すぐ爆発する悪役令嬢はこの爆死ループを断ち切りたい ~公爵様、何度も爆発に巻き込んでしまい申し訳ございません~
「のわぁあああああああッ!これで、93回目ですわ!」
汗だらだらになった身体を起こしながら、私は目覚めて第一声、悲鳴を上げた。
私の悲鳴を聞いて、数秒も経たないうちに侍女であるプルファーは飛んできた。
バンッ!と壊れそうなほど大きな音と共に扉が開く。
「お嬢様どうされましたか!」
プルファーは、私に近寄ると脈を測り、熱を測り、身体に異常はないかとくまなく調べた。
そして、一通り調べおえるとふぅと息をついて私を見上げた。
「何も異常はないようですね。よかったです」
「……え、ええ。まあ」
「悪夢にでも魘されていましたか?」
「そう、そうですわね」
悪夢に魘されていたと、ぴしゃりと当てて見せたプルファーは、さらに眉を寄せて不安そうに私を見つめてきた。
「あら、あら……そんな、顔しないでくださいまし。可愛い顔が台無しですわ」
「か、可愛いだなんて!お嬢様!触ってはいけません!昨日忙しくて、お風呂に入る時間など無く……っ!お嬢様の美しい手が汚れてしまいますっ!」
と、私が彼女の頬に触れようとすると、プルファーはサッと後ろに下がり頭を下げた。
その姿が可愛らしく、私の頬は思わず緩んでしまう。
「そうだわ!私、お腹がすいたのですわ。朝食の準備をしてくださいまし。それと、今日はお風呂に入る時間が出来るよう、私も協力しますわ」
「そ、そんな!朝食はすぐお持ちしますが、私のことなど気にかけて下さらなくても……」
「貴方の主人として、侍女の管理も大切な仕事ですもの。ほら、お行きなさい」
「ヴェールお嬢様……っ!はい、ただいま!」
プルファーは大げさに頭を下げ、嵐のように部屋を去って行った。
そして、また、部屋に静寂が訪れる。
「もうすぐ、100に到達してしまう……」
私はベッドからおり、部屋にある大きな鏡の前に立った。
炎のような紅い髪に、夕焼けのようなオレンジのつり上がった目。
ここは、私が以前プレイしていた乙女ゲームの世界である。
そして私は、このゲームの悪役……
ヴェールウェルク・フランメ侯爵令嬢に転生してしまったのだ。
ヴェールウェルク、愛称ヴェールは、それはもう高飛車で傲慢我儘意地汚いという最悪のコンボを決めている悪役令嬢なのである。
ゲームの中でも、攻略キャラの好き嫌いをブッチ抜いて一番大嫌いなキャラだった。
そんな、ヴェールに私は転生してしまったのだ。
確かに、ゲームではヒロインである聖女のノーマルモードと、悪役令嬢であるヴェールのハードモードが存在した。
しかし、ヴェールモードは好感度が上がりにくい上に全くどれを選んだら正解なのか分からない選択肢ばかりで、それも三択のうち二つは不正解、その前の選択肢を間違えていた場合三択とも不正解とこれはもうゲームとして成り立たない要素も多々見られた。
そして、何故か此の世界では私が選択肢を間違えると爆発し選択肢が現われる一日前に戻されてしまう、これまた可笑しい設定がプラスされているのだ。
そう、私は選択肢を間違えたら爆発するのだ。
死んだらループ……クリアするまで。
きっと、この選択肢を間違えたら爆発するという意味不明な設定は、前世ショッピングモールで爆破テロに巻き込まれたからだろうと、私は推測する。
身体が時限爆弾のように輝き、そして数秒後に爆発する。まるで、体内に爆弾でも埋め込まれているかのように、身体の中心から外に向けて爆発する。
爆発時の痛みはないが、四肢が吹き飛んだなあ……という感覚はある。
そして、私はここに来てもう93回選択肢を間違えた事による大爆発をしているのだ。
全くどういう原理なのか……
「というか、もう皇太子のルートはないわ……こりゃ、一つルート潰れましてよ!」
私は、頭を抱えた。
というのも、昨晩皇宮で行われたパーティーにて攻略キャラの一人である皇太子に婚約破棄を言い渡されたのだ。
理由は、「お告げの聖女がもうすぐ現われるから」とのこと。
