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大迷惑聖女のおかげで村ごと異世界転移しちゃったので王国を作ろうと思います!

作者: 上田ミル

初めての長編書いてる合間にふと、思いついたのでそのまま書きなぐりました。

短編初挑戦!

※追記:拓海の口調を少し柔らかい感じに変えました。職業を具体的にしました。(2/15)


俺は田舎が嫌いだ。

なんてったって虫!ダンゴムシとか蚊とかムカデとかさあ、なんで家の中まで入ってくるんだよ、人間様のテリトリーに入ってくるんじゃねえよ。住み分けしようよ。あと遊ぶところがぜんぜんない。シャレたバーとかカラオケとかコンビニすらない。帰省してもスマホの電波も届かないからやることがなんもない。だからもうこれで帰省するのは最後にしたかったんだ。そして、本当にこれが最後の帰省になってしまった……


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


俺の名は江端拓海(えばたたくみ)。25歳で某外資系保険会社に勤める営業マンだ。


今回の帰省の目的は、一人で田舎に住む父方のばーちゃん80歳に、俺の両親の住む世田谷でいっしょに住んでくれ、という説得だ。(俺は横浜で一人暮らし)

ばーちゃんが住んでいるところは限界集落で、俺が5歳のころまで住んでときは100人くらいいたが、今はもう8人しか住人がいない。電気はギリギリ通っているがガスも水道もないから、湧き水やら薪で生活してるんだぜ、信じられないだろ?

屋根は茅葺だし、あんまりにも交通の便が悪すぎて観光地にもできないし、いったいどこのポツ〇と1軒家だよ、ポツ〇と8軒家だよ!ポツンが当社比8倍だよ!(怒)


と愚痴りながら息を切らしつつ俺はばーちゃんの家まで8時間かけて着いた。革靴が泥でぐちゃぐちゃだ。バーバリーのスーツが風景の中で浮きまくってる……まあ、見てるのは鹿とかタヌキとかだからいいけどな――って、普通に鹿が道歩いてるよ、日本昔話かな。


「おばあ様、拓海です、ただいま帰りました」

俺は頭に引っかかってる葉っぱを払いながら顔をキリっと引き締める。

返事を待たずに玄関の戸をガタガタと開けると、のそのそとばーちゃんが奥から出て来た。田舎の人って鍵かけないんよなあ。

「おー、タク坊、おかえり。遠いところありがとうね。まあまあ、ますますええ男になっって」

白いタオルでほっかむりをして割烹着を着たばーちゃんがしわだらけの顔をさらにくしゃっとさせる。

会うのは5年ぶりだけどずっと変わってないな……。

年寄りって途中からあんまり外見変わらなくなるよな。


「あいかわらず外面だけいいのは変わっとらんね」

と、ニヤっと笑った。おれはぐっ、と詰まる。

「ちょっと待ってよ、ばーちゃん、それは言わない約束でしょ――」

と俺がお決まりの返事を言ったそのとき――


ぐにゃり


と視界のあらゆるものが歪んだ。

「「えっ?」」

ばーちゃんと俺の声がシンクロした。2人同時に何かが起こったらしい。

そのぐにゃり、と世界が丸ごと歪んだような感覚に思わず叫ぶ。

「うわあああ、気持ち悪いいいいいいいいい」

その叫びを最後に俺は意識を失った。たぶんばーちゃんも。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


気が付いたら俺は元の村の中でうつ伏せに倒れてた。うわっ、バーバリーのスーツが土だらけだよ、クリーニング代すごい高いのにさあ。ばーちゃんはどうしたかな?と、両手で服をはたきながらあたりを見回すと。


いない!!ばーちゃんいないよ!

慌ててあたりを探すが……なんかちょっと空気おかしい?

村の中はそのままだけど、外の景色は俺の知ってる田舎じゃない、童話に出てくるような毒々しいでかいキノコとか、食虫植物の巨大なやつとか、曲がりくねって根っこがウネウネ動いてる木とか生えてる!なにこれ、今の田舎ってこんなの生えるの?やばくね?


1人で焦ってると。

「ごめんなさああああああああああい!!!!!!」

女の子の声が聞こえた。空からだ。

「ええっ?」

見上げた空から女の子が降って来るところだった。


どすん!!!

