02
氷の神の怒り。弱っていく命の炎。
減っていく村人たちは身を寄せあい、話し合う。
この先、どうするのか。
「やはり、儀式を執り行うしか…」
先の見えない未来の中で、何度もこの言葉が発せられる。
儀式。
氷の神様に捧げ物を行う儀式だ。
毎年決まって行われていたそれは、神への感謝を捧げるもので、村で育てた食べ物を神の聖地へ捧げてきたのだ。
以前ならば、それだけの話。
しかし、今は行けば帰ることのできない片道切符の話だ。
この寒さでは、帰りつくことはない。
現に決まって行われてきた儀式に帰るものはいなかった。故に、正式に行われたかさえわからない。
「儀式をしても、きちんと行えたかわからんのだぞ」
「確認しようにも、帰ることができん」
「どうするか」
「それでもせねば…もしかして長年できていないのかも…。だから神の怒りが…」
村人の話し合いに終わりはなく、結論がでることはなかった。
儀式を行う。しかし出来たかどうかもわからない。
ならば行わないのか。行うとしても時期が違う。それでいいのか。それで神は怒らないのか。
ハルは堪らず、声をあげた。
「やらないといけないならばやればいいじゃない!そうこうしていても、体力も落ちるだけだわ。帰れる者も帰れなくなる」
「しかし、掟では村の長者が行うことで、村長が行ったのが最後。あなたの親でしょう?」
ハルは村の代表者の娘だ。その代表者も数年前に儀式の執り行いのために聖地に向かい、そして帰ることは無かった。何があったか確認しに行ったハルの母も、同様に帰ることは無かった。
「年寄りが聖地まで行って帰るなんて無理な話だわ。でもわた」
「いけません」
クロウがその口を抑える。
ハルは目で抗議するも、険しい目でそれは返された。
「いけません」
睨み合う目。
張り詰めた空気は子供の小さな叫び声を更に響かせた。
咄嗟にその方向を振り向く。
子供たちは同じ先を見ていた。
「命の火が!」
指さす先の火は途切れる寸前かのようだった。火がちぎれ、痛がるように揺れている。
そして、更に更に弱まっていく。
「いけない!」
ハルは飛び出した。
炎に風がいかないように、全身で遮る。
命の炎は何も食べない。
木も紙も炭も、燃えるものをなにも必要としなかった。
だから、弱まっていく火を守ることができない。
燃料を与えることができないのだ。
心配そうに人々が見つめる。
ハルの不安そうな目の端に手が伸びた。
「クロウ!?」
クロウは真っ直ぐ、命の炎に手を突っ込んだのだ。
「ちょっと!止めなさい!危ないわ!」
すぐにハルはその手を引き剥がし、クロウは何ともない手を少し残念そうに見た。
「何してるの!馬鹿なの!」
「命の炎っていうくらいなら、生きてるものなら食ってくれるかなって思ったんですけど…。やっぱりこの火は温めるけど焼かないんですね」
「だからって火傷したらどうするの!」
「それで火が燃えて生きれるなら安いものです」
かつては自身の背丈よりも高く燃え上がっていた炎。
それが今や膝程度の高さだ。
村全てを温めてきた炎は、今やこの部屋や周りを温めるくらい。
死にかけている、とクロウは思った。
「何か食べないと、死にますよ」
クロウはひとり、呟いた。