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その②「静所さんからの呼び出し」

 午後の授業は現代文からスタート。


 授業前、スマホゲームをしようと約束した友人からは、『どうして来なかった?』と問われた。

 だが、『静所さんが猫を話すのを見た』とは言えない成行。友人には申し訳ないと思いつつ、『腹痛』とだけ答えて誤魔化した。


 一方、クラスメイトの静所見事の姿がなかった。彼女の所在を伝えたのは、現代文の男性教師だった。

「静所さんは、体調不良のため保健室で休んでいます。そのつもりで」

 見事の行方を気にしていたクラスメイトたちは、少しだけざわついた。皆、彼女がいないと話していたからだ。


「はい、静かにね」

 現代文教師の一言で皆、授業モードに切り替わる。


 もしや、見られてはいけないものをクラスメイトに見られて、体調を崩したのか。

 だが、思い出せば思い出すほど、考えれば考えるほど、不思議な光景だった。あれは絶対に猫と会話をしていた。見ていない人は絶対に信じてくれないだろうが、彼女は猫と会話をしていた。


 今、思えばスマホで録画すればよかったかな?一瞬、そう思った。

 が、ハチワレ猫の反応が蘇る。それをしなくてよかったと思い直した。あの時、あの猫は盗み見されたことに対して憤慨していた。


 何であんな場面に出くわしてしまったのだろう。この後、何もなければいいのだが。



 ※※※※※



 放課後になった。


 結局、見事は午後の授業に顔を出さなかった。クラスメイトたちは、そのことを不必要に騒ぎ立てることなく一日が終わろうとしている。


 帰りのホームルームが終了し、クラスメイトたちは個別行動に移る。部活に行く者、気の知れたグループで遊びに行く者。そして、異性と一緒に帰る者。




「帰るかな・・・」

 背伸びをして、帰り支度を始める成行。


 午後の授業中、成行は考えていた。もしかしたら、あれは何かの勘違いだったかもしれない。

 第一、証拠も無しに決めつけはいけない。もしかしたら、見事は本当に腹話術の練習をしていたかもしれない。本人に確認していないのだから、勝手に猫と会話していたと決めつけてはいけない。今の世の中、一方的に何かを決めつけてしまうということが多い。それじゃあ、いけない。


 まるで自分に言い聞かせるように、成行は一年C組を出発した。途中、廊下で同級生と帰りの挨拶を交わしながら、昇降口へ向かう。


 昇降口の靴箱へと着いた。自分の上履きをしまおうとしたときだ。


「ん?」

 靴箱の奥に何かがある。


「これは・・・?」

 そこには白い封筒があった。それは、まるで成行の到着を待ちかねていたかのように、靴の上に置かれていた。


「これって・・・」

 封筒をまじまじと見つめる。表には、『岩濱成行さまへ』との宛名。


 封筒はピンク色のハート型シールで封をされていた。あからさまなラブレター感に思わず笑みがこぼれる。


 靴箱にしまおうとした上履きを、床に放り投げて履き直す。封筒をブレザーの内ポケットにしまうと、成行は昇降口近くの男子トイレへ向かう。


 タイミングよく男子トイレには誰もいなかった。迷わず個室へ入ると、ここでブレザーの内ポケットから封筒を取り出した。


 成行は咳払いする。

「では、開けます!」


 恭しく封筒を開封する。すると、トイレにいながら、フワッとした甘い香りが成行の鼻をくすぐる。心までフワッと温かい気分になった。薄い桜色の便箋からよい香りがするのだ。


 ここにきて成行は、いよいよドキドキする。生まれて初めて受けとったラブレター。今どき、わざわざラブレターを送ってくるなんて、どんな子なのだろう。彼の期待は否応なしに高まる。


 優しい色合いの便箋を広げると、成行はゆっくり文章を読み始めた。


『成行君へ。

 今日のお昼の件でお話があります。

 放課後、森林ゾーンの満月の広場へ来てください。

 お昼に成行君が私を見た場所です。

 必ず来てください。必ずです。

 でないと、私・・・』



「えっ?えっ?何これ?」

 文章を読み終えて動揺する成行。文末に署名があった。


『一年C組 静所 見事』


「静所さんからの手紙じゃないか!しかも、ラブレターじゃないし!ていうか、何だよ、この文面!『でないと、私』って何?何でここで終わるんだ?続きがスゲー気になる!」


 驚きのあまり、成行は何も書かれていない便箋の裏側や、封筒の中まで確認してしまう。文面は丁寧だが、何か威圧的なものを感じる。悪い言い方をすれば、脅迫めいた雰囲気すらある。浮かれた初恋気分が、木端微塵になった。


「いや、行くしかないか・・・」


 便箋を封筒に戻し、それを通学鞄にしまう。


 行くしかないだろう。クラスメイトだし、明日には会うことになる運命だ。それに昼の件を直に聞きたいと思っていた。これも何か運命の巡り合わせかもしれない。


 男子トイレを出て、再び昇降口へ向かう成行。靴を履き替えると、彼は一路、森林ゾーンへと向かう。


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