とっさに俺は女の子を受け止めた。運が悪ければ俺も死ぬこともあるだろうけど、勝手に体が動いて軽々と受け止められた。


「ひゃー、あぶなかったあ、ありがとうございますですわ!勇者様!」

「はいい?」

俺は女の子を降ろしてまじまじと見た。黒くて丸い、レンズが分厚い眼鏡をかけている。

上半身は修道女みたいな白と黒のやつだけど、下はヒラヒラとしたスカートだ。

アマ〇ンで「シスター服コスプレミニスカ3980円」とかで売ってるやつだ。


「勇者?だれが?」

「貴方様です!わたくしが召喚いたしました!」

とドヤ顔。

えっ、これってよくある異世界転生……じゃないな、俺死んでないから――ああ、転移だな、転移。

ライトノベルってあんまり読まないけど、幸いその程度の知識ならある。

やっぱり日本語通じるんだな。いやさ、いざ自分がそれを経験してみると、驚きはするけど案外受け入れられる……いや、まだ現実に俺の気持ちが追い付いてないだけか。


「勇者様!お願いです!我が国をお助けください!」

(うっわ、めんどくさ!)


王道的なことを言い出した女の子はメガネのレンズが分厚すぎて目が良く見えないけど、声はかわいい。15、6歳くらいかな。

「いや、あの、勇者って言われても……俺特になにも変わってないし」

「ええー、そんなはずないです。なにかすごい魔法とか剣技とかお持ちのはずですわ」

「失敗したんじゃない?だから勇者ムリ。それより有給あと2日で終わるから日本に帰してくれる?」

「え、帰し方わかりません、あちら側から召喚してくれないと……」

「ああん?いやちょっとそれ困るよ!無責任すぎる!クレームはどこに付けたらいい?窓口は?」


とかなんだかんだ言いあってると、遠くの方から――


ギャッギャッギャ

グォオオオオオオ

ショゲエエエエエエエエエエエ


動物?のすごい吠え声が遠くから聞こえた。しかもだんだん近づいて来る。


「あっ、そうだわ、王国を襲撃して来た魔物たちの群れを勇者さまに殲滅していただきたくて、わたくしが空を飛んでお連れしましたの、この空飛ぶ椅子に乗って……途中でくしゃみをしたらバランス崩して落ちてしまいましたが」

テヘ、と女の子は小首をかしげた。隣には背もたれがハート形したファンシーな椅子がある。


「ちょっとぉおおおおお、なにしてくれてんのぉおおおおおお!?俺は勇者じゃないって言ったでしょ!お家に帰してよ!」

混乱して口調がおかしくなったが俺は必死だ。普通、勇者は王様に会って装備一式もらってからセクシーな剣使いのねーちゃんとかロリな魔女っ子といっしょに魔王討伐に行くものでしょ?

なんでいきなり魔物の群れなんだよ!


「無理です無理!普通のサラリーマンには無理」

「ええー、勇者じゃないなんてことありませんわ、だってわたくし、大聖女アーシアが召喚したんですもの!」

「じゃあその大聖女様が倒せばいいんじゃないのか?」


アーシアはきょとん、とした。

ちょっと小首をかしげてから、ぽん、と右手を握って左手に打った。

「勇者様ったら、頭が大変よろしいのですね!今までそこに気が付いた勇者はおられませんでしたわ!」

「今までの勇者、ポンコツかよ!」

「でもダメなんです!これくらいの数の魔物くらい、チャッチャと倒していただかないと勇者認定できませんので、よろしく!」


ゲェグウアアアアアアアア!

と耳を覆いたくなるような魔物の叫び声。

何かがすごいスピードでこっち来てる!

それは見るからに早そうな、馬型の化け物だった。頭に角が3本も生えてて口から火吹いてる!

しかもでかい!普通の馬の3倍くらいある!


「B級魔物トリコーンです!さあ、勇者様、早くやらないとどんどん別のも来ちゃいますよ!あ、逃げても無駄です、時速150km出ますから!」

「ムリムリムリムリいいいいいいい」


今までどこか異世界転移なんか他人事だと思ってた……

あ、だめだ、小さい頃のばーちゃんと俺の思い出が蘇って来た。走馬灯かな?


トリコーンがジャンプした。そのまま俺の真上に降って来る。

圧死はいやだああああああと俺は両手で頭を抱え、体を丸める。

これって飛行機が落ちるときの防御姿勢だっけ?なんでもいいや、なんでもいいからたすけてえ!