お告げの聖女、というのがこのゲームのヒロインで、設定としては、皇太子は帝国の危機に現われる聖女と結ばれれば帝国は救われるという伝説があり、その伝説通り現われたヒロインと皇太子は恋に落ち結ばれるのだ。
そのため、ヴェールモードでの皇太子ルートの攻略難易度はもの凄く難しい(ヒロインは逆にイージーすぎるのである)。
だが、このゲームをプレイしてきた私にかかれば簡単だ……と進めてきたのだが、やはりお告げやらヒロインの登場やらには勝てないようで、私は昨晩婚約破棄を言い渡されたと同時に、彼のルートはきっぱり諦めた。
それが最善策である。
「そうなると、次に狙うは公爵のルートか……」
私は顎に手を当て呟く。
こうなることを予想し、私はもう一人の好感度を保険として上げていたのだ。
それが、クラテール・ヴォルケーノ公爵である。
彼は、言ってしまえばヒロインにそこまで惹かれないキャラであり、ヒロインがアタックするまで彼女には一切興味がなかったのだ。そのため、あげやすくヒロイン登場後でも好感度を保てるキャラだと私は考えたのだ。
正直言うとタイプではないが、彼が一番安全ルートだろう。
物語では、一応婚約破棄が言い渡された翌日にヴェールの家を訪ねてくるようになっているのだが……
「お嬢様!朝食の準備が出来ました!」
再び、バンッ!と扉が開きワゴンを押してきたプルファーと目が合った。
実は、ヴェールはプルファーに酷い虐待をしてきたのだが彼女はそれでもヴェールの侍女でいてくれた。
私がこの身体に憑依してからは、私の方から態度を変え彼女の尽くしてくれる心を尊重し感謝し、良い関係を築いている……と、私の方は思っている。
「お嬢様が嫌いな野菜はスムージーにしてみました!これなら、お嬢様でも飲めると思います!」
「……」
「お嬢様?」
目の前に出された、オレンジ色の……多分ニンジンのスムージーを私はじっと見つめる。
プルファーは、私の好みを理解しているはずなのだ。しかし、今日こうして野菜の中で一番嫌いなニンジンを出してきた。スムージーだというけれど、ニンジンはニンジンなのである。
「プルファー」
「はいっ!」
「いい仕事をしているわ!私の健康にも気遣ってくれて!ありがたく、頂戴しますわ!」
「え……えぇ」
私が、ありがとう。と感謝を述べると、少しだけプルファーは残念そうな顔をした。
私は、そんな彼女の表情を見逃すはずもなくニッコリと彼女に笑顔を向けた。
「てっきり、怒られると思っていました。お嬢様は変わってしまったのですね」
「ええ、心を入れ変えましたの!」
「……以前のお嬢様も素敵でしたし、私は好きでした。あの、私を蔑み役立たずと罵る声も瞳も……っ」
と、プルファーは身体を気持ち悪くくねらせた。
そう、彼女が私の侍女をやめなかった理由の一つは彼女がかなりのドMだからである。
そんな彼女に白い目を向けながら、私はニンジンスムージーに口を付ける。
甘さを感じるが、やはりニンジンである。
「お嬢様。今日の午後、ヴォルケーノ公爵が訪問されるようです」
「ああ、そうでしたわね!丁重におもてなししなくては……ですわ!」
私は、ニンジンスムージーを飲み干して彼の攻略をするぞと心の中で意気込んだ。
***
「何故、俺はそんなキラキラとした目で見つめられているんですか?フランメ嬢」
「気にしないで下さいまし!それに、私と貴方の仲じゃないですか、ヴェールと気軽に呼んで下さっていいんですのよ!」
「……機嫌、いいんですね」
私の言葉を完全に無視し、はあと目の前の男は頭が痛いというように眉間をこついた。
応接室にて、私はクラテール・ヴォルケーノ公爵と向かいあい紅茶を飲んでいた。
クラテールは、私を怪しみ紅茶に口を付けようとしない。
「毒なんて入ってませんわ!」
私がそう言うと、さらにクラテールの顔は険しくなる。
熟れたオレンジのように赤みかかったオレンジの髪に、エメラルドグリーンの瞳。表情筋は固まっているかのように動かない男、それがクラテールである。
