寝取られ願望が強すぎる彼女が俺に次々と美少女を紹介してきて困ってます〜やたらと都合の良いチョロインたちが浮気をさせようと迫ってきますが俺は彼女一筋なので絶対に屈しません〜
頭の悪いラブコメです。
「……私、刺激が欲しいの」
キッカケは俺の彼女、名取加奈のこの一言だった。
俺たちは付き合い始めて一年、いわゆる倦怠期というやつに陥っていた。
確かに最近惰性で彼女と付き合っているような気がしていた。
手と手が触れ合ったことに恥じらうこともない。恋人繋ぎだってできる。
そういう雰囲気になればキスだってする。
だがそんなラブコメな展開に慣れてしまっている俺がいた。
「確かに……」
その言葉に俺は完全同意した。
これ以上の刺激と言えば……その……一線を超えるとか?
あれ、これひょっとして俺試されてるのか?
「ねえ、颯太。私のお願い聞いてもらえる?」
加奈は頬を少し赤らめながら……上目遣いで俺を見てくる。
これは俺から言わないといけないやつじゃないのか?
決心して、俺の方から切り出そうとした。
そう、
──今夜、うちにこない?
「私ね、寝取られてみたいの」
「え?」
俺がためらっている間に加奈がとんでもないことを口走ってきた。
寝取られたい? いわゆるNTRのことを言っているのか?
「恥ずかしいから言えなかったんだけど……私寝取られ願望がすごくあるの」
「お、おう」
「だからね、颯太が他の女の子とイチャイチャしてるところが見たいなって。あわよくばそのまま寝取られないかなって」
「とんでもねえな」
「引いた?」
「いや、別に」
驚きはしたが、引きはしない。
俺だって人には言えない性癖の一つや二つは持っている。
だが、まさか加奈にもそんな願望があるなんて思わなかった。
「どう? 寝取られてくれない?」
「嫌だ」
「そっか……やっぱりこんなこと言うなんて気持ち悪いよね」
「そうは思わないけど……」
俺が加奈を差し置いて他の女子とイチャイチャする?
ないないない。
だが、俺たちの関係が行き詰っているのもまた事実。
ここらで一度何かしらの刺激を加えないと、最悪別れることにもなってしまいそうだ。
それは絶対に嫌だ。
「じゃあさ、こうしようよ」
「ん?」
「私の指定する相手とデートしてくれたら、颯太のお願い何でも聞いてあげる」
「分かった引き受けよう」
え、何でもいいの?
あんなことやこんなことも?
俺本気にしちゃうからね。
そんなこと言われたら即答するしかないじゃないか。
「それじゃ、相手は私が用意するからよろしくね」
「ああ、言っておくが俺は絶対に浮気なんてしないからな!」
「あ、そのセリフ良い! 何かフラグみたい」
フラグではない。
俺は彼女のことを本気で愛している。
どんな相手が迫ってこようとも浮気なんてするはずがない。
【エントリーNo.1 小悪魔系後輩】
加奈に指定された時間、指定された場所に着くと可愛らしい小柄な女子が手を振ってきた。
「颯太さんです?」
「ああ、俺が颯太だけど……もしかして君が今日の相手?」
「はい、センパイ♪ 今日は本格的に堕としにいくので覚悟してくださいね?」
加奈の紹介だけあって事情は知っているようだった。
それにしてもすごい乗り気だな。
「それじゃ行きましょ、セーンパイ♪」
そう言っていきなり腕に抱き着いてきた。
むにゅっと柔らかな感触が二の腕に伝わってくる。
その瞬間に察した。
──この娘、本気だ。
と。
そして小悪魔な後輩とのデートが始まった。
彼女の積極的な姿勢に終始翻弄されっぱなしだった気がする。
一緒にアイスを食べていたら
「センパイのフレーバーも食べたいなぁ……」
と言ってきたのでとりあえず一口あげようとしたら、俺のスプーンをひったくって舐るように食べた挙句に
「間接キスですね♪」
とか言ってくるし、移動中は常に俺の片腕を占領したり抱き着いてきたりと、そこかしこに胸を当ててきて
「興奮しました? 私着痩せするタイプなんですよ?」
とか言って俺を誘惑してくる。実際すごかった。
