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come next story 0004 雨の日の誘い
昼過ぎから降り出した雨は夕方になっても、止まなかった。
折り畳み傘を持ってこなかったことを悔やみながら五郎は駅までの道を走るように歩いていた。
喫茶店の前を通りかかったとき、ドアが開いた
「よかったら、これ使いますか?」
差し出されたのは透明のビニール傘。
立っていたのは佐々木紗英さんだった。
「お店のものでしょ」
「余っているので、置き傘 忘れていく人がいるんです」
紗英は笑って言った。
よそよそしく、傘を受け取った。
「柴田さんですよね?」
名前を呼ばれて五郎は小さく頷いた。
「どうしてそんなに優しくできるのですか?」
気が付けば口が先に言葉を発していた。
雨音が邪魔して小さい声になってしまったのに、紗英は
「たぶん・・・私自身も、そうしてもらったらいいなと思うから」
その言葉を置き去りにして、紗英は扉を閉めた。
五郎はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
自分の中の何かが静かに揺れ、不安の塊が溶け始めたきがした。
その傘をさして歩く道は光に誘導されているように明るく感じた。