クラテールは、ヴェールの幼馴染みでヴェールの社交界デビューの時の初ダンスパートナーだった。そのため、彼とは長い付き合いである。
「別に、毒が盛られているとは思っていません。まあ、フラれた腹いせに俺を殺害……何てこと考えれるような人でないことは分かっていますし……ただ、俺も、不器用なのでフランメ嬢が皇太子に婚約破棄を告げられ、落ち込んでいるとき……どう励ませばいいのか分かりません」
「ヴェールですわ!」
「……」
「婚約破棄なんて、仕方ないですわ!お告げの聖女がもうすぐやってくるんですもの、それに、私は社交界での評判が悪いですから、フラれて当然なのですわ!」
「自分で言っていて、虚しくないのか?」
と、ぼそり……クラテールは、呟いた。
普段は敬語が抜けない彼なのだが、ふとしたときに敬語が外れる。勿論、気を許した相手にだけだ。
「私のこと気にしていて下さるのですか?」
「レディを気遣うのは、紳士として当然かと……それと、別なのですが先ほどから焦げ臭い匂いがして……」
「それなら、話は早いですわ!私と婚約を――――――――」
そう、言いかけた時応接室の扉が勢いよく開いた。
私もクラテールも目を丸くしながら、扉の方を見つめる。
扉の前に立っていたのは、ヴェールである私の腹違いの兄にして攻略キャラの、ホムラ・フランメだった。ふつふつと煮えているマグマのような、真っ赤な顔で私を睨んでいる。
一体、ノックもなしに何事だろうと思い私が黙ってホムラを見ているとばっちり一ミリたりともずれなく彼と目が合った。
(あっ……察し……)
「父さんから聞いたぞッ!お前、皇太子との婚約が破棄になったと!フランメ家に泥をぬるきか!」
「お兄様、ノックもなしに何用ですの?」
「だから、お前の婚約破棄についてだ!」
と、こちらの状況などお構いなしに怒りにまかせ私に言葉を投げてくる兄に、私は心の中でため息をついた。
本当に、この家の人達は熱いというか沸点が低いというか……
「でも、お兄様……それは、お告げによるものですから仕方のないことなのですわ」
「仕方もないも何も、お前がもっとしっかりしていれば!」
「もう……」
こちらも、勝手に入ってきていきなり怒鳴られイライラし始めたとき急にウィンドウが現われ、いつものように三択が目の前に表示される。
(タイミング悪い……それに、これ選択肢が出るって事は、ストーリーイベントなの?)
私は呆れながらその三択に目を通す。
1.怒鳴る
2.睨む
3.爆発する
(いや、三番の選択肢可笑しいでしょ!)
私は、一通り目を通すと叫びたい気持ちで一杯になった。
確かに、このヴェールモードの選択肢は少し、いやかなり可笑しい。多分、この三番の選択肢はループする前提で現われた選択肢だろう。
となると、二番か一番になるのだが……
(これ……一番、無難なのは二番かしら)
睨むだけなら何も起こらないだろうと考え、私は二番を選択する。
すると、身体の中心に熱が集まるような感覚におそわれる。
「お前、兄に向かって……っ!」
そう、ホムラが口にした瞬間私の身体は発光し、部屋全体が目が眩むほどの白い光に包まれた。
***
「のおぉおおおおおおおおんッ!94回目!何で死んだんですの!」
「お嬢様どうされましたか!」
バンッ!と開く扉、私の身体に異常はないか調べるプルファー。
デジャブ。
違う―――――
「ありえませんわ!ありえませんわ!何が間違っていたというのですの!」
「落ち着いて下さい、お嬢様!」
私は昨日に戻っていた。と言うことは、ループ……選択肢を間違えたのである。そして、兄であるホムラとクラテール公爵を巻き込み、応接室で爆発した。
爆発にはだんだん慣れてきたのだが、何だかその規模が大きくなっている気がする。
ループを繰り返すたびに身体に火薬がたまっているのだろうか。
もしかすると、100回目のループ、爆発をした際にはこの帝国が吹き飛ぶほどの威力の爆発を起こすかも知れないと私は思ってしまった。
人体爆発で、帝国を滅ぼす悪役令嬢とは?
