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ICE  作者: Karionette
2/9

02



氷の神の怒り。弱っていく命の炎。

減っていく村人たちは身を寄せあい、話し合う。


この先、どうするのか。



「やはり、儀式を執り行うしか…」



先の見えない未来の中で、何度もこの言葉が発せられる。

儀式。

氷の神様に捧げ物を行う儀式だ。

毎年決まって行われていたそれは、神への感謝を捧げるもので、村で育てた食べ物を神の聖地へ捧げてきたのだ。

以前ならば、それだけの話。

しかし、今は行けば帰ることのできない片道切符の話だ。

この寒さでは、帰りつくことはない。

現に決まって行われてきた儀式に帰るものはいなかった。故に、正式に行われたかさえわからない。



「儀式をしても、きちんと行えたかわからんのだぞ」


「確認しようにも、帰ることができん」


「どうするか」


「それでもせねば…もしかして長年できていないのかも…。だから神の怒りが…」



村人の話し合いに終わりはなく、結論がでることはなかった。

儀式を行う。しかし出来たかどうかもわからない。

ならば行わないのか。行うとしても時期が違う。それでいいのか。それで神は怒らないのか。


ハルは堪らず、声をあげた。



「やらないといけないならばやればいいじゃない!そうこうしていても、体力も落ちるだけだわ。帰れる者も帰れなくなる」


「しかし、掟では村の長者が行うことで、村長(むらおさ)が行ったのが最後。あなたの親でしょう?」



ハルは村の代表者の娘だ。その代表者も数年前に儀式の執り行いのために聖地に向かい、そして帰ることは無かった。何があったか確認しに行ったハルの母も、同様に帰ることは無かった。



「年寄りが聖地まで行って帰るなんて無理な話だわ。でもわた」


「いけません」



クロウがその口を抑える。

ハルは目で抗議するも、険しい目でそれは返された。



「いけません」



睨み合う目。

張り詰めた空気は子供の小さな叫び声を更に響かせた。


咄嗟にその方向を振り向く。

子供たちは同じ先を見ていた。



「命の火が!」



指さす先の火は途切れる寸前かのようだった。火がちぎれ、痛がるように揺れている。

そして、更に更に弱まっていく。



「いけない!」



ハルは飛び出した。

炎に風がいかないように、全身で遮る。


命の炎は何も食べない。

木も紙も炭も、燃えるものをなにも必要としなかった。

だから、弱まっていく火を守ることができない。

燃料を与えることができないのだ。


心配そうに人々が見つめる。

ハルの不安そうな目の端に手が伸びた。



「クロウ!?」



クロウは真っ直ぐ、命の炎に手を突っ込んだのだ。



「ちょっと!止めなさい!危ないわ!」



すぐにハルはその手を引き剥がし、クロウは何ともない手を少し残念そうに見た。



「何してるの!馬鹿なの!」


「命の炎っていうくらいなら、生きてるものなら食ってくれるかなって思ったんですけど…。やっぱりこの火は温めるけど焼かないんですね」


「だからって火傷したらどうするの!」


「それで火が燃えて生きれるなら安いものです」



かつては自身の背丈よりも高く燃え上がっていた炎。

それが今や膝程度の高さだ。

村全てを温めてきた炎は、今やこの部屋や周りを温めるくらい。


死にかけている、とクロウは思った。



「何か食べないと、死にますよ」



クロウはひとり、呟いた。





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