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ICE  作者: Karionette
3/9

03




村では真剣な話し合いが始まった。

生き残った者たち全員で行われる。

そこに余所者であるクロウは参加しない。

だから、安置されている命の炎のすぐ近くに座って終わりを待っていた。


炎にはあまり近づいてはならないとされていた。古くから続くしきたりで、理由は炎は人を焼くもので、過去何人もの命を奪ったものだからだ。

しかしクロウはそれを気にしていなかった。そのような炎があるのも事実だが、この炎がそうではないことを知っている。


クロウの生まれ育った所は盗賊に襲われ、何とか逃げ果せたのはクロウだけだった。

村のしきたりを通し、命を奪ったから危険だというならば、クロウにとって1番危険なのは人間だ。

そうではない。人間全てがそうではないことをクロウは知っている。



「むしろ、アンタが人を焼くほどの大火なら、どれほど良かったことか」



クロウは火に投げた自分の腕を眺めて笑う。

命の炎に差し込んだこの手は、ただただ温かく、まるで包み込むように、どこまでも優しかった。


確かに人が変わるように、火も変わるのかもしれない。ある日突然人を焼くことがないというのは嘘だろう。

しかし、何年も気が遠くなるほど、温まりを与えてきた炎が、今更そうするとは思えなかった。

そしてそうしてくれれば、人でも何でも食らってくれれば、誰かは生きることが出来るのに。

クロウはそう考えていた。


今も己の役目は火の番。

囚人の相手のように、そうする必要が果たしてあるのか。


悶々と考えはめぐるも答えはなく、うつらうつらとしていた先に、名を呼ぶ声が聞こえた。

振り向くと、見慣れた青髪が揺れる。



「居眠り。してたでしょ」


「はい。終わったんですか」


「うん。火の番、ありがとう」



隣に座るハル。

心地よい温もりからか、疲労感からか。大きく声に出してため息をついた。

クロウは眉を寄せる。

ハルがため息をつくのは珍しい。



「……その、火の番って、なんなんですかね」


「うん?」


「囚人じゃあるまいし、番をする必要なんかないでしょう」



クロウはそのため息の理由を聞かなかった。

話したければ話せばいい。

禁じられているなら止めておけばいい。

話せるかどうかもわからないものを、聞き出そうとするのは無粋だ。



「んー。そっか。火の番ね。そう思ってたの?」


「思ってたの、ではなく、そう言われてきました」


「そうね。確かに」



ハルは炎に手をかざす。



「火を守る。話し相手になる。そんなかんじじゃない?」


「見張るのではなくて?」


「見張るも何も、命の火はどこにもいかないわ」



おかしな事言うのね、とハルは笑う。クロウも、抑え込むように笑う。

やはり、ハルは、村人とは違う。

ハルにはハルの考えがあり、受け継いでいるものも、染まっていないものがある。



「でも炎が危ないのもほんとよ。だから腕を突っ込むのはやめてちょうだい」


「了承しました」



いつか、ハルならば、分かってくれるだろうか。

この村の中ではきっと異端であろう自分の考えを。



「……クロウ」


「はい」


「私、行くことになった」



ガタンと音を立てて立ち上がる

物静かなクロウには珍しいことだった。



「………は?」


「行くことになった。聖地に。自分で決めたの」


「……は」



細い肩を掴み、揺さぶりながらクロウは声を上げた。




「何言ってんだ、あんたは!死にたいのか!」



その珍しい大声にひるむことなく、ハルはクロウの手を引きはがす。



「死にたいわけない!生きるために、行くの!」



その目は命の炎が宿っているようだった。



「私がいって、儀式を行う!氷の神様に怒りを鎮めてもらうの!それで帰ってきて、それでもダメなら他の手を考えて……」


「なんであんたなんだよ!」


「私が父さんたちの娘で、元気で力があって、帰って来れると信じてるからよ!」



ハルはクロウの肩を掴んだ。

細い手はか弱くても、決して弱者ではなかった。

クロウは唇を噛み締める。



「……なんでだよ。やめろって言っただろ」


「………」


「俺との約束はなんだったんだよ。親の道を追うなって、一緒に生きるって言っただろ」


「……ごめん」



互いの目が地に落ちた。

目が合うことは無い。

しかし、それでも光を失っていないのは、ハルの目だった。



「約束を破っても、私は皆が生きる道を選ぶ」



クロウは何も言わなかった。

何も、言えなかった。




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