職員室に現れた乃那未
放課後の静かな職員室に、ノックの音が3回響き渡る。
「近藤せんせえ」
それが挨拶で当然という顔をして、白衣を着た乃那未が職員室に足を踏み入れて来た。蕾は振り向いて一応、「失礼しますだろ」とたしなめた。
「失礼します。部室で火を使いたいので、念の為部室に来ていただけますか」
職員室中に緊張が走る。相原乃那未が火を使う……職員たちは、部室でまた危険な実験をするのだろうかと、乃那未と蕾の会話に耳を傾けた。
「近藤先生、一応ここで実験内容を確認してから部室に行ってください。元顧問からの助言です」
机を1つ挟んでいる吉岡先生が蕾に言った。乃那未がちらりと見ると、吉岡先生は「引継ぎがうまく行っていない部分があって今言ったのよ」と言い訳のように付け加える。乃那未はただ見ただけなのに。
「で、どんな実験内容なんだ?」
「アルコールランプで空き缶を熱します」
なんだアルコールランプかと職員たちは安堵する。乃那未だって室内で火力が強いものを使うほど馬鹿ではなかった。
「まぁ、分かったがそれは答えになってない。じゃあ、実験の目的は?」
「えっと、その、綿菓子製造機で綿菓子を作ります……」
乃那未は小さい声で答えた。蕾はよし、と言って部室へ向かう為に乃那未と職員室から出た。
「なんで綿菓子を作るって小声になったんだ?」
乃那未に尋ねる。
「前、吉岡先生に料理は科学じゃありませんって言われて、火を使う許可を得ることが出来なかったんです。それで……」
「料理は科学だよ」
蕾がそう答えると、乃那未はそうですよねと笑った。
「吉岡先生に何かしたのか? というか、何か職員室の空気が重かった気がするんだけど」
「いやあ、吉岡先生と気が合わなくて。吉岡先生を驚かすような実験ばかりしてました。でも決してそこまで危険なことはしてないんですよ。吉岡先生が大袈裟なだけです」
きっとプラズマもその一部の実験だったのだろう。蕾が顧問になってから危険な実験をしているのを見ていないので、どの程度のものか分からないが。
「見てみたいですか? 対吉岡先生への実験」
「いや、いい」
乃那未の笑顔が怖い。