怪物は海にいた。ニューギニア沖、航空隊壊滅
【記録番号:PAC-F-382/第5航空隊 戦闘報告書抄】
※この記録は、現地帰還者の証言を元に作成されたが、複数名においてPTSD・妄想性障害の兆候が認められ、証言の正確性には留保が必要とされる。
ただし、いずれの証言にも“共通点”があり、その点については事実と認定せざるを得ない。
⸻
【前提】
昭和十八年(1943年)八月末、連合軍航空隊はニューギニア沖にて日本艦隊を捕捉。
所属不明の大型艦艇が随伴しているとの報告があり、爆撃・雷撃を主とする航空集中攻撃を実施。
出撃兵力:艦爆28、艦攻24、護衛戦闘機12。
⸻
【作戦開始:AM06:02】
雲量少、天候晴れ。海上視界良好。
06:10、敵艦隊視認。主力艦4、随伴艦多数。
だが、その中心に存在していたのは――常識を逸脱した艦影だった。
⸻
【目撃証言:中尉 W・ランゲル(艦攻隊/発狂後入院)】
「あれは……戦艦? いや、違う。艦橋がビルだ。五階建てだ……!
主砲が六門? 違う、それぞれ三連装……でも、左右に“さらにもう一基”あった……
後部甲板? 空母のデッキみたいだった。おかしい。おかしい。
あれが本当に戦艦か? “あんなもの”が浮かんでるのが……現実か?」
⸻
【爆撃開始:AM06:16】
爆撃隊は、高度4,500mより降下を開始。
防空砲火は――信じがたい密度で展開された。
通常の戦艦クラスでは想定不可能な火線。
20mm、40mm、12.7cm、推定46cm口径級主砲までもが高仰角で発射され、空域全体が火に包まれる。
⸻
【目撃証言:大尉 H・カウリー(戦闘機隊/後に失語症)】
「仲間が燃えて落ちた。落ちたんじゃない、**“消えた”**んだ。
爆風でもない、被弾でもない。あの艦の砲塔が、空を向いた瞬間……
空が、裂けたような閃光。音が――ない。無音だった。
それが逆に怖かった。……音も出せず、ただ……消えたんだ」
⸻
【戦果:確認不能】
艦爆隊は全滅。艦攻隊は帰投0。護衛戦闘機4機が帰還。
だが、その誰もが口を開こうとはしなかった。
⸻
【精神崩壊】
生還者全員に、以下の症状が確認された:
•常時の怯え、無言の痙攣
•手の震え、幻聴、幻視
•命令への無反応
•「海が……目を開けた」「あれは人類のものじゃない」などの発話
以後、彼らは戦列に戻ることなく、医療施設へ転属された。
⸻
【その後】
当日、日本側の戦果報告において、被害は軽微。
中破艦一、他損傷なし。
攻撃を受けた艦名は不明、だが、目撃証言と一致する艦影は、再び確認されていない。
⸻
【結論】
これは新型戦艦ではない。
これは「戦艦」に分類すべきものではない。
軍事的優劣や数値による評価を超えた、怪物が確かにこの海域に存在した。
そして、それを見た者は、戦う意志を失った。
⸻
【追記:軍情報局報告】
本件を受け、心理戦の見地から分析中。
いかなる武装・装甲も問題ではない。
あの艦に必要なのはただ一つ――
“見られること”が最大の攻撃となる。