そんなことを考えているうちに、プルファーはいつの間にかあのニンジンスムージーつきの朝食を持って部屋に戻ってきていた。
そして、それからは同じように事が進む―――――筈だったが。
「フランメ嬢、凄く焦げ臭いです」
「きっとシェフが料理に失敗したんですわ!」
応接室のソファーに座った瞬間、クラテールは、鼻を押さえながら私に向かってそう告げた。
焦げ臭い、といわれても自分で自分の匂いを確かめる方法などなく私は笑って返した。
しかし、その答え方は間違っていたようでクラテールは、眉間に皺を寄せる。
「どうしましたの?」
「フランメ嬢……実は俺、貴方に隠していたことがあるんです」
「何……ですの?」
クラテールは、ふう……と息を吐き真っ直ぐと私を見た。
吸い込まれそうなほど美しいエメラルドグリーンの瞳に私は釘付けになった。
「俺、記憶があるんです」
「記憶?」
「はい、ループする前の世界の記憶を」
「ええ!?」
私は思わず立ち上がってしまった。
まさか覚えている人がいるとは思ってもいなかったため、私はクラテールを二度見する。
しかし、クラテールは、全く動じる様子もなく私を見ていた。
「初めは気のせいだと思いました。しかし、ここ数年……数ヶ月の間に何度も同じ日を繰り返して気づいたのです。此の世界はループしていると」
「そんな、現実味のない話……」
私がそう口を挟むと、クラテールは、目を細めた。
「ループする直前、必ず何処かでまばゆい光と爆発音が聞こえてくるんです。そして、それを合図に一日前にループする」
「……気のせいですわ」
「今日で94回目だ」
「……」
淡々と告げるクラテールに、私は少し引いていた。
だって、そんな……まさか、ループ前の世界の記憶を保持している人がいるなんて。
それも、私が可憐に大爆発していることも知っている。
「それで、私にその話をして何になりますの?」
「フランメ嬢も隠さなくていいですよ。貴方でしょ、このループの原因は」
と、クラテールは目を伏せる。
全て察しているぞと。彼のエメラルドグリーンの瞳は全てを見透かしていたのだ。
確かに、頭が良くてループ前の記憶を保持しているものならこの世界が何かしらの原因で巻き戻っていることに気づくだろう。クラテールなら尚更だ。
「まあ、正確には貴方が原因……というよりかは、貴方を軸にして戻っている、いやこの場合何か理から外れた力によって戻されている、と言った方が正しいでしょうか」
クラテールは、そう補足した。
確かに、私が爆発してループしているのは私のせいじゃなくてそういう神というか此の世界の私に課せられたルールというか、そういう大きなものが原因である。
そこまで見透かしているとなると、やはりクラテールは優秀だ。
私は、目の前に置かれていた紅茶を一気飲みしこれまでの経緯や、とあるアクション(選択の間違いとは伝えていないが)を起こすと、私の身体は爆発し、私が吹き飛んだと同時に世界は巻き戻ると言うことを彼に説明した。
大凡、クラテールの言ったとおりなので私は補足しただけなのだが、クラテールは、黙って私の話を真剣に聞いてくれた。
きっと、他の人だったらこうはいかないだろう。
「―――――それは、災難でしたね」
「……その顔、絶対思ってないですわ!」
「いやいや、本当に興味深いですよ。人体爆発とは」
「……」
