エピソード3
俺はギルドに住み込みで働くことになった。
あれから5日。
荷物整理の仕事をしながら、手が空いてる時は雑用などもやっていた。
Yシャツに黒パンツ、そして蝶ネクタイが俺の支給してもらった仕事着だ。蝶ネクタイだけはちょっと恥ずかしい。
「書類しまってきました」
「ありがとー!」
受付嬢のライラさんが言った。
受付嬢はいわゆるメイド服が制服らしい。
ライラさんは腰まである金髪を後ろで1本に束ねている。
大きな目にすっと通った鼻筋、端的に言えばめちゃくちゃ美人だ。
「もう休憩入っていいよ!」
時計の針はどちらも12を指していた。
ライラさんは僕の指導係だ。
今まで色々なことを教えてもらった。
このギルド内にはクエストを受注する受付に、食堂、道具屋がある。
まかないはこの食堂で作ってもらっていて、これがなかなか美味いので、俺の毎日の楽しみになっている。
食堂でまかないを受け取り、2階の寝泊まりをしている部屋に向かった。
「いただきます」
小さい声で一応。変なところは真面目だ。
今日のまかないはシチューとサラダだった。
スプーンを持つと、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい!」
入ってきたのはライラさんだった。
「お邪魔しまーす!ねえ、一緒に食べてもいい?」
手にはトレイを持っていた。
「あ、はい、どうぞ」
ありがとーと言いながら向かいの席に座る。
トレイには同じようにシチューとサラダ。
ただ同じでも全然違うことが1点。明らかに量が違う。俺の5倍ぐらいはあるだろう。
「いただきまーす!」
子供のように目を輝かせながらシチューを食べている。
圧倒されるほど物凄い勢いで器のシチューが減っていく。
手が止まらない止まらない。
サラダはものの数秒で消えた。ほぼイリュージョンだ。
「ごちそうさまでした〜」
はぁ〜と言いながら背もたれを存分に使い、大の字のような形になっていた。
食べる勢いといい、今の姿といい、美しい見た目とは凄いギャップがある。
「ねえ、彼女とかいるの?」
「ゴフッ、え、え?」
あまりに唐突な質問で、思わずむせてしまった。
「いや、なんとなく彼女いるのかなーって、どうなの?」
両手で頬杖をつき、なんだか意地悪な笑顔でこっちを見ている。
「彼女なんていないですよ」
そもそもできたことがない。それは言わないことにする。
「そっか〜、じゃあお姉さんが狙っちゃおうかな〜」
「な、何言ってるんですか、冗談やめてくださいよ」
少し焦ったがライラさんには彼氏がいる、冗談だというのはすぐ分かった。
ライラさんに彼氏がいることは冒険者の間でも有名だが、それでもライラさんを口説こうとする冒険者は多い。それを軽くあしらうところを何回も今まで見てきた。
美人で明るい性格のライラさんに俺自身も正直惹かれていた。それだけにライラさんに彼氏がいると知った時はショックだった。
「長居するのもあれだし、私はもう行くね!」
トレイを持って立ち上がる。
「全然いいですよ、そんな気を使わなくても」
「そう?まあでもやりたいこともちょっとあるし、行くね!午後からの仕事遅れんなよ!」
ライラさんが俺の髪をワシャワシャとする。
「わ、分かりました、遅れませんから」
恥ずかしい。顔が軽く熱くなっていく。
「よろしい!じゃあ後でね、後輩!」
手を振り、部屋を出ていった。
魅力に溢れた人だ。彼氏がいなかったらなと改めて思ってしまったのは秘密だ。