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64話 批判が移り変わる。



「な、なんだ、あの速さは……! アルバ様は、やはり魔法が使えたのか!?」


魔法が使えることは完全に公となってしまったが、仕方ない。


セレーナの身の安全が、なにより優先だ。


あとはこれで再び俺に矛先が向いてくれれば、彼女を悪意から救える。

そう思ってメリリとともに彼女を庇っていたのだけど、セレーナはなにを思ったか、席から立ちあがる。


止めることは、できなかった。

状況にはそぐわないほど悠然とした彼女の一歩一歩は、見る者の言葉を失わせ、視線を奪いさらうからだ。


無理矢理に静寂を作り出した彼女は一歩一歩と壇を下り、そのまま観戦スタンドの最下段まで降りていく。

そこで紫の髪をなびかせ振り返ったと思えば、彼女は胸に手を当て大きく深呼吸をした。


「違う」


そして出てきたのは、この一言だ。


きょとんとする観衆らに対して、セレーナは耳に髪をかけながら余裕の表情で、話を続ける。


「たしかに私はアルバについていった。それは世間的に認められることではないことも理解しているし、あなた方が犯罪者であるアルバについていった意味が分からないと考えるのも否定はしない。けれど、それには理由があるの」


さっきまではクロレルが場の空気を掌握していたが、その権利はもう完全にセレーナの手へと移っていた。


彼女はまずクロレルという男のしてきた悪事について語る。

世間に公にされていないようなものもあり、再び会場全体がざわざわと騒がしくなった。



クロレルらが邪魔をせんとするが、そこは俺の出番だ。

クロレルらの足元から土属性魔法を発動し、彼らの身動きを取れなくさせる。


魔法を使ってはいけないという制限が取れた以上、これくらいは朝飯前だ。


「クロレルは世間の評価とは違い、本当に最低の人間だった。でも、ある時期から急に人が変わった。急に真摯に政治に取り組み、私にも正面から向き合うようになった。それまでトゲしかなかったオーラにも、丸みができた。まるで私が好きだったアルバみたいに。

 はじめは演技だと思ったけれど、そうじゃない。そう分かってから私は彼に対して好感を持つようになったわ。でも、三か月経ったらまた元に戻った。

 アルバは逆よ。それまで気力のない穏やかな青年だったのに、急に暴力を振るったり悪事に手を染めた。

 これがどういうことか分かる?」


ここまで聞いて、まさか……と思った。


だが、なにもありえないことではない。

彼女の直感にかかれば、いかに不可思議な出来事でもその本質を見通せるのだとしたら。


「二人は身体が入れ替わっていたのかもしれない。私はそう思っているわ」


聴衆からは、「ありえない」と否定する声もする。当然の反応だ。誰がそんな荒唐無稽な話を信じようか。

が、実際のところそれは完璧に核心をついていた。


「勘。いいえ、もっと確信的な物よ。私はアルバの心に惹かれて、彼の元に行ったんだもの。はじめから心はそこにあったの」


セレーナが俺の方を見上げる。

そのまっすぐな視線にどう答えていいか分からず、俺はただただ彼女と見つめあった。


ここで入れ替わりが事実と認めたところで、誰が信じるわけでもない。

ならば、どうすればいいのだろう。


なによりも、セレーナが見抜いていたという事実に唖然としてしまって、言葉が出ない。


そんな俺の元まで、セレーナはふたたび檀をのぼり歩み寄る。

耳元に唇を寄せて、ささやいた。


「アルバ、ごめんなさい」


と、絞り出すように言う。


「あなたが私のせいで、悪く言われるのが耐えられなかった」


どうやら俺たちはまったく同じことをお互いに考えていたらしい。

俺への悪口をセレーナがどう思うかは、頭にもなかったことだった。


それに驚いてから俺は一つため息を一つ吐く。


「今更言っても仕方ないよ。どうせ観衆の暴走を止める方法なんか俺には思いつかなかったし、仕方ないだろ」

「……そうね」


観衆たちによる暴動は、もう完全に止まっていた。

それどころか場の空気は俺たちを擁護する方向へと、着実に変わり始めていた。


「……たしかに、それなら辻褄が合わなくもないかも。アルバ様が急に暴力振るうことなんて、考えてみればこれまではなかったよね」

「たしか魔法が使えない腹いせとか言ってたけど……実際は使えたもんな。あれはただの憶測だったのか」

「でも、ありえないだろ。入れ替わりなんて」

「けど、なんだか本当に聞えちゃう……」


入れ替わりなんて、理屈は通っていない。

結論は、普通に考えればありえない非常識なもの。


それでも、そんな常識を覆してしまうくらいには、まっすぐ透き通って一本芯のある彼女の思いは観衆の心をたしかに動かしていた。


「そうだそうだ……! 俺たちは、クロレルシティから来たが、明らかにあいつの政治は最低だった。自分の私利私欲のためだけに動いて、俺たちのことなんてなにも顧みない……!」

「よく考えれば、女に振られただけじゃねえか。それをこんな場所で糾弾するなんて格好悪いぜ」


だんだんと、俺たちへの批判が掻き消えていく

一方で、批判はどんどんと、クロレル陣営の方へと移っていった。




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