い物に出かける。そして夜が更け、皆が眠りにつくと、彼とリサは抱き合い、共に星を眺める。永遠に続く幸せな日々。永遠に…永遠に…彼は膝をついた。目を見開き、震えながら。涙が頬を伝い、炎の光が目を焼く。叫びたかった…叫びたかった…信じたくない…これが悪夢であってほしい…皆が無事で、これがただの夢であってほしい…目を覚ましたい…目を覚ましたい…願った…

「オーロラ…」

膝をついた彼の口から漏れたのはかすかな声だけだった。目の前にはオーロラの遺体が横たわっている。二人が祝祭に集ったあの炎に、彼女は磔にされていた。幸せだったあの時を。幸せでありたかったあの時を…




背後で扉が開いた。

「オーロラ? こんなところで何してるんだ?」

オーロラは彼の隣に座った。冷たい風が茶色の髪をなびかせながら、星々を見つめている。

「ここの景色、すごく綺麗だわ。城のこの階に来たことなかったの!」

「ああ…ここは一番高い場所だ。でも昼間の方がもっと美しいと思うよ! 村や木々、川が見渡せるからな」

彼の言葉に彼女はうなずいた。そして何も言わずに近づき、彼の肩に頭を預けた。

「私たちはこの場所を怖がっていた。この屋根を…理由はお分かりでしょう…」

デイモンは腕を彼女の肩に回した。

「君を責めたりしない…」

「でももうそうは思わないの…」

彼女はデイモンの言葉を遮った。

「ここだけじゃなかったの。私、アナ、ヘレナ…私たちはこの世界そのものを怖がっていた。そこに生きる人々を。怖すぎて、もう二度と幸せになれないと諦めていた。私たちが決して…」

頬を涙が伝った。

「生きられないと…」

彼女は顔を上げてデイモンを見つめた。

「でもあなたが現れて…私たちの全てを変えてくれた!変えられない運命さえも変えてくれた…私たちの運命を…」

今度は涙が滝のように溢れた。

「ありがとう…デイモン…ありがとう、私を救ってくれて…私たちを救ってくれて。もう怖くない…生きることも、笑うことも、幸せになることも、普通であることも怖くない」

彼女は身を乗り出し、目を閉じながら顔を彼の肩に押し当てた。

「もう誰も怖がらない…」

彼の目の前に星が輝いた。

「ありがとう…父さん」





息は切れていたが、ここで止まるわけにはいかない。試さねばならなかった。信じねばならなかった。彼は…

「ヘレナ…」

家の中から光が漏れていた。躊躇なくドアを破り、彼は中へ飛び込んだ。恐ろしい光景だった。この夜はそう簡単には終わらない。彼から全てを奪い取るまでは。テーブルは壊れていた。全てが壊れていた。彼の視線は血に釘付けになった。血痕が至る所に広がっていた。どうしてこんなことが。どうして突然こんなことが起きた?いつミスをした?いつ警戒を怠った?なぜもっと注意しなかった。守るって約束したのに、なぜ今彼らは死んでいる?なぜ苦しみながら死なねばならなかった?彼女たちは新しい人生を約束されたのではなかったか?より良い人生を?普通の女の子のように生きられると彼は言わなかったか?彼はゆっくりと地面に置かれた箱の前に跪いた。そこにはこう書かれていた:

「世界で一番のパパへ、お誕生日おめでとう!」

彼は箱を掴み、涙に溺れた。後悔の痛みに震えながら叫んでいた…すべては彼のせいだった…すべてが。あの娘たち、誰一人として死ぬべきではなかった…誰一人として、人生でたった一日でも辛い日を過ごすべきではなかった…そして彼は失敗した…彼女たちにそれを与えることに…彼女たちが当然受けるべきものを与えることに…彼女たちが…彼は床に横たわった…血の上に…娘の血の上に…そしてヘレンが彼の誕生日に作ってくれた木馬を抱きしめながら、泣き続けた…


ここまで物語を読んでくださり、ありがとうございます。

この章は、物語が大きく崩れ始める地点です。

幸せな時間ほど、失われる瞬間は残酷に訪れます。

次の章では、さらに深い闇へと進んでいきます。

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