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夏の合宿へ


 からっと晴れた、どこまでも広がる大空。青い空には入道雲。遠くに見える山の緑が眩しい。セミは鳴いているが、開け放した車の窓を駆け抜ける風が涼しくあまり気にならない。


 本日は、夏の合宿1日目である。


 3時間ほど車を走らせてやって来たのは、乃那未の別荘があるという長野県の白樺高原付近だ。

 黒の半袖Tシャツに黒のハーフパンツ、黒いキャップという、やはり全身黒の蕾がだるそうに運転をしている。

 乃那未はカーブのたびに身体を遠心力に任せ、「あぁ〜」と言っている。ちなみに後部座席に部員3名が座っており、乃那未が真ん中なので大迷惑である。

 ついに暁が「うるせえ!」と乃那未の頭を(はた)くと、「痛っ」と叫んで若葉に泣きついた。若葉は困っているが、乃那未はずいぶん楽しそうだ。



 助手席には雄太の姿。

 蕾は結局()()を頼める人が他におらず、雄太に相談した。すると雄太は嬉しそうに二つ返事で付いて来たのだった。

 雄太は先程生徒たちにソフトクリームを買ってあげ、"優しい先生"の座を獲得済だ。すぐに生徒と打ち解けてみせる雄太に、蕾は嫉妬なのかますますその仏頂面度を増している。


「いやあ、近藤先生は運転がスムーズで安心出来ますね」


 雄太に全く悪気はないのだが、嫌味に聞こえてくる。



 昼時になると、乃那未が狙ったように「あっそばそば!」と叫んだ。雄太が後ろの乃那未を見る。


「いいですね、信州そば。実は昼ごはんのプランも相原さんの中で組み込まれていたのかな」

「私のプランに狂いはないです。あそこは十割そばで水にもこだわりがある美味しい店らしいです」


 調子の良い奴だ。


「夏はざるそばを食べたくなりますよね」


 若葉が言う。皆の頭の中はざるそばでいっぱいになった。




 店に入って、席につくなり店員が水を用意することも構わず雄太がおもむろに口を開く。


「ざる蕎麦天ぷらセットを5つ――」


 5人の意思は既に固まっていた。ダイエット中の若葉だって、この際ダイエット中であることを忘れている。


「この後の予定は……」


 暁が乃那未の作ったパンフレットを広げる。見ると、スケジュール表にはきちんと十割そばを食べると記載してあった。昼食の後には、カヌーツアーの文字。


「カヌーって」


 それに乃那未が素早く反応する。


「夏のアクティビティとして組み込んでみたの。カヌーやったことある?」

「ないけど」

「大自然の中に生息する生物でも数えていれば、レポートに書けるわ」

「そんなもんか」


 あくまで同好会の活動だ。各自の実験内容を一応顧問の蕾に報告しただけで、実際のスケジュールプランは乃那未が握っている。

 暁と乃那未はそれほどお互いを知っているわけではない。1年生の時に同じクラスで隣の席になった時に、半ば無理やり科学クラブに入部することになってしまったのだった。部員数が足りないから、幽霊部員でも良いからという言葉で仕方なく。



 それからどこからともなく、乃那未の父が大学教授だったこと、でも自殺をしたこと、遺産があるのでお金持ちだというような噂が流れていたが、直接関わるようなことがなかった。


 これから何をするのか、楽しみでもあり不安でもある――



「ほら、蕎麦きたよ! パンフレットは仕舞って!」



 それから5人は無言で蕎麦に夢中になった。

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