「まあ、俺も何度か巻き込まれているんですけどね」
と、クラテールは付け足して笑った。
確かに、クラテール攻略の時何度か選択肢を間違えて爆発したことはあったけど。それも、覚えていたとは……きっと、爆発した率が一番高い男だった、彼は。
そう思うと何だか申し訳なくなり、謝ろうかと考えているとさらに追い打ちをかけるかのようにクラテールはこう口にした。
「貴方は爆発するだけで痛みも何もないでしょうけど、俺は爆発に巻き込まれてその一瞬で死ねず苦しみましたよ?壁に頭を打ち付けたり、瓦礫に挟まり足が動かなくなったり……」
「……うぅ、死んでわびますわ!」
「ここで、爆発されたら困る」
穴があったらはいりたい、いや爆弾があったら爆発したいだ。
クラテールは、笑って流してくれているけど確かにそうだ。
私は爆発物だから痛みや衝撃を感じないけれど、周りの人はその爆発に巻き込まれた被害者だ。
私は、私が死んだ後のことなど考えていなかった。
私が爆発し、四肢が木っ端微塵に吹き飛び爆風が収まった後世界が戻るとしたら、その爆風が収まるまで爆発の被害を受けた人、その爆発で死亡しなかった人は怪我を負い苦しみ続けるのだ。
それを、私はクラテールに強いてきたのだ、多分。
実感はないが、彼が言うなら信じようと私はクラテールに頭を下げた。
「申し訳ありませんでしたわ」
「そう、爆発に巻き込まれる……なんて、経験できませんからいいですよ」
「良くないですわ!」
私がどれだけ言っても謝っても、折れないクラテール。
すると、クラテールは何かを思い出したかのようにぽんと手を叩いた。
「そうだ、フランメ嬢。昨日……この間のループ前、俺に何て言おうとしていたんですか?」
「お兄様が入ってくる前の話ですの?」
「はい。あの時フランメ嬢が何を言ったか気になって気になって……それもあって、今回この話をしたんです」
「はあ……」
「もし、俺の予想が合っているのであれば……そして、そのことによってもうループしなくてすむとなれば、お互いWin-Winでしょう」
と、クラテールは嬉しそうに笑った。
私は、彼がきっと聞いていたであろう婚約の話と、ループの真相。
果たしてどちらが、彼にとって利益のあることなのか分からなかった。
私と結婚することか、私と結婚することでループしなくてすむことか。
どちらにしよ、彼の言うWin-Winの関係になれると私は思いきって聞くことにした。
「あの時私は―――――」
そう言いかけた瞬間、また同じタイミングで兄のホムラが部屋の中に乱入してきた。
私もクラテールも彼を睨み付ける。
「父さんから聞いたぞッ!お前、皇太子との婚約が破棄になったと!フランメ家に泥をぬるきか!」
同じ言葉に、同じタイミング。
94回目ループしていても、改めて私はループしているのだと自覚する。
しかし、今は心強い味方がいる。
そうこうしているうちに、私の目の前にウィンドウが現われ、あのとち狂った選択肢が現われた。
(これは、一番ね……!)
二番の睨むを選んで爆発した為、もう選択肢は一番しかないと私は一番の怒鳴るを選択した。
「お兄様出て行って下さいまし!今、ヴォルケーノ公爵と大事なお話を――――!」
そう言いかけた瞬間、私は身体に違和感をおぼえた。
それは、あの中心に熱集まる感覚を感じ取ったからだ。
(え、一番でもないの!?)
