表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/32

孤独だった


「じゃあ気を付けて帰ってね」


 雄太は、奈緒を駅の改札口まで見送った。


「また今度ね」


 奈緒が言う。また今度とは良い響きだ。

 雄太は満足感でいっぱいだった。その代わりに、1人になった途端に寂しくなる。

 しかし、見知った顔の人が前から走ってきて嬉しさで声をかけた。


「近藤先生」


 そう呼ばれた蕾は立ち止まると、目を細めて雄太を睨みつけた。あぁ、と声を漏らす。


「外で先生は辞めてくださいよ」

「すみません、癖で」


 雄太は嬉しそうに笑う。


「僕はデートの帰りですけど、近藤さんはジョギングですか」


 蕾は黒のジャージ上下にタオルを首にかけているだけという格好だった。

 嬉しそうな雄太を見て、蕾は変な奴だなと思う。


「見ての通りジョギングです」

「すごいですね。ガタイがいいですし筋トレなんかもされてるんですか」

「まぁ」


 雄太は蕾の中の、要注意人物に指定されている。

 ――無視して不審に思われるのも嫌だが、話していると余計なことを喋ってしまいそうだ。

 警戒して、出来るだけ短く答えるようにした。


「デートはどうでした?」


 雄太の顔が明るくなる。ただ自分のことを話さないために、雄太に話をさせようとしているということには気が付いていない。


「見栄はってデートなんて言いましたけど、ただご飯を食べただけです」

「いいじゃないですか。女性とご飯だなんて羨ましい」


 ちっとも羨ましく思っていなかったが、そんな相槌を打つ。


「楽しかったですよ。近藤さんは分かると思うんですけど、1人って寂しいんですよね。でも今は1人じゃない、そんな気がしてますけど」


 ――何故俺はお前と一緒にされているんだ。


 不思議に思いながらも、「友人は」と聞く。


「友人は居ますけど、そこは僕の居場所じゃない気がするんです」

「今は1人じゃないというのは、何故そう感じてるんですか?」

「今は、デートをした……赤城奈緒さんっていう方なんですけど、奈緒さんと近藤さんもいますし……」

「待て、何でそこに俺が入っているんだ」


 雄太は、え? という顔をすると笑った。


「やだなぁ。あの学校の中で僕が1番仲良くしたいのは、近藤さんなんですよ」


 だから何故俺なんだ、と聞きたいが、何か隠したいのかと思い、蕾は踏み込めずにいる。


「近藤さんは、一緒にご飯を食べる人いるんですか」

「あー1人いるな。未だに何を考えているかよく分からない奴が。甘党だから食べたいものも合わないし」

「そっか、そりゃ近藤さんにも居ますよね」

「でも恋人でも家族でもないですよ。ただ、出身地が同じで一緒に――」


 そこまで言って、しまったと思い口を閉じた。この間出身はどこかというような話で、聞かれたら誤魔化しきれないと考えたばかりだ。


「故郷が同じって良いですよ。僕もいつか故郷に帰るって考えているんですけど、なかなか。先生をやっているのも好きだし離れられなくて」

「遠いのか」

「遠いですね。近藤さんは故郷に帰る予定は?」


 蕾は夜空を見上げた。街の灯りで星は2個くらいしか見えなかったが、250万光年先の故郷に想いを馳せる。


「そうだなぁ。特にいい思い出はないが、それでも懐かしさはあるから……まぁいつかは」

「そうですか」


 ただ、蕾と薫が乗ってきた宇宙船は修理出来ないほど壊れていたので、解体してバッテリーや金属などを薫が加工して使用していた。だから、もう帰る手段は無い。


 雄太も空を見上げる。雲がかかっているようで、月の姿もない空を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