「タク坊!そのまま伏せてな!」

「うひっ!」

ダンダンダァン!!

と銃声が聞こえ、俺の目の前でトリコーンがぐるん、と回転しながら吹っ飛んで行く姿が見えた。


俺はポカンと口を開けたままゆっくりと立ち上がり、後ろを見た。

そこにいたのは……

「ばー……ちゃん?」

エアガンを持ち、腰がまっすぐに伸びたばーちゃん・政子80歳がそこにいた。

いや、80歳じゃないや、俺、アルバム見て知ってる、30歳前後のときの政子ばーちゃんじゃないか……

あとさ、エアガンでなんで実弾撃てるの?


「おおーなんかこのエアガン、威力があがっとるのお、ほっほっほ」

声は若いのに、口調は婆のままですごい変。


「あれ?勇者様用の強化魔法なのになぜ別の方が……あっ」

アーシアはばーちゃんの後ろを見て声を上げた。

「やだああああ、点魔法で召喚したはずなのに範囲魔法になっちゃってます!」

アーシアはがくりと膝をついた。

「やっぱりあのときくしゃみしたから……わたくしとしたことがなんてこと!」

「えっ、それってお前が村ごと異世界に召喚したってこと?」

「じ、事故です事故!あと、『お前』じゃないです!大聖女様ですわ!」

「ああそうかい、『大()()聖女!』何もかも君のせいじゃないか。さっきもそれで空から落ちたんだろ?っていうか聖女ってくしゃみとかするんだ」

「花粉症なので(ぐすん)」

「こっちにも花粉症あるのか……」

人類は花粉症から逃れられないのか。俺はぞっとした。


「たく坊、戦闘準備しな!いっぱい来てるよ!」

「あっ、ほんとだ、化け物の集団がこっち向かってくる。戦闘って俺、何も持ってないよどうしよう、なにかないかなにかないか」

ポケットを探り、上着を脱いだりするがなにもない。


化け物集団はざっとみても50匹以上いる。大聖女様はなんと、自分だけ空飛ぶ椅子?に座って浮かんでやがる!ずるい!

いくらばーちゃんがガン持っててもこれじゃあ囲まれて終わりだよ。

走馬灯第二章はじまっちゃったよ……


シャギュァアアアアアアア!

ギイイイイ!ギィイイ!!


迫りくる魔物たちを若くなった政子ばーちゃんがエアガンで次々と倒してくれるけど、数が多すぎる。大聖女は空中で「がんばってくださいませー」って言ったっきり降りてこないし。

俺はもうやばいやばいと繰り返しながらばーちゃんの後ろでガタガタ震えてるしかなかった。


「待たせたな!」

後方から低くて野太い男の声が!助っ人来た?!


ギュウイイイインン!


レーザーが俺の正面まで迫っていた二足歩行の豚っぽい魔物を10匹まとめて貫いた!

その後からも


ドゥンドゥンドゥン!


と腹まで響くような重い音やパララララと軽快な音がするたびに鳥っぽいのやら熊っぽいのやらがどんどん倒れていく。


その音の正体は――


「村のじじいとばばあたち……」

俺はあっけにとられてつぶやいた。

全部で7人。みなそれぞれにライフルやら弓やら大型の水鉄砲を持ってる。そして彼らも20代から30代くらいの若返りしていた。みんなビシっとした立ち姿で銃を撃ちまくって魔物をあっというまに片づけてしまった。そういや彼らみんな猟師免許もってたっけ。


「源三ちゃんたち、ありがとうねえ」

「遅くなってすまん。家に武器を取りに帰っとった」

「いやー、しかしなんでみんな若い姿になっとるん?」

「はてさて、不思議なこともあるもんじゃのう」

「体が軽いんじゃー」

「遠視のメガネなくてもよう見えるわ」

「補聴器なくてもよう聞こえる」

「30年来の腰痛が治った」


などどワイワイやっている政子ばーちゃん含めて8人の村人たち。全員75から80歳だったはず。

「おい、アーシア。これはいったい?」

大聖女どのは「安全……よし!」と確認して椅子から降りて来やがった。

「わたくしの召喚魔法で呼ばれた勇者様は最盛期の肉体になるようになってます。あと、自分が一番得意な武器も弾やエネルギーが使いまわし魔法によってほぼ無限&強化されますのよ、えっへん」

「うわ、すっごい偉そう。でもなんで俺だけ変わんないの?」

「その姿が最盛期のようですわね」

「えー」

体力的には10代が一番だと思うんだけどな。


「それはそうと、タク坊はなんの武器が使えるんだい?」

空気読まない友美ばあちゃんが俺に向かって聞いてきた。政子ばーちゃんの60年来の友達だ。

「うっ、それがさ……俺だけなんもないみたいで――」

自分で言ってて悲しくなった。ひょっとして俺、足手まとい?

