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22話 伝説の聖獣は、俺に飼われたいらしい。

サントウルフが言葉を発している。


そんな不可思議極まりない状況にも関わらず、他の誰かが気づいている様子はなかった。


「どうしたの、アルバ」

「……セレーナにも聞こえないのか?」

「なんのこと」


こうなると、魔力が原因でもなさそうだ。

俺は上を見上げ、当のサントウルフに尋ねる。


「……どういうことだ? 何で周りには聞こえてないんだ?」

『我らサントウルフが人と会話を交わせるのは、信頼に足ると決めたただ一人のみ。その一人が死ぬまでは、その者以外とは口を聞けぬ。私は、お主をその一人と見込んだ』


治療が終わるまでは考えてもみない。まったく思いがけない展開になっていた。


俺はつい言葉をなくしてしまう。


『ここを出してはくれぬか。心配はいらぬ、お主らに危害を加えるようなことはせぬと誓おう』


なかば呆然としていたからか、気づけば頼まれた通りに動いていた。


「開けて大丈夫なの、アルバ」

「あぁ、彼がそう言ってる。嘘をついてる感じはしないから」

「…………本当に話せるようになったのね。成熟したサントウルフは選ばれしただ一人とだけ言葉を交わせるようになる。ただの伝承だと思ってたけど」

「はは。嘘だと思うよな、普通」


まぁ普通は信じられない。俺だって未だに半信半疑だ。


「ううん、思わない。これでも結構信じてるのよ、あなたのこと。もちろん勘だけど」


だが、セレーナがこう言ってくれたから嘘ではないと思えた。

俺は柵にかけていた錠を外す。


すると、彼は中からゆっくりと出てきて、その場に座した。

改めて、かなりの大きさだ。よく柵の中に納まっていたなと思うくらい。


真下から見上げれば、夜空が見えなくなる。身体を寄せられ、尻尾を巻かれると、すっかり身体が収まってしまう。


たぶん彼がその気になれば、一口で食べられてしまう。


だが、彼はそれをせず優しい頬擦りをする。


『改めて、さきほど暴れたことを詫びよう。そして礼を言う、アルバ。この身を、そして我が息子を救われた。その勇敢さ、そして優しさに敬意を表する』

「……俺だけがやったことじゃないんだけどな」

『ふっ、謙遜せずともよい。お主が我が子の食べてしまった魔導具を内側で破壊し、治療までしてくれたことはさきほど聞いた。

 さっきの治癒といい、それほどの芸当をいくつもできる人間は、何百年と生きてきたがそうはいなかった』


何百年と聞いて、その生命の長さに驚く。


ただ体が大きいわけではない。

その身体には、長い長い歴史が刻まれているのだ。


そして、それは決していいものだけではない。

欲をかいた人間による悪行に苦しまされてきた時間の方が、長いに違いない。


「それだけのことで俺を信用していいのか? 俺もこのバカな役人たちと同じ人間だぞ。もしかしたら、捕まえて狩るつもりかもしれない」

『その点なら問題ない。この目で、お主だと見込んだのだ。お主の目には、悪意がない。それはこの子も言っている』

「…………フスカが」

『ふふ、もう名前を与えられていたとは。先を越されてしまったようだ。だが、いい名前だ。私にも名前をくれはせぬか』

「…………名前。それをつけたら、どうなるんだ?」

『どうにもならぬ。ただ、ここに留めてくれるのならありがたい。

 ここ最近、と言っても100年ほどだが。人間と争ってばかりいた。我が妻もその抗争の中で殺された。もうこのような目には、会いたくはない』


その過去を聞いて、胸が締め付けられて俺は舌を噛んだ。

たしかに、今回は助けることができたが、幻の存在たるサントウルフを狙う輩は多い。


たとえば二匹をここから放てば、またすぐに捕まる可能性もある。

その兇刃から彼らを守るため、逆にこの村を守護してもらうためにも、それはいい提案ではあった。


だが、独断では決められまい。


「このサントウルフがここにいたいって言ってるんだけど、いいでしょうか」


俺がこう尋ねると、セレーナはこともなげに首を縦に振る。

村人たちは「食費が……」などの賛否はあったようだが結果的には「アルバさんが言うなら」と賛同してくれた。


「ここにいていい、ってさ」


俺はそれをサントウルフに伝える。


『ありがたい限りだ……。この恩は必ずやお返ししよう。なんなりと私に申し付けるがいい。移動だろうが、なにだろうが買ってでよう』

「はは、そんな重い話じゃないっての。逃げたくなったら、すぐに逃げていいからな。変な束縛はしないし、見世物にも売り物にもしないと誓うよ」


『なんとも器量が大きい主よ。……それはそれとして。例の話はどうなった』

「え、なにが」

『名前のことである』


サントウルフは、言うやいなや鼻息を荒くする。それだけで村人が数人ふらつくような勢いだ。


どうやら、かなり期待されてしまっているようだった。


ならば期待に応えないわけにはいかない。

俺は熟考をしはじめるのだが、そもそも命名センスがないらしい。


まぁね? そもそもフスカの名前だって半分は、セレーナが考えたものである。


「えっと……、じゃあえっとブリリオ……とか? 光を発する魔法の一つなんだけど、どうだろう」


どうにか、ひねり出したのがこれであった。

デカモフとか、ウルルとかよりはよっぽどましだろう、うん。


『良い名前であるな。気に入った。私はブリリオだ。そなた、苗字はなんという?』

「俺か? 俺は、アルバ・ハーストンだ」

『そうか、うむそれもよい名前だ。これから世話になるぞ、アルバ殿』

「俺たちのほうこそ、よろしく頼む」


俺は彼を見上げて、手をさしのべる。

すると、俺のそれよりずっと大きな前足がそこに乗せられた。


その背後では、村に新たな仲間の加入を祝うかのように、そして狼と人間のこれからの関係が良好になることを予兆するかのように、満月が光り輝いていた。




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