表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第二章:餓鬼界 - 満たされぬ渇望

光の階段を上りきると、彼の目の前に広がったのは異様な都市の光景だった。高層ビルが立ち並ぶが、そのすべてが歪んでいる。建物は飢えた胃袋のように膨らみ、窓は貪欲な目のように光っていた。


街を歩く人々は皆、異常に痩せ細っていた。彼らの首は細く長く、口は針のように小さい。手には様々な物を掴んでいるが、どんなに口に運ぼうとしても、食べることができずにいる。


「餓鬼界へようこそ」


ユリアナが現れた。しかし、ここでの彼女の姿は先ほどとは違っていた。同じように痩せ細り、渇望に満ちた表情をしている。


「ここでは欲望そのものが呪いとなる。どんなに求めても、決して満たされることはない」


彼も自分の体を見下ろして愕然とした。みるみる痩せ細っていく体。喉の奥から這い上がってくる、得体の知れない飢餓感。しかし、それは食べ物への欲求だけではなかった。


愛、承認、名声、権力...あらゆる欲望が一度に押し寄せてくる。心の中で何かが叫んでいる。「もっと、もっと!」


街の中央にある巨大な広場に向かった。そこには無数の人々が群がり、中央の光る球体に手を伸ばしていた。近づいてみると、それは純粋なエネルギーの塊のようだった。


「あれは何だ?」


「この界のすべての欲望が集約されたもの。誰もがそれを手に入れようとするが、触れた瞬間に消えてしまう」


実際、球体に触れた者は皆、落胆の表情で手を引っ込めていた。しかし、数秒後にはまた手を伸ばし始める。永遠に繰り返される無意味な行為。


その時、彼の脳裏に映像が浮かんだ。豪華な邸宅、高級車、美しい女性...しかし、それらすべてが色褪せて見える。なぜなら、もっと豪華な、もっと高級な、もっと美しいものが存在するから。


「君の前世を思い出したか?」ユリアナが問いかけた。


「私は...富豪だった?」


「その通り。アクシオム帝国の資源開発部門で権力を握っていた。しかし、どんなに富を蓄積しても満足できなかった。そして最後には...」


記憶の扉が少し開いた。惑星一つを丸ごと破壊し、資源を略奪した映像。無数の生命が失われる瞬間。利益のためなら何でもするという冷酷な決断。


「私は...悪魔だった」


自己嫌悪が胸を締め付ける。しかし、ユリアナは厳しい表情で言い放った。


「自己憐憫に浸るのも欲望の一つだ。今すぐやめなさい」


彼女の言葉は氷のように冷たかった。


「君が学ぶべきは、欲望そのものを否定することではない。それをコントロールすることだ。欲望は生きる力でもある。問題は、それに支配されることだ」


広場の隅で、一人の老人が静かに座っていた。他の者たちとは違い、中央の球体には目もくれない。代わりに、小さな花を見つめている。


「あの方は?」


「この界で最も長く滞在している魂の一つ。しかし、彼は既に次の段階への準備ができている」


老人に近づくと、彼は穏やかな笑顔を浮かべた。


「君は新しい旅人だね。私はもうすぐここを離れる」


「どうやって?」


「欲望を手放すのではなく、それを他者への思いやりに変えることを学んだのだ。自分だけでなく、すべての存在の幸福を願うようになったとき、飢餓は消えた」


老人の体が光り始めた。


「これが畜生界への道か?」


「いや」老人は首を振った。「私は人界を飛び越えて、直接天界へ向かう。君にもその可能性はある。しかし、それは君次第だ」


老人は光となって消えた。残されたのは、美しく咲いた花だけ。


彼はその花を手に取った。不思議なことに、触れても枯れることはない。それどころか、持っているだけで心が満たされていく。


「これが...本当の満足?」


「一つの魂の欠片を取り戻したようだね」ユリアナが言った。「欲望を他者への慈悲に変える力。これは君の旅路で必要になる」


花は彼の胸の中に吸収されていった。同時に、飢餓感が和らいだ。完全に消えたわけではないが、コントロールできるようになった。


「次は畜生界よ。そこでは本能と理性の戦いが待っている」


再び光の階段が現れた。しかし今度は、上るのが少し楽になっていた。魂の欠片が一つ戻ったことで、力が増していたのだ。


餓鬼界を見下ろしながら、彼は思った。欲望は悪ではない。しかし、それに支配されれば地獄になる。大切なのは、その力を正しい方向に向けることなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