「おかしいですわね、範囲だけは失敗しましたが召喚魔法自体は完璧でしたのに」

アーシアもしきりに首を傾けていると。


遠くから馬に乗った騎士っぽいのが3人こちらにかけて来た。

「「大聖女さまあああああああ」」

ほんとに大聖女様だったっぽい。


3人の恰好を見て驚いた。うっわ、すごい!ビキニアーマーだ。

露出が高いけど一応は騎士、みたいな恰好の女性が降りてきてアーシアの前に膝を付いた。

後の2人も馬から降りたけど、げえ、男なのにすごい露出高い鎧付けてるよ。美男美女だけどここってみんなそういう恰好するのが普通?


「大聖女様、大変です!こちらをご覧ください!」

女騎士がそう言って懐中時計みたいなやつをパカっと開けたら映像が空中に浮かんだ。


『大聖女アーシア・アースランド!そなたを国外追放とする!王都のど真ん中で召喚失敗して邪竜が出現するわ、魔法実験と称して王国軍の鎧をビキニアーマーに変えるわ、その他大失敗の数々のおかげでわがレトルリア王国の財政が危機に瀕しておる!異存はないな?』

王冠を被った王様っぽい人が目を吊り上げて怒鳴ってる。


「えええ、国王さまああ、それはくしゃみのせいで私のせいではありません。それに大聖女の私がいなくなったら国の護りはどうするのです!」

アーシアは泣きそうにながら言った。今までもくしゃみで失敗してたみたい。

っていうか、聖女ってだいたい陰謀とか嫉妬とかの冤罪で追放されるもんだと思ったけど、これは妥当な追放じゃないかな。


『ふふん、我らには小聖女様がおられる!そなたが国の周りの魔物たちを根こそぎ持って行ってくれたおかげでこのお方でも十分間に合う。それにそなたよりも魔力が小さいからくしゃみしてもワシの衣が吹き飛んだ程度でかわいいものだからの。おまけに顔もかわいいから王太子の婚約者にした』

『はーい、アーシア、見てるー?サリーナです。あなたの後釜は私がきちんと努めますので心配なさらないでくださいまし』

けっこうな美少女が美形の王太子っぽいのイチャイチャしながら言ってる。あ、これライブ映像なのね。

「ええ、王太子様ってわたくしの婚約者だったじゃないですかああ」

『ごめんよ、アーシア。でも父上の命令だしさ』

などど言いつつも王太子の顔はにやけている。

『『じゃ、そういうことで!』』

プツンと映像が切れた。あっさりしてんな。あとこの国の聖女みんなポンコツかな!


「う、うええええん。王太子様、結構好きだったのに……(お顔が)」

「そ、そんな、泣くなよ……」

女の子が泣いてるのっていたたまれないしほっとけない。

俺がハンカチを差し出したら、アーシアは眼鏡をはずして被り物も取った。

うっわ、猫耳だ!髪もふわっふわのくるくるツインテール!めっちゃ猫系美少女!

耳がペタンってなってる、と内心盛り上がった。やっぱり、ここって異世界なんだ……今頃現実を感じて来たよ。やばい。


「……ありがとうございます」

アーシアはえぐっえぐっって泣きながらも俺のハンカチを受け取って涙を拭いた。

「アーシア様……」

騎士たち3人も8人の元爺婆の勇者たちも心配そうな顔でアーシアを見守っていたら。


グギャアアアアアアアア!!!

いきなり今まで一番大きな化け物の声がした。

「な、瞬間移動してきた、S級魔物のジャイロックだ!!」

騎士たちが剣を抜いて叫ぶ。

それは俺のすぐ後ろに降り立った、巨大な鷹だった。ぎざぎざの歯がびっしりついた口ばしが迫る!

「う、うわああああああああああああ!!!!!!!!!!」

それは俺の魂からの叫びだった。こんなところで死にたくない!!!!


ブワッ!!!!ドゴーーン!!


