話し合い
部室に一番乗りで来たのは、部長である乃那未だった。いつもと変わらず、カバンから文庫本を取り出して読み始める。
しばらくして、暁が部室のドアを開けた。
「なんだ、まだ揃ってないのか」
「うん」
乃那未はそれだけ言うとまた文庫本に目を落とす。暁は乃那未から離れた端の席につくとイヤホンを耳につけてスマホをいじり始める。
10分ほど経って、廊下から女子生徒の話し声が聞こえてきた。
若葉がドアを開けて入ってくる。後ろから蕾も入ってきて2人で話しながら来たのだと分かる。
乃那未は文庫本をぱたんと閉じた。
「若葉ちゃんとせんせえ遅いよ」
「あ、お待たせしました。……先生と乃那未さんのこと話していたんですよ」
「えっ」
「優しい先輩ですって教えましたよ」
「えーっそんなに優しいかなあ」
照れたように笑う。
蕾は、乃那未にも後輩がちゃんといたのだと分かり驚く。本当にかわいがっているのだろう。乃那未の目尻が下がって声もワントーン高くなっているような気がする。
座る席は教室の後ろ側の席に偏り、乃那未は真ん中、若葉はその左、暁は一番右端、蕾は左端の席に座った。座ったまま、乃那未が発言する。
「夏休みの活動は、2泊3日の合宿をしたいと思います」
「合宿ぅ? 聞いてないぞ」
声をあげたのは蕾だった。蕾の頭の中では、合宿なんて手続きが面倒そうだ、しかも交通機関がなければ自分が運転しなければならないという不安が渦巻いた。
「宿泊先は、長野にあるうちの別荘で、そこまでは近藤せんせえの運転で行きます」
蕾はやっぱりという顔をする。
「そして各自、研究テーマを決めて……これは別に”活動実績”をあげれば良いので、小学生の自由研究くらいの気持ちでやって良いと思います。ちなみに日程は、ペルセウス座流星群に合わせて行くので8月7日からお盆の間が良いですが、皆お盆は予定があったりすると思うので7日から9日の2泊3日にしたいです。どうでしょう」
「いんじゃね」
暁が返事をした。
「凄く楽しそうですね!」
若葉も手を合わせて楽しみ! という顔で返事をする。ただ、蕾だけがついていけずに呆然としていた。
「ちなみに別荘には温泉は湧いていないですが、露天風呂付きです」
「露天風呂!」
合宿というよりかは、ただ旅行に行く雰囲気がただよう。
「せんせえ、山道があるので安全運転でお願いします」
「…………」
蕾はだいぶ責任重大である。
――3人の子守なんてやりたくないというのが、実際の気持ちだった。暁と若葉は大人しそうな見た目だが、乃那未1人を見張っていれば何か問題が起こる場合もあった。ここはもう1人、人手が欲しいところではある。
「まあ、今日は話し合いだけだ。決定するかは一応校長先生とか理事長先生に相談してだな……」
すでに他の3人は蕾の話を聞いていない。女子2人は旅行中何をするかを話し、暁はまたイヤホンをはめている。蕾はため息をついて、どうするかと考えあぐねた。




