依頼人探し
薫は、ボロビルで乃那未の父――浩二の身辺調査を行っていた。
浩二は当時、最年少30歳で大学教授になっており、その後の研究や論文ではあまり話題になっていない。そこから39歳で自殺してニュースにはなっていた。
念の為浩二の書籍も読んだが、関わりのある人物を2名ほど話題にあげている位だった。書籍の内容は最初こそ薫にも理解出来たが後半から難しく、ほとんど斜め読みをしてしまった。
大学という機関は広く、12年前に死亡した浩二のことを探ることは容易ではなかった。
一度は大学に潜り込んだ薫だが、大学という空間に慣れずに素人であるそこらへんの大学生を雇って聞き込みに行って貰った。
1人、聞き込みの上手い大学生がおり、すぐに浩二の恩師やら同僚やらに行き当たる。
そして、ある人物が浮き上がってきた。
柚木崎育治。
浩二とは大学時代からの同期だが、歳は浩二の2つ上。8年ほど前から大学教授を務めている。
浩二が教授になる頃、柚木崎は助手として研究を手伝っていたそうだ。妬みか苦手意識なのか、よく浩二の話をしていたとのこと。
「……相原はよく"スーパーマン"を生み出すって言ってたよ。教授がスーパーマンとか言うんで、笑ってたけど本気だったらしい。……要は超能力を持った人間を生み出すってことだよ。今だから言えることだけど、私は相原の自分が正しいと主張するような話し方が気に食わなかった。まぁ、私に対してだけかもしれないがね。だから皆に研究の危険性を話したが、それは研究内の話だろうとあまり聞いてくれなかったよ。……あぁ、分かってくれる? 良かった。そうそう、相原は天才と言われてたからねぇ。奥さんに伝えたのは悪いことをしたかもしれない。でも結局、子供には何の変異も見られなかった。研究は失敗だったらしいから、別に普通の子供なんだろうけど。え? なんて伝えたか? 言っていいのかなぁ。貴方の子供は、実験の結晶なんですよ、失敗作ですけど……いやいや、こんなことは言わないよ――」
長い長い音声ファイルを聞き流す。
「酔ってきたらべらべら喋って、長くなりました」と、雇った大学生から報告があったが、確かに長い。1時間半ほどあり、雑音や、柚木崎の聞き取りづらい声と面白くない話が続く。雇った大学生はよく話を聞いていたものだ。
報酬を多く渡しても良いかもなと考え、薫は苦笑いした。
音声ファイルを聞いていると、相原乃那未はゲノム編集というものをされて産まれた子供らしい。
そういえば書籍の中にもゲノム編集の倫理観について語っている文章があった気がする、と薫は目を通した書籍をあさり始めた。
『……ゲノム編集は神に反するという意見があるが、私はそうは思わない。なぜならば、この世の全ての行いは――神が存在することを前提とする話だが(笑)――神に認められている。認められているからこそ、実現可能であると私は考えているからだ。しかし、その行為が原因である副作用があれば、その時は討論しなければならない。そもそも……』
――ああ、脳が糖分を欲している。
薫は、音声ファイルの再生を停止し、思考も停止することに決めた。