「「「「「えっ?」」」」

俺も含めてそこにいた全員が目を見張った。

体長4メートルくらいもありそうな鷹の化け物が翼だけを残して粉々に吹き飛んだのだ。

「今の……俺が?」

アーシアがメガネかけて俺を指さした。

「それです、勇者様!ボイス・ソニックですわ!!」

「さすが勇者様です!超一級の能力ですよ!声がそのまま衝撃波になるんです。なんたって武器が必要ないのですから最強です!」

女騎士様も興奮している。


「さすがタク坊!」「やっぱりエリートは違うねえ」「りっぱな勇者様じゃ!」

村人たちも口々に褒めたたえてくれる。よかった、俺も戦える……。でも。

「ボイス・ソニック……それはうれしいんだけど。だけど、情けない叫び声が武器って恥ずかしくない?」


「「「…………」」」

ちょっと、みんな一斉に黙るなよ!

「せっかく勇者様が認定されてもわたくしが……王国を追い出されてしまいまして文無しの宿無しですわ……」

と、アーシアがまた泣き出した。

「大聖女様、我らが付いております、どうか気を落とさずに……」

騎士たちも慰めにかかった。なんだ、彼ら、いい人たちじゃないか。恰好は変態みたいだけど。


「じゃあさ、アーシア、せっかくだからここに王国を新しく作ったらいいんじゃないか?」

俺は彼女を泣き止ませるために、半ば冗談で言ったんだ。そういえばちょっとは笑ってくれるかな?って。

「王国を……作る……」

アーシアが顔を上げた。猫耳がピン、ってなった。


政子ばーちゃんが自分ちの中を外から確認しながら言った。

「それはいいね。この村は完全自家発電だし、家の中もオール電化じゃ。水は近くの小川から引いてて濾過装置もあるからそのままでも飲める。畑はあるし生活には困らんよ」

あれ、そういえば家の電気付いてる。水力発電と太陽電池発電が生きてるってこと?


「ナイスアイデアですわーー!!!」

アーシアが叫んだ。今気が付いたけどスカートの後ろに穴が開いててしっぽがピーン!って上に伸びた。

「この場所は周りが死の森と言われるくらい危険な土地なのです。でもその分、希少価値のある薬草や魔物たちのドロップ品がすごく高価で売れますの。勇者様たちのお力なら資金調達には困らないですわ」

「なんだって……いや、そんな――冗談だったんだけど……(小声)」

茫然とする俺を放っておいて周りがどんどん話進めてる。

みんな新しく王国を作ることにワクワクしているようだ。あれ、外堀埋まった?


「それにな」

政子ばーちゃん、いや政子さん、というほうがいいのかな、が俺の肩をポン、と叩いた。

「わしらがこの年齢になった理由がわかったよ。それにお前さんが変わってないのもな」

「え?」

「わしら8人はこの年齢の時に結婚したんじゃよ」

「そういえば、そうか、思い出した。ばーちゃんとじーちゃんが結婚したのって27歳だったっけ」

「そう。その時は人生の最高に幸せな時じゃった」

「じゃあ俺が今のままってことは」

「まだ最高の時が来てなかった、それだけのことじゃないかの?」

ニヤリって感じで笑うばーちゃんの顔を見て俺はなぜか納得できた。


「わしはな、実は次にお前さんが来てくれたらもうこの村を引き上げるつもりじゃった」

「えっ」

「そろそろ足も動かんようになってきとったしの」

「そうだったのか。……ごめんよ、それなのに俺に巻き込まれてみんな異世界に連れてこられちゃってさ……」


ばーちゃんじーちゃんたちが笑った。

「いや、むしろ感謝しとる」

「わしらは好きな人と結婚して、子供が生まれて、孫ができて。もうこれ以上の幸せはない。もういつ死んでもいいと思っとったよ」

「でもな、わしらは嫁や夫、姑や舅、息子娘に孫たちのために生きてきて、それらが一区切りついてやっと自分たちのために生きられる、と思った時にはもうヨボヨボだったんじゃ」

「そんなわしらにまったく新しい人生をくれたんじゃ。今度こそ自分の好きな生き方ができるのが楽しみでしょうがないよ」

「タク坊と大聖女様のおかげじゃ」

「んだんだ」

「じいちゃん、ばあちゃんたち……」


俺はなんて言っていいかわからなかった。血が繋がってるのは政子さんだけだけど、他の7人も俺を孫同然にかわいがってくれた人たちだ。俺の何倍も生きていろんな経験をしてきたんだよな。すげえたくましい。