そうして、みるみるうちに私の中心に集まった熱は膨張し身体が白く光り始めた。
「フランメ嬢ッ!」
最期に見えた景色は、私に向かって必死に手を伸ばすクラテールの表情だった。
***
「くっそったれええええええええええええええですわぁああッ!」
「お嬢様どうされましたか!」
バンッ!と開く扉、プルファーの身体以上チェック、ニンジンスムージー……
私は95回目の爆死を遂げた。
そうして、またクラテールと顔を合わせることとなった。
「俺まで、焦げ臭い匂いが移りました」
「ほんと、爆発してわびますわ」
お互いに頭を下げたまま沈黙が続いた。
こんなに選択を間違えループするのは初めてだった。
しかし、あの最後の三番爆発するを選んでいたとしてもどう考えても死亡確定だろうと思い、頭が痛くなった。もしかして、積んでしまったのではないかとすら思ってしまったのだ。
「クラテール」
「何ですか、フランメ嬢」
「私と結婚して下さい」
「どうして、このタイミングなんだ」
私は昨日ループ前伝えられなかったことを伝え、口を閉じた。
クラテールは、一瞬だけ顔を上げたがまたすぐに頭を抱え俯いた。
「二度も、目の前でフランメ嬢の爆発を見ましたが、何ですかね……身体に火薬でもつめてるんですか?」
「……」
「どうでもいいですけど」
その後も会話が続かず、互いに黙ったまま時間が過ぎていった。
「クラテール、先に謝っておきますわ」
「もう、これ以上謝られることはない」
「永遠とこの日をループするかも知れない……ですわ」
「貴方を目の前で何度も失わないといけない……と言うことか?」
「……ん?」
クラテールのその言い方に何処か引っかかりを覚えたが、私はスルーし彼と同じく頭を抱えた。
何処で間違えたのだろう。本当に今日を永遠にループすることになるのだろうか。
そうしているうちに、部屋の扉がバンッ!と爆発音のような音を立てて開きホムラが入ってきた。
私達は反応する気力もないため俯いたままだった。
「父さんから聞いたぞッ!お前、皇太子との婚約が破棄になったと!フランメ家に泥をぬるきか!って、ヴォルケーノ公爵もヴェールウェルクどうしたんだ……?」
「お兄様……説教は後で聞きますから、今は」
「ホムラ小侯爵、今日はフランメ嬢に婚約を申し込むためにここに来たのです。今、彼女とその話をしていたので、少し席を外していただけますか?」
「この妹とですか!ですが、此奴は昨日皇太子殿下に婚約破棄ばかりで……」
と、何やらクラテールがホムラと話しているようだったが、水の中に入ったかのように耳で上手く音が拾えず、私はクラテールを見上げた。
大丈夫だ、とでも言うように私を見て微笑むクラテール。
その微笑みが自分に向けられたものだとわかり、私の胸はドクンと大きく脈打った。
(何、この燃えるような感覚……まさか、これが恋……?)
そう思い、自分の胸に手を当ててみたが、私はあることに気づいてしまった。
それは、先ほど目の前に現われた選択肢の三番を無意識のうちに押してしまったこと。
三番というと爆発する。という一番意味の分からない選択肢だった。
「あ……あぁ」
「フランメ嬢?」
またあの、中心に熱があつまる感覚におそわれ私は思わず、立ち上がりクラテールとホムラから距離を取った。
さすがのホムラも私の異常に感づいたのか、不安げな表情で私を見つめてくる。
しかし、クラテールはというとホムラよりさらに顔を歪め青くさせ私の方へと走ってくる。
だが、一足早く私の身体が白く発光し始める。
(ダメッ!爆発する!)
そう思い、ギュッと目を閉じた瞬間誰かに目の前から包まれるように抱きしめられた。
「へぇ?」
「……ヴェールっ」
クラテールの声が耳元で聞こえた為、恐る恐る目を開けるとそこには今にも泣きそうな顔のクラテールの顔があった。
「え、え、クラテール?」
「よかった……よかった」
そう繰り返すクラテールは、安心したような表情を浮べた後私の両頬に手を当てそのまま自分の唇を優しく押しつけた。
(んんなあああ!?)
「――――と言うことなので、ホムラ小公爵。俺は本気です。皇太子殿下が婚約破棄してくれたので、これで何のためらいもなく好きな女性にアタックできます」
「……ヴォ、ヴォルケーノ公爵ッ!?」
ホムラの顔はみるみるうちに赤くなり、わなわなと口は震え初め、ここに自分がいるのは場違いだとでも言うかのように、竜巻のように応接室を出て行ってしまった。
ぴしゃりと扉が閉まったと同時に私は腰が抜けてしまい、その場に倒れそうになったが、クラテールに腰を抱かれる形で倒れず、姿勢を保った。
「く、クラ……クラテール!?」
「何ですか?フランメ嬢」
「さっき、言ったことは本当なのですの!?」
「婚約を申し込むために……の事ですか?」
「違いますわ、もっと後!」
何か言いましたかねぇ、と身に覚えがないというように意地悪そうに笑うクラテール。
さっきの必死、真剣、本気、見たいな表情の彼は何処に行ったのやらと思いながら、暑く溶けてしまいそうな自分の唇に触れた。まだしっとりと湿っており、さっきのことも同時にフラッシュバックしたため私の頭は爆発しそうだった。
(そ、そうか……まさかの、まさか!)
