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32話 元おつきのメイド、現る!

服も新たになって、俺たちは堂々と街の大通りを歩く。


この街の中心に値する地域だ。

俺がクロレルとして統治していた頃は、新しい店が割拠して、先が見えないくらい人が通っていることもあった場所だが、今は閑散としていた。


人足はまばらで、据え置き型の店舗の中には閉まっているところも多い。


大勢の中にまぎれれば、例の特別警ら隊にも見つかりにくいと思ったが、そうはいかないようだ。

俺たちは通りを早足で歩いて、営業をしていた道具屋へと入る。


必要な部品や道具をいくつか手に入れたら、その流れで食料品の買い出しへと移った。


「トルビス村にはないものがいいわね。たとえば香辛料とか」

「そうだな。じゃあ、塩と胡椒と砂糖……って、俺、料理とかまったく分からないんだけど。そもそも、これが香辛料に含まれるかすら分からん」


「ちなみに私もよ。分かるのは、そうね。塩と胡椒、砂糖ね」

「……そういうところは令嬢さんなんだな」

「調味料がなくても、ごはんは食べられるもの。……マフィンの作り方だけは覚えたいけれど」


マフィンは、セレーナの好物だ。

そういえば、トルビス村へと下るときにも大量に持ってきて、真空状態を作り出す魔導袋に入れていたっけ。


ちなみに今回も、すでに菓子店には寄って、マフィンは手に入れてきた。この機会に村人たちにも食べてもらうのだ、とかなりの量を買ってある。


作れる人がいれば、ここまで荷物を抱えることもなかったかもしれない。


「欲しいなぁ、料理人。料理人も仕入れていきたい……」

「なに、私のご飯じゃ不満?」

「そうじゃないけど、なんというか、セレーナの作る料理は豪快だろ。俺もなにもできないんだけどな」


クロツキノワの肉の調理方法がいい例だ。


焼いたもの、揚げたもの、塩漬けにしたもの――。

ほとんどこれだけで、セレーナの料理のローテーションは回っている。

俺が手伝おうにも、焦がしたり燃やしたり爆発させたり散々だ。


村人たちはといえば、そもそも調味料が塩のみの生活を基本としているから、そのレパートリーは多くない。


最終的な俺の理想は、悠々自適で思い通りの暮らしである。

そのためには、料理の底上げは必須課題の一つだ。


「まさか。いよいよ人さらいにまで、手をつけるつもり?」

「……あほ言えよ。やるか、そんなこと」

「でも、そうでもしないとトルビス村に来てくれるもの好きはいないと思うけど?」


それは、そのとおりだ。なんの否定もできない。


ただ諦めきれずにいたら、そのいい匂いは漂ってきた。

ちょうどお腹がすく時間という事もあった。あれよのうち、身体が勝手にそちらへ流れていってしまう。


「なぁセレーナ。お金はどれくらい余ってるんだっけ?」

「ふふ、分かりやすい。普通にお昼くらいなら食べられるわよ」

「よし、なら食べていこうか。これは、そう、あくまで料理のレパートリーを増やすための情報収集と、料理人を捕まえるためだ、うん」

「そういうことにしておきましょうか」


追手にばれさえしなければ、問題はないだろう。

そう都合よく考えることにして、俺たちはその匂いを漂わせる料理屋へと向かう。


その店は、路地裏にぽつんと立っていた。見たところ、ほとんど屋台と変わらない掘っ建て小屋である。

入るのに躊躇うくらいの見た目だったが、とりあえずは扉を開けて中に入る。

そこはカウンターのみ5席程度の小さな空間があるだけだった。


驚いたことに人気はまったくない。カウンター席はあるが、厨房の奥は完全に黒い布で覆われており中は窺えない。


お客さんどころか店員さんすら出てこないが、入ったところにあるカウンターには大きく張り紙がしてあった。


「……席が空いていたら勝手に座っていい、ってさ」

「不思議なところね」

「というか気味が悪いだろ、これは」


セレーナは、相変わらず肝が据わっている。

彼女は何の気なしに、その張り紙どおり席につく。


すると、今度は


『注文が決まったら紙に書いて、カウンターの下から差し出してください』


との但し書きが、これは席正面の壁に書かれてあった。


俺たちは置かれていたメニュー表をそれぞれ開く。


「どれもお手ごろな価格ね。一番高くても1500ウェルなんて。……久しぶりに魚が食べたい。白身魚のハーブ蒸しにするわ」


セレーナはいつもの決断力で、すぐに決める。

一方の俺はといえばメニュー表を何度もめくり、また最初のページから見直す。それを繰り返していた。


「ゆっくり決めていいわよ」


とセレーナが言ってくれるが、迷っているわけではない。


ページを見返すたびに蘇るある記憶を思い返していたのだ。

結論から言えば、俺はそこに書かれていたどの料理も口にしたことがあった。とくに覚えているのは、「鶏、豚、牛の三種肉チーズ丼」なるメニュー。


これは俺がまだ10歳くらいだった幼い頃にわがままを言って、作ってもらった超お子様願望の詰まったメニュー。


――作ってくれたのは、俺がトルビス村へと追放される少し前まで専属でついてくれていた担当メイドだ。


「もしかして、メリリ……?」


確信していたわけではないので、俺は少し控えめな声で黒い布の貼られたカウンターの奥へと尋ねる。


しばらく、返事はなかった。


「あら、もしかして知り合い?」


と、セレーナが口にしたときだ。突然にその黒の幕が取り払われる。

カウンターの奥から誰かが身を乗り出してきたと思えば、むにゅという感触に肩が包まれる。


そのやたらと強い抱きしめる際の力からして、間違いない。


「声でもしや、とは思ってましたが、この抱き心地間違いありません! あ、あぁ、アルバぼっちゃま! ほんとにアルバぼっちゃま!! ついに会えましたっ!! あぁどれだけ再会できるこの日を待ち望んだことかっ! メリリは、メリリは……!! あぁ、ほんとにアルバぼっちゃまの匂いですっ!!」

「ちょ、そろそろ痛いんだけど……!?」


蚊帳の外にされたセレーナから注がれるジトっとした視線も含めて、いろいろと痛い。





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