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ICE  作者: Karionette
1/9

01



雪に閉ざされた氷の村。

氷の神が守るこの村で、人は凍てつく寒さの中で互いに手を取り合い、支え合って生きてきた。


しかし、それにも限界が訪れていた。毎年、毎月、毎日。気温は下がっていく。


神が怒り、生命がそこにいるのを許さないかのように。



「クロウ。ここにいたのね」



村の高い見張り台に相応しくない可憐な声が響いた。

肌は寒さで少し赤らんでいるが、雪のように白い。長い青髪が首元や背を守るかのように覆っていた。



「…お嬢様、外に出ては危険です。中にいてください」



クロウと呼ばれた男は仏頂面でそう言った。淡く短い茶色の髪には薄く雪が積もり、同じ色をした目はゴーグルで冷たい風から守られている。


首元の、同じ赤い首飾りが揺れる。

この、身も凍る寒さから守るための道具だ。



「もうお嬢様ではないわ。そんなことを言うのもお前くらいなものよ。ハル。そう呼んでって言ってるじゃない」


「身の程はわきまえてます」


「そんなもの、もうないって言ってるのに」



ハルはふうとため息をつく。



「身分も関係なく、みんな寒くて凍えていて、結局なにもできないの。氷の神様の怒りは止まらない。

中も外も、温かさはそう変わらないわ」


「それでもまだ火があるでしょう」



街の中心には、消えない炎がある。

この氷の世界で生きていく上で、必要不可欠な命の炎だ。2人や街の人全員が持つ首飾りもその火からできている。


かつて、命の炎は村全体を温め、人々はその温もりの中で過ごしていた。


その命の炎が。弱っている。

この寒さに負け、小さい灯火のようになっているのだ。



「私は、大丈夫。火の近くには子供たちがいるといいわ」


「……そうですか」



雪と氷の世界を2人で見つめる。

見るもの全て、凍結した世界だ。


温かみもなく、毎日のように村人は凍え死んだ。

村の離れには血さえ流れることの無い氷の遺体が眠っている。しかしそれさえ雪が覆い、ただの白へと変えていた。

そんな景色。

生まれ育った景色をハルは睨むように眺める。



「貴方がここに来たことを思い出すわ。小さな子供で、背丈以上ある雪の中を歩いてきたのよね。かき分けて、かきわけて、外で遊んでた私の前で倒れるんだもの」


「当時、貴方も子供だったでしょう」


「ふふ。そうね。だから驚いたわ。最初雪の精霊かと思ったくらいよ」


「……」



懐かしそうに笑うハルを、クロウはじっと見つめる。

なにか言いたいんだろうと、その顔を見て思った。



「俺も驚きましたよ。こっちは死にそうで必死なのに、精霊さんこんにちはー、とか言って。ふざけてんのかなって思いました 」


「ご、ごめんね。あの時は、その……」


「冗談です」



自分がここから離れなければ、ハルが動きそうにない。

自分の着物をハルに被せ、クロウは手を引く。



「行きましょう。幸いまだ食い物はあります。湯はまだ、命の炎も作ってくれてますから」


「その食料も貴方が狩ってきた魔物の肉じゃない。なのにみんな余所者だって、無駄な見張り役ばかり…」


「いいんです。俺は。でも腹は減ったので、何か食わせてください」


「…わかったわよ」



クロウに手を引かれ、ハルが歩く。

繋いだ手は氷の世界の中でも、神の怒りの中でも、変わらず温かかった。




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