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対決 疑似科学vs似非愛国主義

作者: 稀Jr.

「ハイ、始まりました。今週から始めます、似非対決シリーズ。今日は、疑似科学と似非愛国主義の対決です。最近は、科学という名の疑似科学がはびこっています。先日も、ウラン鉱石を使った健康グッズが話題になりました。これを信じる人は、科学的根拠がないことを知らないのか、あるいは知っていても信じたいのか、どちらでしょう。ウラン鉱石も U-235 ならば効力があるのですが、U-238 だとありふれたウランなので、効力はないんですよね。これを単にウラン鉱石の幸運グッズとして売り出すのは、まさしく!疑似科学です。一方で、愛国主義として国粋の日章旗や旭日旗を掲げるのはいいのですが、よくみれば単なるサンライズなんでしょうね。朝日新聞を象徴する旗なわけです。旭日旗とい偽って朝日新聞の旗を掲げるのはまさしく似非愛国主義ですね。こんなところで、こんな疑似や似非に出会ってしまう、というのを御披露して頂くシリーズになります」

司会者の H 氏は、両者に対して自己紹介を促した。

「はい、では、生粋の似非科学者として有名な F さん、自己紹介をお願いします」

「ああ、ただいま、紹介されました F です。本当の名前はあるんですが、ここでは F としてください。ここにある、二酸化炭素圧縮機を見て検索してくだされば、そう、名前はわかりますね。ええ、でも、ここは国営放送の番組の中ですから、商品名は出せないのです。自己紹介はだめだけど照会は大丈夫ですよ。ググるなり ChatGPT に尋ねるなりしてください」

「はい、ありがとうございます。では、次に似非愛国主義者の T さん、自己紹介をお願いします」

「はい、どうも、T です。こちらも本名はあるんですが、ここでは T としてください。もう、先日、血民党の党首となった T です。これは、最近のことですから AI に聞いてもわからないかもしれませんが、さきほど国営放送のニュースにもなったので大丈夫だと思います。あ? ああ、そうですね、これ録画なんですよね。いえいえ、大丈夫です。私 T が絶対に党首になるので、ここで宣言させてください。日本ナンバーワン、日本ファーストで頑張りますよ」

「はい、お二方、ありがとうございます。実に匿名できれいに漂白されたかのような自己紹介ですね。本名は出てこないのですが、実に名前がわかるような紹介っぷりです。まあ、あまり、名前や商品名を出してしまうと、国営放送という建前上、どちらかの陣営に組みすることになってしまいますから、そこは避けたいところです。そう、苦情が来てしまうんですよね。ですがね、苦情は来てしまえば対応しないといけないのですが、来なければ対応しなくていいのです。向こうのほうで電話のベルが盛んに鳴っていますが、まあ、気にしないでください。今どき、電話で苦情なんてありえませんからね。演出の都合というものですよ。メールで来るものもあるのですが、DKIM 認証ヘッダーで拒否してしまえば、来ないと同じです。相手の設定ミスってことにできますからね」

司会の H は、そういうと目の前にいもしない観客を見回して言葉を続けた。

「では、疑似科学の F さんから、とっておきの疑似科学の商品を紹介していただきましょう」

「はい、では、私のほうからとっておきのものを持ってきました。名前は、ええーと、国営放送で云えないのですが、二酸化炭素吸収器です。ほら、炭酸水には二酸化炭素がいっぱい入っているじゃないですか、圧力をかけて炭酸水に二酸化炭素を溶かすのです。これの、CO2 版ですね。二酸化炭素と CO2 は、ものは同じものですが表記が違います。二酸化炭素吸収器と名乗ってしまうと、ほんとうに吸収できるのか? という問い合わせが発生してしまうのですが。CO2 圧縮機となれば、それほど苦情は来ないのです。それほどというよりも、ゼロですね。実は CO2 と書いているように見えますが。C02 なんですよ。オーとゼロの違いは大きいですが、フォント上変わりませんからね。ひょっとするとゼロに斜めの棒が入っている人にはバレてしまうかもしれませんが、大抵の場合は大丈夫です。CO2 も C02 もどちらも変わらないわけです。ですから、解説上は、二酸化炭素を示す CO2 で話していくのですが、ところどころ C02 になっているのですね。ほら、ちょうど、契約書の中でちょっとだけ言葉を変えてしまうトリックのようなものです。きちんと契約書を読めば違いがわかるのでしょうが、ざっと流し読みをしてしまう人にはわからないわけで、同じように CO2 と C02 が解説文の中に混ざってしまっても、気が付かない人は気が付かないわけですね。なので、この CO2 圧縮機は、解説では C02 を圧縮してため込むわけで、なにも嘘を言っているわけではないのですよ」

「ほお、なるほど、それで、ええと、CO2 でしたっけ?」

「いえ、C02 ですね、この部分は重要なので」

「はい、わかりました。その C02 なんですが、C02 ってのは何ですか?」

「そう、そこが重要なのですよ。一般的に二酸化炭素とか、CO2 とかは中学生の頃に習うものなので、誰もが知っているわけです。だからこそ、商品名に CO2 と入れると、きちんと皆さま勘違いしてくれるのですね。なので、その CO2 のままだと思って、中身を確認しないと、実は圧縮しているのは C02 なんだってことですよ」