そこで、私は気づく。
何という、卑劣な引っかけ問題だと。
私は、ちらりとクラテールを見た。すると、私の視線に気づいた彼は花のような笑顔を浮べ、私の名前を愛おしそうに呼んだ。
「何ですか、ヴェール」
「~~~~~んッ!爆発してしまいますわ!」
「やめてください。吹き飛びたくないです」
と、冗談っぽく笑うクラテール。
しかし、私の頭は、心臓は既に爆発していた。
ドッカンと、これまで感じたことのない爆発音を響かせて。
「ヴェールウェルク・フランメ嬢」
「はい、ですわ」
「改めて、俺との婚約……いいえ、そんなものまどろっこしいですね。俺と結婚してください。ヴェールウェルク・フランメ嬢」
そう、告げた彼の笑顔はどんな爆弾よりかも威力があって、私の思考は全て吹き飛ばされてしまった。かろうじて残った物は、恋だけだろうか。いや上の亦は飛んで心しか残っていないかも知れない。
そんな阿呆な事を考えていると、返事はまだかというようにクラテールは私を見てきた。
私は、すぐにでも返事を……と口を開く。
しかし、そんな私の行動を邪魔するかのようにウィンドウがけたたましい機械音を立てて私の前に現われた。
「はい!?」
「どうしたんですか?ヴェール」
「い、いえ……何でもない、ことないですわ」
目の前に現われたウィンドウにはデカデカと、こう書かれていたのだ。
【好きなときに爆発できるスキル、『デットボム』を入手したよ。早速使ってみよう】
と。
『デットボム』とかいう馬鹿げた名前と、好きなときに爆発できるというスキルの説明を見て私はまた頭が痛くなってきた。
やっと、爆死ループを抜け出したと思っていたのに、今度は自ら爆死を選べるようになったとは……
このゲームは私に何を求めているんだと。
「クラテール」
「はい、何ですか?ヴェール」
「爆弾はお好きかしら?」
「爆弾……ですか?それは、貴方の中にある爆発物のことですか?」
不安げな顔で私を見てくるクラテール。
彼の認識では、私の中に爆弾があってまた、その爆弾が爆発すると思っているのだろう。
確かに、私の中に爆弾があるのは事実である。そして、その起爆スイッチを私はこれから好きなときに押せるようになったのだ。
「……クラテール、貴方の婚約受けますわ」
「本当ですか?」
「ですが、一つだけいいかしら?」
私は、クラテールに真剣な表情で訴えた。
「私、愛されたことないんですわ。皇太子殿下も、私との婚約を破棄してしまいましたし……ですから、貴方の愛を受け止めきれないときがあるかも知れません」
「どうか、受け入れてください」
そう、クラテールは少し眉を下げて笑う。
私はそんな彼を見ながら続けた。
「拒む……と言う意味ではありませんわ」
「では、どんな意味が?」
「それはですね――――貴方のあっつい愛で私の中の爆弾が起爆してしまう可能性があるということですわ」
そう言うと、クラテールは私の腰に回していた手を離した。
「ああ、もう嬉しすぎて大爆発してしまいそうですわ!」
「ちょ、ちょっと……今か!?」
「爆発は文化ですわ!」
私は、身体の中心部に熱を集めると身体が白く光り始めた。
クラテールは、苦笑いしながら私を見つめ私達は盛大に大爆発するのであった。
爆発は芸術、なのですわ!
今日も、明日も盛大に爆発しようと思うのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークと☆5評価、感想など貰えると励みになります。
他にも、2作連載作品、短編小説があるので是非。
こそこそ話になりますが、今回の登場人物たちは全員火や炎に関係する外国語から取ってきています。
主人公である悪役令嬢のヴェールウェルクは花火という意味です。
盛大に爆発し、綺麗な花火を打ち上げる彼女にぴったりの名前だと思います。
きたねえ花火じゃないですよ?
それでは、次回作でお会いしましょう……ですわ!