のびのびとした密室
あ3つの密から解放された密室がここにある。
密室といえば殺人だ。
しかしここではそんなことは起こりえないように思える。
雰囲気が、置いてあるものが、すべてがのびのびしているからだ。
ここに8人の人間を入れてみよう。
8人ぐらいが定員の広さだ。
寛げるソファーに誰も座らなかった。
それぞれが必要ないはずの距離を取り合って、壁にもたれてスマホをいじりはじめた。
同じ空間にいながら、互いの間に高い壁を作っている。
彼らは全員コミュ障だったのだ。
では1人だけ、リーダーを入れてみよう。
彼はコミュ障ではない。抜群のコミュ力と、統率力をもつ。
リーダーは寛げるソファーに腰を埋め、α波のたっぷり含まれた音楽を流しながら、他の者達を動かそうとした。
「なあ、みんな。お互い、自分のことを話してみない? 仲良くしよう!」
コミュ障達は、答えた。
「いいです」
「興味ない」
何も変わらなかった。
リーダーはイジイジしはじめた。
仕方がない。
彼らにやる気を出させたいので、
1人だけ女の子と入れ替えてみた。
密室に、7人の男と1人の美少女だ。
これは起こりえないと思われていた殺人も起こりうる。
さあ、奪い合え!
しかしリーダーと入れ替えてしまったのが間違いだったか、
彼らはただもじもじしているだけだ。
いや、のびのびしろよ。
女の子がつまんないと言い出した。
どうすればいい?
この密室をのびのびとさせるには、どうしたらいい?
このままではタイトル詐欺だ。
女の子ものびのびせず、イライラしはじめた。
男の一人をチャラチャラしたのに変えてみた。
これで何か起こるだろう。
しかしチャラ男は閉所恐怖症だった。
ビクビクし、ハラハラし、ドキドキが止まらないとか言い出す始末だ。
そのドキドキが恋だと勘違いする吊り橋効果で、チャラ男は1人の男と恋に落ちるのであった。
って、男かよ。
まあ、いいか。
そういう趣味を否定はしない。
チャラ男とブサ男Aなのが悔しいところだが……。
チャラ男とブサ男Aは手を繋ぎ、あはは、うふふ、と笑いながら、どこかへデートに出かけようとした。
うきうきしながら。
しかしここは密室だ。
入口も、出口も、窓さえなかった。
しかしのびのびとした密室だ。
わかるか、君達?
のびのびとした密室なんだ。
どうかのびのびとしてくれまいか。
チャラ男は閉所恐怖症を思い出したようだ。
明るいけど狭い!怖いよ〜とか騒ぎ出す。
もう、最後の手段だ。
1人にしてみた。
彼はとてものびのびと過ごした。
おしまい。