科学部へようこそ!
放課後、科学クラブの顧問になる蕾は吉岡先生に部室の場所を聞いて、部室を訪れた。
窓には暗幕。理科室のような設備らしい。
戸を開けると、埃っぽいにおいがした。
白衣を着た女子生徒が、紫色に発光するガラス管を椅子に座って眺めていた。少し遅れて、蕾の姿を認める。
「あれ。吉岡先生じゃない」
「今日から顧問になった、近藤だ」
「そうですか。科学部へようこそ」
女子生徒――相原乃那未は、そう言うとガラス管に向き直った。蕾は乃那未の隣に椅子を持って来て座る。
赤紫の光に照らされた乃那未の顔を見て言う。
「これがプラズマ? ちっとも危険じゃないな」
「吉岡先生から聞いたんですか? ふふ、危ないって言われたから真空管の中でプラズマを発生させることにしたんです。これはこれで、紫色が綺麗……」
ジジッという微かな電気の音だけが聞こえる。
「今日は相原さんしか来ないのか?」
「他の2人はサボり気味なので、実質1人趣味活動みたいなもんです」
「1人で何すんの?」
教室の中は暗いので、少し眠くなりながら尋ねる。
「本読んだり動画見たり実験したりという感じです」
「楽しいのか」
「楽しいですよ。ずっと夢を見ている感じで。やりたいこととか、行きたいとことか空想してみたり。このプラズマを見ながら、でっかい装置作ったら空にオーロラを出現させることが可能かなぁとか考えたり……」
「そりゃ規模がデカいな。予算が足りないしやる場所もない」
乃那未は夢が無いですねと笑った。
「空想なら何でも出来るんですよ。私の空想は無敵なんです」
蕾には乃那未の笑顔が眩しかった。
「近藤先生は何の先生なんですか?」
「家庭科。ちゃんと教えるのは調理だけだけどな」
「料理出来るの良いですね。実験と称してカルメ焼きとか作りましょうよ」
「カルメ焼き意外と難しいぞ」
蕾は言うが、乃那未はあまり聞かずに飴細工もやりましょうと甘い物ばかりあげていく。
「着色料を手作りするとか」
「それは怖いな。虫とか雑草とか使うなよ」
「え、使おうと思ってました。だって着色料って虫潰したやつでしょう」
「素人がやるもんじゃない」
「何にも口に出来なくなりますよ」
蕾は大きなあくびをする。
「先生眠いんですか? 毛布ありますよ」
何故毛布があるんだと言いそうになる。
乃那未は机に毛布を敷いた。理科室にあるような机なのでそれだけでベッドの完成ということらしい。
「大丈夫です。私もよくこうして寝てますから」
「じゃあちょっとだけ。帰るとき起こして」
「了解です。アルファ波が出る音楽流しときますね」
乃那未がラジカセにCDをセットすると、小川のせせらぎが流れてきた。
部室環境は快適のようだ。