06
暗い洞窟。
進むと光る苔が生えており、ぼんやりと明るくなった。
クロウは荷を解き、乱暴に食料を置く。
「……親父さん…。遺体だけでもって思ったけど」
クロウを迎えたのは無限とも思える氷の洞穴だ。
命の香りはしない。
ハルの首飾りを、無意識に握りしめた。
クロウは少し離れたところで身を隠す。
息が、うまく吸えない。
吸えたところで、内から身が凍るようだった。
命の炎から遠いここでは、首飾りの守りも気休め程度だ。
刻々と、体から温度と同時に命が消えていく。
しかし時はそう経たず、動きがあった。
置いた食料が、がさりがさりと動く。
食らう音がする。
凍りついた肉がいとも簡単に引き裂かれる音がする。
クロウは待った。
寒さが晴れるのを待った。
しかしそれはない。
クロウは剣を抜き、迷いなくそれを振り抜いた。
けたたましい鳴き声が洞窟内に響く。
クロウは凍った体を無理やり動かし、更にもう一撃を与えるも、硬い毛に阻まれ、刃は通らない。
向き直る。
クロウはその姿を見た。
目の前にいるのは、氷の神様。全身を氷で包んだ巨大な獣だった。
人語を話すでもなく、ありがたい言葉や感謝を唱えるでもない。
ただ、苦痛を訴えたか、敵に対して吠えたのか。理解のできない咆哮だけだ。
その姿は村人が見れば神と崇めるのかもしれないが、クロウにとっては日頃相手してきた魔物とそう変わらない。
氷の神ではなく、氷の獣。
「…さすがに、あれ以上嫌われたくないし、言わなかったけど、間違いないよな」
クロウは1人つぶやく。
「貢物をもらって喜ぶのは、獣の類で間違いない」
クロウは剣を握った。
知る限りで何よりも大きく、何よりも強大。
それでもやるしか無かった。
やらなければならなかった。