「うん、だったら元凶の俺ががんばらないとな。じいちゃんばあちゃんたちが異世界でもいい生活できるように、俺、村を発展させるよ。ばーちゃんたちがいたらきっとできると思う」


「勇者様ーーー!うれしい!()()()()()()()に王になって王国を築いていただけるなんて!!」

えっ、いや君のためじゃない、って言おうとしたけど、アーシアの笑顔と喜んでる様子がすごくかわいく見えて、俺は否定はできなかった。やっぱり、女の子は笑ってるのが一番いい。


――数か月後――

「クーゲルシュライバーーー!!!」

チュドーーン!

とA級魔物たちが吹っ飛ぶ。


俺はボイス・ソニックの使い方をマスターしていた。

語尾の母音がア行なら広範囲の衝撃波が出る。イ行なら細いビーム型の衝撃波だ。

「シュピールツォイク!!!」

シュワワワワワワ


ウ行だとなぜか魔物が寝る。寝ている間に羽抜いたり、縄で縛って無力化できたりするのでかなり使い勝手がいい。

「おおおお、さすが勇者王様!」

「すばらしい!最高です!」


と騎士3人と爺婆改め勇者たちが手を叩いて喜んでくれるので俺はかなり気分がよかった。いくらでも魔物なんか倒してやるぜ!

でも、実は叫んでる言葉がドイツ語で「ボールペン」とか「おもちゃ」とかいう意味なのは内緒ね。

俺は大学時代ドイツ語専攻だったし、頭に浮かんだ言葉がそれだったんだ。


ボイス・ソニックは、その言葉をゲラゲラ笑いながら何回か続けて使ってたらそれに固定されてしまった。まあ、ドイツ語分かる人この世界にいなさそうだからいいけど。


俺のこの力と、ばーちゃんじーちゃんたちの武器とで村の周りをどんどん開拓してたら、死の森で細々と暮らしてたコボルトたちやら、羽の生えた翼人たちやらが「ここは安全だから住まわせてほしい」って言ってきた。開墾する人手はいくらでもほしいから国民になることを条件に許可したおかげで今は200人くらいに増えた。国の経営は3人の騎士たちが教えてくれてうまくやれてる。彼らはビキニアーマーは脱いで普通の農夫の恰好になってる。


実は彼らは人竜族で普段は人間の姿だけど竜形態になると鱗としっぽと翼が生えてパワーが5倍くらいになって畑の耕す速度がすばらしい。


「タクミ様ー、休憩になさいませんか」

アーシアが俺を呼びに来た。手にパンとワインが入ったバスケットを持ってる。

「ありがとう、今行きます」

俺は丁寧口調に改めていた。この口調だとアーシアが喜ぶんだ。勇者らしくていいんだってさ。

もともと営業職で外面だけはよかった俺だからこの口調も慣れてる。


アーシアとは今ではすっかり仲良しになった。だって、彼女、この間『「王国を作る」って言ってくださったときのお姿に胸がキュンとなりました』とか言ってくれたんだぜ。

俺は思ったね。『今が俺の最盛期だ!』って。

彼女の花粉症も、政子さんがよく効く薬を持ってたおかげですっかり良くなった。今は村でもヨーグルトを作ってるから、完治したんじゃないかな。あれ以来大きな事件は起こしてないから平和だ。


俺たちはお気に入りの丘に登って、大きな木の陰に座って村を眺めた。

ここに来てから5倍くらいの大きさになってる。村人も増えてみんな忙しく働いている。

一から村を作るのは大変だけど楽しい。

この先もどんどん大きくなっていつかは王国、と言えるくらいになるといいな。


王様か……もう営業先でバッタみたいに頭下げたり理不尽なことで得意先様に怒られたりしないからいいな、くらいの気持ちだけど、今の俺の心はこの青空みたいに晴れてる。空ってどの世界でも変わらないんだな。


この後、アーシアが原因で魔族の軍団が攻めて来たり、レトルリアの王様が小聖女の魔力の無さに困って『戻ってきてくれ』と泣きついてきたのをザマァするのはまた別のお話。


――終わり――

ここまで読んでくださってありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです!


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[一言] ビキニアーマーって男かよ! 何も問題は無いな 聖女にもビキニアーマーを装着してもらおう
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