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家族


 ――なんで、こうなっちゃったんだろう……。


 乃那未に話しかけられた後、母である明美は過去の記憶を辿っていく。



 夫である浩二とは、大学時代から付き合っていた。就職して同棲を始めるが、浩二は研究に没頭していった。明美の方から結婚を切り出して30手前でやっと結婚したくらいだ。

 幸せだった。浩二は研究熱心だったが明美は大切にされていることを感じていた。2人は子供が欲しかったが、なかなか恵まれなかった。

 そんな時、浩二から提案をされる。


「体外受精という選択をしないか」


 浩二はその頃には、最年少で大学附属病院の教授となっていた。浩二の専門は産婦人科だった。明美に対して、一緒に頑張ろうと優しく声をかけた。

 体外受精を決断して、出産まで目まぐるしく時が過ぎた。


 ――そして、乃那未が産まれた。


 あんなに喜んだのに……。

 乃那未が3歳頃になると、まるで浩二は明美と乃那未に興味を失ったように――いや、ようにではなく明美は浩二が自分たちに対して興味を失っているということを感じていた。

 浩二は自宅の地下に研究室と称した部屋を作った。

 夫婦に会話はなくなり、明美はよく小言を言うようになった。浩二はほとんど無視していたが、明美が乃那未のことを持ち出し、「やっぱり体外受精なんてしなければよかったのよ! 普通に子供が出来なかったのは、子供がわたしたちの仲を引き裂くことになるから神様が出来ないようにしてたんだわ!」と叫び始めるとよく喧嘩になった。




 しかし、喧嘩中に夫の目に浮かんでいるのは失望の色だった。

「君も賛同してたじゃないか! 何が気に食わないんだ!」

「あの子が出来てから変わってしまったじゃないの!」


 原因は乃那未に決まっている。思い返してみても、出産をきっかけにどんどん仲が悪くなってしまっていた。

 何か()()()()をされて産まされたのだと思い込み、明美の脳裏には乃那未が、得体の知れない恐怖そのものとして映っていた。

 喧嘩をすることにも疲れ、明美は夫も子供も居ないものだと思うことにした。

 そうすると、あの地下室でいつの間にか変わり果てた夫の姿を見つけた。睡眠薬を大量摂取した自殺だった。遺書もなく何故自殺したかは未だに不明である。しかし、そこでも明美は、乃那未のせいで夫が死んだと考えた。


 浩二の同僚が家に訪ねてきた時に、それは確信に変わる。


 別に浩二が亡くなっても、明美には何の感情も浮かばなかった。ただ、事務的な手続きに追われ、育児と家事も事務的にこなした。

 何も残らない。

 あるのは記憶とこの家。


 ――なんで、こうなっちゃったんだろう……。


 ……何もかも、無意味だわ。

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