come next story 0006 光のほうへ
ある土曜日、いつもの喫茶店に向かうとシャッターが下りていた。
手書きの貼り紙には「店内改装のため一週間お休みします」とあった。
何気なく歩く商店街は夕焼けに染まりはじめていた。買い物袋を抱えた家族、ベビーカーを押す母親、笑いあうカップル。
五郎はそのすべてから一歩退いた場所に立っていた。"自分には関係ない世界だ"そう思い込んで、思い込ませて、慣れているはずだった。
傘を差しだしてくれた手・優しく名を呼ぶ声。
一つ一つが心の奥を溶かしていた。
それでも、人との交流が怖いというのは変わらない。
過去を背負い歩くことしか知らない自分が幸せの中に入ることは、赦されるのか?
その問いを繰り返しながら胸をずっと束縛していた。
帰り道懐かしい場所へ足が向いた。
古びた団地さびた鉄の階段、傾いた郵便受け。そこは五郎が暮らしていた住居。
父の怒鳴り声が壁を伝い響いていたあの部屋。
ベランダに干された洗濯物が風に揺られていた。
知らない家族がそこで普通に暮らしていた。もうここには何もない。
確かに過去はここにあった。終わったんだな・・・・・
誰に言うでもない言葉が、空に弾けた。
それは敗北ではなく、一つの区切り。逃げるのではなく、前進するための。
夕陽が照らすアスファルトを五郎はゆっくり歩きだした。
五郎の心に光が灯った瞬間だった。
小さいけれど、消えない希望が・・・・・