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30話 本当のお忍びデート



これにて一件落着、ほっと息をつけるかというと……それほど単純ではないことは、承知していた。


「応援が来る前にとっととここから逃げようか」

「……結局こうなるのね。まるで犯罪者ね」

「まあクロレルのバカの作った悪法の下じゃ、実際そうらしいからな」

「そうね、あの大バカ者のクロレルね」

「言えるようになったら、めちゃくちゃ言うなぁおい」


俺たちはそうこう話しながら、急いで荷物や売上金をまとめる。

最後に一応、いくつかの屋台を『有形生成』で綺麗に整備してから、屋台街を後にした。


せめてもの詫びがわりだ。


「あなたって実はお人よしよね」

「実は、ってのが余計だよ」

「誉めてるんだからいいじゃない。それより、早くお買い物行きましょ」


顔を見られていないとはいえ、姿格好は割れてしまった。

もし買い物客や店主たちがあの連中に脅迫されて、俺たちの特徴を吐けば、また面倒ごとに巻き込まれる危険性もある。


そのため俺たちは中心通りへと向かうと、まずは衣服屋へと入った。

とりあえず、着替えを行うことにしたのだ。


貴族の子息として訪れていた時は街で買い物をしても、財布を気にすることはなかったが……今は事情が違う。


まず目をやったのは、値札だった。二人、ほっと安堵の息をつく。


「どちらかと言えば、庶民派のお店ね。値段が良心的よ」

「うん。これなら手が届くな。……でも、お嬢様としてはもっといい服がいいか?」

「いいえ、私はどちらかと言えばドレスは嫌いよ。うっとうしいもの」


彼女はそう言い切り、店を一周すると、すぐに衣服を決める。

このあたりも、もしかしたら例の『勘』がびびっと働いたのかもしれない。


むしろ俺よりも早い。

試着室から出てくると、あら不思議。もはや別人の風貌になっていた。


チェック柄を基調としたブレザーに、スカート。腰のところには飾りのベルトがついた、少し学生風の服だ。顔が隠れるように、つばの長い帽子をかぶっている。


「どうかしら。これなら、馴染めそうでしょ」


セレーナは帽子を少し深めにして、ふふっと得意げに鼻を鳴らす。


分かっていたことだけれど、どうしても馴染めそうにない。なにをやっても、図抜けて美しいのだ。

横から俺たちを見ていた女性店員さんも、「わぁ」と声を上げて頬を染めている。


「いや、まぁその辺を歩いてたら確実に目立つわ、うん」

「……あら、そうかしら」

「とりあえず、上からコート着てた方がいいよ」

「そう言うなら、そうするわ。じゃあ、次はあなたの分ね。私に任せて」


セレーナは、買い物ができたことで上機嫌になったのか、うきうきとした様子でさっそく店内を歩きだす。


「ちょ、俺はなに着たって変わらないからいいよ、自分で選ぶし」


なにせ、いつも平凡な見た目だと揶揄されてきたのだ。服くらいで変わるわけもない。

だというのに、セレーナはもう止まってくれない。


「いいじゃないの。こういうデート、ずっと憧れてたの」

「で、デートって……」

「デートでしょ、どう見ても。私はそう思いたいけど、だめかしら」


彼女は少し腰をかがめると、下から俺を覗きこみじっと目を見つめてくる。

その時点で負けであった。


「……いいけど」


なかば答えさせられるみたいに、言ってしまう。


そうしてセレーナに腕を引かれながらの、衣装選びが始まった。




引き続き投稿を続けてまいりますので、引き続きお付き合いください。

よろしくお願いいたします。

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