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come next story 0002 大人になった僕
柴田五郎29歳。
会社では「静かな人」と呼ばれ、悪口でもない、誉め言葉でもない、誰も深く踏み込んで付き合わないというだけ。
デザイン事務所で働いて7年。手がけるのはパッケージやロゴ。人と話すよりPCと向き合っているのが長い仕事でよかったと思っている。
朝出社して席に座り、仕事をこなして、定時に帰る。必要以上に好かれない。
けれど、駅のホームやスーパーのレジで目が合う人がいると五郎は時々思う。
"誰かと交流してみたい"と・・・・・
一瞬だけあらわれる感情を五郎はすぐに摘み取る。恋なんてありえない。人を好きになるのは自由。伝えることは不可。自分にはその資格がないように、感じ、思い込んでいるからだ。
"好きになったとして、その人が傷ついたらどうする"と自問自答し、自分の中にも父親と同じ何かがあったら?とそんな不安な思いを常に忍ばせている。
子供の頃押入れの中で、じっと息を殺していた自分が今もどこかにしがみついている気がする、大人になっても[何かを信じるのが怖い」のは継続進行形だ。
自分が誰かを愛せる人間かどうか?
五郎はまだ答えを持てないままだ。