「で、その C02 ってのは?」

「実は C02 は企業秘密なのです」

「ええ? 企業秘密なんですか、でも C02 を圧縮する機械なんですよね」

「そうです、C02 は企業秘密なんですが、C02 を圧縮する機械には違いないです。ですから、わが社では、世の中にある C02 を自動で見つけ出して圧縮してため込むようにしてあります。そこは間違いありません。科学的に証明されています」

「なるほど、CO2 ではなく C02 を圧縮するんですね」

「そうです。ですから、この C02 圧縮機は、まさしく、世の中に役に立つシステムなんですよ。企業秘密なのでこれ以上 C02 の内容を話すことはできませんが、これだけは間違いないです。全世界で初めて、わが社が C02 を圧縮することに成功して、これを商品化しています」


司会者の H は、非常に納得したように何度もうなづきながら F 氏の顔を見た。すっきりとした顔には微塵も正直さがなかったが、決してにやにやしているわけでもない。でも、にやにやしていないからといって正直なわけではないのだ。必要十分条件というのはこういうときに使うものなのだろう、H は思った。さすがだ。

「はい、ありがとうございます。では、次に似非愛国主義者の T さん、お願いします」

「では、わたくし T のほうから似非愛国主義の話をさせていただきますね。私のほうは、F さんのように商品はないのですが、実に主義主張を売りにしています。愛国という名のもとに排外主義や日本人ファーストを実現させていきます。愛国というのは、まさしく、国を愛することです。私達日本人を愛することで、さらに突き詰めれば私を愛することになるのです。たまに、売国奴とか言われることもありますが、国を高く売るのですからなんてすばらしいことをしているんじゃないか、と褒められたいところですよね。皆さま誤解されることが多いのですが、似非愛国主義は、真の愛国主義とは異なります。愛国の場合は、国破れて山河ありの精神で人を中心にして進んでいますが、似非愛国主義の場合は、まさしく「国」が主になります。国の象徴である「あの人」が主体になりますね。ええ、「あの人」というのは、国営放送では言えないので、ちょっとややこしいのですが、「あの人」です。ひょっとして、「あの人」じゃないかと思うかもしれませんが、そうです。そうかもしれません。でも違うかもしれませんね。そんな形で、象徴を挿げ替えていくのが似非愛国主義となるわけです」

「なるほど、主義主張をすげ替えていくのですね」

「そうです。一貫した主義主張というものはありません。一見すると、演説で一貫しているように見えても、それは違います。まさしく誤解ですね。ワタクシたちの主張は、一貫して、ぶれぶれの主張をするということです。ですから、すげ替えが当たり前ですし、その中で似非愛国主義というのが一貫した主張になるのです。愛国主義ってのはいいですよ。生まれたところを守るってことですから、生まれたところでないのは守らなくていいのです。排除します。排外しますって具合ですね。労働力としては取り入れるけども、安全は保障しなってやつです。土地は売り出すけども、被害はみなさんでなんとかしてくださいってところです。それでもですね。私達は日本人ファーストですし、日本人ならば誰でも守ります。守れれば日本人ですし、守れなければ日本人ではないのです。これはアメリカでも同じですから、大丈夫です。アメリカさんに追随していけば、世の中万事OKなんですよ」

「すごい、さすがの似非っぷりですね。根拠がないから、根拠を示さなくていいのがいいですよね」

「そうです。いいところに気が付きましたね。根拠がないものですから、どんな説にでもくっついてしまうのです。奈良の鹿が蹴飛ばされているのにもくっついていけるし、クルド人問題にもくっついていけます。当然、アフリカ人のホームタウン問題にもぺったりとくっついていって離れることはありません。偽科学の場合は、それなりに科学っぽいところからスタートして捻じ曲げていかなければいけないのですが、似非愛国主義の場合にはなによりも「愛国」を前面に出していけば、文句を言う人はありません。たまに文句をいう人もありますけど、それにはこう答えます「あなた、日本人じゃないでしょう?」ってね。そうです。日本人ならばそんな申し立てをするわけがないので、そこで文句を言った時点で、かの人は日本人ではないわけです。これぞ、完璧な似非愛国主義の論理ですね。唯一、論理的なのがこの論理なのです」


ふたりの主張を司会者 H は聞きながらうんうんと頷いてた。

「では、みなさん。お手元のリモコンの d ボタンを押してください。疑似科学 の F さんの主張が偽だと思う人は青ボタン、似非愛国主義の T さんの主張が偽だと思う人は赤ボタンを押してください。集計結果は、こちらのボードに表示されますよ。では皆さん、どうぞ」


ぽち、っと疑似科学に「1」が灯る。

ぽち、っと似非愛国主義に「1」が灯る。


「さて、どちらが多いのか!、おおっと、これは凄い、同点です。同点ですね。凄い接戦の末、1対1の同点となりました。いやあ、じつに激戦でしたね。では、みなさん、さようなら、また来週、できたらお会いしましょう!」


これでモスクワからの実況中継を終わりにします。


HHK(終)


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