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記憶

 艶のある黒髪が目についた。


 忘れもしない、虚ろな表情の白い顔、その(くら)い瞳。あの時は世界が赤く染まっており瞳も赤く見えたが、実は色素の薄い茶色だったのかもしれない。


 少女は自分を見つめる男に気がつきもせず、すれ違った。

 見間違えではない。記憶の中の少女そのものだった。変わらない背格好、顔立ち。記憶の中の、あの頃のまま。

 通り過ぎた少女の後ろ姿を目で追いかけ、疑問に思う。


 ――何故、時が経っても少女はあの頃の少女のままなのだろうか。


「どうした、(ライ)


 名前を呼ばれ、近藤(ライ)は我に返った。もう昔の話だ。こんなところに、あの少女がいるはずがない。確かに似ているが、きっと別人だろう。


「見知った顔がいた気がして。勘違いだったらしい」


 別人でなければそれは、幻覚か化物だろう。


「もしかして例の少女?」


 不健康な青白い顔をしているが整った顔の須藤(カオル)が、蕾に調子良く尋ねる。これまで少女に幾度となく会う度に話した昔話だった。蕾は、今更傷心に浸ることはないという風を装う。


「そうだ」

「お前は例の少女をよく見るよな。俺は一度も見たことがないから未だに都市伝説だと思ってるけど」

「見なくて良いもんなんだけどな」


 そう言って溜息をつく蕾を見て、薫はそれ以上何も言わなかった。

 薫が何も言わなかったので、蕾は何度も思い返した記憶をまた思い返してしまった。




 蕾の住む故郷には、56億4500万年後に、少女が宇宙を滅ぼすという預言が記された石板がある。そして、少女は歴史のターニングポイントに必ず現れるという都市伝説のようなことも語られていた。預言には『黒髪、黒くて、怨念のある眼、蒼白な顔、幼い少女』としか記述が無く、これは少女の名前を知ってしまうと呪われるだとか、宇宙滅亡が早まってしまうからだという様々な見解があった。



 蕾がまだ子供である頃、世界中で戦争が繰り広げられ、ついに故郷も戦場と化した。そこで、戦場を眺める少女の姿が度々目撃された。


 そんな時、蕾も少女を目撃する。泣き声がして、導かれるようにその場へ向かっていく。

 少女は炎の中に立ちすくみ、涙を流していた。身にまとったボロ布からは細い手足が伸びている。蕾は建物の影に隠れていたが、少女と目が合う。鋭い目つきで怨みのこもった瞳だった。


 見た瞬間に、この世の者ではないと思った。


 雷は少女に銃口を向ける。しかし、撃つことは躊躇して2人は睨みあった。


「雷、こんなところでどうした」


 声をかけてきたのは、蕾の唯一の友人であるクゥマだった。


「あいつが……」


 蕾は銃を構えたまま、少女から目を逸らさずに答える。

 その時、異国の言葉が聞こえた。2発の銃声と同時に隣にいた友人の身体が後ろに倒れる。敵国の者に撃たれたのだ。敵国の者がぞろぞろと物陰から姿を現すのを見ると、蕾は一目散にその場から逃げ出した。友人はもしかしたら生きていたかも知れない。しかし、蕾は振り向きもせず逃げ出した。

 いつの間にか敵国に囲まれていたらしい。



 蕾は、友人を置いて逃げたことを後悔していた。それは自分のせいだ。しかし、あの少女があの場にいたから起こったことだった。

 だから、蕾は"例の少女"を今でも怨んでいる。


 例の少女は蕾に何の関係があるのか、その後三度雷の前に姿を現した。戦争が終わった時、故郷を発つ時、そして先程――街中で。



 例の少女が現れても特に変わった出来事はないので、蕾の前に現れる理由は分からない。

 例の少女に銃が効くのかは不明だ。しかし、あの時引金を引いていれば結末は違ったはず。何度も繰り返される記憶と思考に、蕾はずっと悩まされていた。

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