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come next story 0005 言葉にできない想い
翌日 雨は上がっていた。
昨日借りたビニール傘を持って五郎は喫茶店に立ち寄った。
返すついでにコーヒーを飲むそれだけのつもりだった。
「おはようございます」
そう、言って傘を返すと紗英は微笑んだ。
「ありがとうございました 助かりました」
自然にお礼が言えた。五郎にとっては、小さな進歩。
珈琲を待つ時間、彼女の一言を思い出していた。
【私もそうしてもらいたいかな・・・】
小さいころ両親の怒鳴り声、どれだけ逃げても、心までは隠れることは不可能だった。誰かが傍にいてくれたら、どれだけすくわれたのだろうか・・・
あたたかい手で背中を撫でてくれる人がいてくれていたら。誰かを好きになれば、その人を遠ざける未来が来るんじゃないかと思うから、怖いのだ。
「怖いんです」
ふと口にした言葉。向かいにいた紗英が少し首を傾げた。
「何が怖いんですか?」
「誰かを・・・好きになることが・・・」
それは五郎の精一杯の言葉だった。
紗英はそれ以上何も言わなかった。何も聞かなかった。
でも頷いた。それだけで、救われた。
そう知ったのは、初めての感覚だった。