孤独だった
「じゃあ気を付けて帰ってね」
雄太は、奈緒を駅の改札口まで見送った。
「また今度ね」
奈緒が言う。また今度とは良い響きだ。
雄太は満足感でいっぱいだった。その代わりに、1人になった途端に寂しくなる。
しかし、見知った顔の人が前から走ってきて嬉しさで声をかけた。
「近藤先生」
そう呼ばれた蕾は立ち止まると、目を細めて雄太を睨みつけた。あぁ、と声を漏らす。
「外で先生は辞めてくださいよ」
「すみません、癖で」
雄太は嬉しそうに笑う。
「僕はデートの帰りですけど、近藤さんはジョギングですか」
蕾は黒のジャージ上下にタオルを首にかけているだけという格好だった。
嬉しそうな雄太を見て、蕾は変な奴だなと思う。
「見ての通りジョギングです」
「すごいですね。ガタイがいいですし筋トレなんかもされてるんですか」
「まぁ」
雄太は蕾の中の、要注意人物に指定されている。
――無視して不審に思われるのも嫌だが、話していると余計なことを喋ってしまいそうだ。
警戒して、出来るだけ短く答えるようにした。
「デートはどうでした?」
雄太の顔が明るくなる。ただ自分のことを話さないために、雄太に話をさせようとしているということには気が付いていない。
「見栄はってデートなんて言いましたけど、ただご飯を食べただけです」
「いいじゃないですか。女性とご飯だなんて羨ましい」
ちっとも羨ましく思っていなかったが、そんな相槌を打つ。
「楽しかったですよ。近藤さんは分かると思うんですけど、1人って寂しいんですよね。でも今は1人じゃない、そんな気がしてますけど」
――何故俺はお前と一緒にされているんだ。
不思議に思いながらも、「友人は」と聞く。
「友人は居ますけど、そこは僕の居場所じゃない気がするんです」
「今は1人じゃないというのは、何故そう感じてるんですか?」
「今は、デートをした……赤城奈緒さんっていう方なんですけど、奈緒さんと近藤さんもいますし……」
「待て、何でそこに俺が入っているんだ」
雄太は、え? という顔をすると笑った。
「やだなぁ。あの学校の中で僕が1番仲良くしたいのは、近藤さんなんですよ」
だから何故俺なんだ、と聞きたいが、何か隠したいのかと思い、蕾は踏み込めずにいる。
「近藤さんは、一緒にご飯を食べる人いるんですか」
「あー1人いるな。未だに何を考えているかよく分からない奴が。甘党だから食べたいものも合わないし」
「そっか、そりゃ近藤さんにも居ますよね」
「でも恋人でも家族でもないですよ。ただ、出身地が同じで一緒に――」
そこまで言って、しまったと思い口を閉じた。この間出身はどこかというような話で、聞かれたら誤魔化しきれないと考えたばかりだ。
「故郷が同じって良いですよ。僕もいつか故郷に帰るって考えているんですけど、なかなか。先生をやっているのも好きだし離れられなくて」
「遠いのか」
「遠いですね。近藤さんは故郷に帰る予定は?」
蕾は夜空を見上げた。街の灯りで星は2個くらいしか見えなかったが、250万光年先の故郷に想いを馳せる。
「そうだなぁ。特にいい思い出はないが、それでも懐かしさはあるから……まぁいつかは」
「そうですか」
ただ、蕾と薫が乗ってきた宇宙船は修理出来ないほど壊れていたので、解体してバッテリーや金属などを薫が加工して使用していた。だから、もう帰る手段は無い。
雄太も空を見上げる。雲がかかっているようで、月の姿もない空を。