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見送り


 暇な科学部の部室では、画面を食い入るように観る乃那未と、眠そうな目で画面を観ている蕾が居た。


 部室にはエアコンが設置されておらず、大型の扇風機が3台、部屋の空気をかき回していた。部室は生ぬるい温度だが特に過ごしにくさは感じない。カーテンは閉めているが窓を開けているので、最近鳴き出したセミがうるさかった。


 部室のテレビは未だブラウン管である。蕾はここに来て初めてブラウン管テレビを見た為、内心珍しく見ていたが今ではもう慣れてしまった。机に腕を載せて、ほとんど机に突っ伏して寝るような体制になっている。


 画面で流れているのは、砂漠で巨大ミミズが襲ってくるという内容の映画だった。


 乃那未は部室の棚からこの映画が録画されたビデオテープを発見し、『テレビ放映されてた当時のCMも録画されてるし、吹き替えの声優は今はもう亡くなってしまった方なんですよ!』と興奮しながら視聴を始めたのだった。


「今出てきた奴は最初に喰われるな」


 蕾が言うと、次のシーンで、巨大ミミズの脅威をナメていた男が頭からむしゃむしゃと食べられた。


「ほらな」

「もーせんせえ黙っててくださいよ。これは皆が分かっている"お決まり"ってやつなんです。そこが面白いんですから」


 ふーんと言いながら、睡魔が襲ってきて瞼を閉じた。





 頭に、コツコツと硬い物をぶつけられて目覚めた。

 蕾が顔を上げると、リモコンを持った乃那未が困ったように眉を下げて見ていた。




「もーせんせえ。また部室で寝ちゃって……。もう映画終わりましたよっ」


 蛍光灯の眩しさに目を細める。



 ――しょうがないだろ。部室(ここ)に来ると、睡魔に襲われるんだから。



 蕾は何か重要なことを忘れている気がしたが、寝起きでは何も考えることが出来なかった。


「今何時……」

「22時過ぎです」

「――何こんな時間まで部室でのんびりしてるんだ」


 蕾はため息をついた。他の講師に知られたら、帰りが遅いと怒られるかもしれない。

 そんな蕾の心配をよそに、乃那未は蕾の髪をまじまじと見ていた。


「せんせえの髪って何色ですか?」


 蕾の髪色は遠目で見ると黒だったが、近くで見ると緑系のカーキ色だった。しかし地毛は暗い緑色である。

 蕾は頭に手をやり、寝癖を直すように撫でつけた。


「これは染めてるんだが……変だったか?」

「ううん。根本が緑っぽいなと思いまして」

「……気にするな」


 染め直さなければならないなと考える。髪色が緑では目立ってしまうからだ。

 しかし、全身黒い服を着ているので既に目立っていることは誰も教えてくれない。


「車で家まで送ろう」

「本当ですか。ありがとうございます」


 乃那未は嬉しがり、帰りの支度を始めた。部室を出る時に、本当は鍵を職員室に戻さなければならなかったが職員室が遠いので、自分のポケットに入れた。


「あっ、せんせえ悪いことしてますよ」

「いや、きっと職員室は閉まっている」


 と、そう思い込ませる。


 駐車場で、ピッと音が鳴り車のライトが光った。黒のウイングロードを見て一言、


「せんせえ車も黒なんですね。黒ばっかり身に着けてると地獄に落ちちゃいますよ」


 いきなり恐ろしいことを言い出す。


「どこの迷信だ」

「迷信じゃないですよ。真実ですよぉ」



 にこにこして言う。

 蕾が車に乗り込み、乃那未も助手席に乗り込んだ。学校から出て、思わず乃那未の自宅方面に曲がってしまった。


 ――しまった、これじゃあ自宅を把握してるってバレるじゃないか。


「あれっ、せんせえ私のお家分かるの?」

「い、いや、分からん。とりあえず大通りに出ようと思って。どっちに行けば良いか案内してくれ」

「おっけー」


 案の定突っ込まれるが、特に疑われてはいないようだ。胸を撫で下ろして、知っている道を案内されながら運転する。

 やがて、閑静な住宅街に入ると白い壁に囲まれた乃那未の自宅が見えた。黒く塗られた家の門の前で、車を止める。


「ありがとうございました」

「ああ、早く寝るんだぞ」




 蕾は手を挙げて乃那未を見送る。これからまた、薫の言っていた地下室に()もるのだろう。そこでも部室のように時間を潰すような"遊び"をしているのだろうか。

 急に好奇心が湧いてきて、乃那未を呼び止める。相原さん――と。

 乃那未が振り返ると、言うべき言葉を失って


「いや、何でもない」


 と言ったのだった。何ですかそれと乃那未は笑って、「また明日部室に来てください」と言って玄関のドアの向こうに姿を消した。



 地下室に乗り込めないことがもどかしい。友人関係ならすぐに自宅に入れるのに。

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