炎の世界
悲鳴が聞こえる、何かを呟く声が聞こえる、パチパチと木が爆ぜる音がする、大勢の足音が迫ってくる。
乃那未は気が付くと戦争風景の真っ只中に立っていた。
建物や木が燃えてそこら中が火の海なのに、乃那未は熱さを感じなかった。
火が燃えている所は明るいが、他の場所は薄暗い。
周りの音は不鮮明で、まるで水の中にいるみたいだった。
後ろで男の子が泣いている。足に溶けたガラスが張り付いたり刺さったりしているらしい。
助けたいと願うが、その男の子はいきなり立ち上がると走り去ってしまった。
ふらふらした足取りで、歩いていく人が見える。後ろにも数人居て、どこかを目指しているらしく列をなしている。表情がよく見えない。
乃那未は何もすることが出来ない。ただ見ているだけ。悲しくなって目から涙を流していた。
空を見上げてみても、雲がかかっているのか煙なのか、星も月も見えない。
意識がはっきりしないのは、ここが夢の中だから。
乃那未は列をなした人々が向かう先を知っている。川へ向かっているのだと。以前誰かが川へ向かえと言っていた。乃那未ではない誰かが。
川に希望はない。熱湯になっているし、油や人や木材が浮いている。知っているが何も出来ない。
ここが過去の世界だから。