そして極めつけが帰り際に放った一言である。
「センパイ、慣れないヒールで靴擦れしたのでどこかで休みたいです……」
普通の場所なら肩でも貸してベンチにでも座らせる所だったのだが……
場所が場所、ラブホの目の前だった。
完全に誘ってやがる。
だが俺は屈しない。
「だったら俺が運んでやるからさ」
そう言って無理やり喫茶店まで暴れる小悪魔をおんぶして連れて行った。
「ちぇ、センパイのヘタレ。据え膳食わぬは男の恥ですよーだ」
「うるっせ。ヘタレなのは認めるが、俺は加奈一筋だから浮気はしない。今日だって加奈の頼みだから付き合ってるだけなんだからな」
自分に言い聞かせるように目の前でブーブー文句を言う小悪魔を叱りつける。
「それにしても……センパイみたいなタイプは略奪できそうだったのに残念です」
「略奪っておい……」
「だって略奪って最高じゃないですか? 『女として勝った!』って気分になれるんですもん。センパイの彼女黒髪で清楚なモデルみたいな美人さんでしたし? そんな彼女から彼氏を奪えたら最高に気持ちいいと思いません?」
「思いません!」
とんでもないやつだな、本当に。
「あーあ、私もセンパイみたいに一途な彼氏欲しいなぁ」
「誘惑してるつもりなら無駄だぞ」
「ちぇ~」
それが最後の抵抗だったのかいつでも都合のいい時に呼んでくださいね、と無理やりラインのIDを渡して小悪魔は去って行った。
「加奈、見てるんだろ? どうだった?」
俺は後ろの席ではぁはぁと荒い息を漏らしている加奈に声を掛けた。
マスクにサングラス姿。
どこかのお忍び芸能人にしか見えなくて、逆に目立っていた。
「思ってたよりドキドキするね……これ」
「俺はヒヤヒヤしたけどな。これで満足したか?」
「ううん……ていうか実はまだ他にも声をかけてるから、覚悟しておきなさい!」
「何で加奈が一番乗り気なんだよ」
お互い業の深い性癖を抱えてしまったものだ……
【エントリーNo.2 ツンデレチョロイン】
再び加奈に指定された時間、場所に行くと見知った相手がいた。
同じクラスの廣井美羽だ。
「勘違いしないでよね! 加奈の頼みで仕方なく引き受けただけなんだから」
「いや、俺としてもそっちの方が助かるんだけど」
どうやら今回は楽に終わりそうだ。
「それで、どうするんだ。一応デートしなきゃいけないわけだけど」
「私見たい映画があるの、付き合いなさいよね」
「あー、いいね。映画」
映画とはまた楽なものがきた。
暗い空間、流れる映像に集中していればラブコメなんて起こりようがない。
──と思っていた。
今となっては珍しい対面方式でチケットを注文する映画館。
なんとその映画館は本日カップルデーだったのだ。
「お前まさか狙って……」
「別にそういうわけじゃないんだからね! ただ単に少しでも映画を安く見られるならそれに越したことはないでしょ? 別にあんたのことなんか全然全く意識してないけど!」
「まあ、そういうことにしておくか」
なんか不穏だ。
どうしてラブコメの匂いがしてくるのか。
とりあえず映画を見ている間は何も起こらないだろうからしばらくは気を抜ける。
──と思っていた。
ポップコーンとドリンクを買っていざシアタールームへ、という場面。
足元が暗くて見づらかったせいだろうか。
「きゃっ!」
と何とも可愛らしい間の抜けた声を上げて美羽が転びそうになった。
「危ない!」
俺は反射的に美羽の体を支えようと手を伸ばしたのだが……
ふにゅ。
手から伝わる柔らかい感触。
やべえ、これやっちまった。
「ちょっとどこ触ってんのよバカァ!」
美羽が顔を真っ赤にして金切声をあげる。
何でこんなラッキースケベ的な展開が起こるんだよ。
どうも美羽はラブコメの女神に愛されているらしい。
本人に自覚がないからこの前の小悪魔よりも厄介かもしれない。
更にはなんと肝心の映画の内容もコテコテのラブロマンスだった。
その上目を隠したくなるような濡れ場まであった。
「え、ちょっと待って、嘘」
何で美羽が恥じらってるんだよ。自分で選んだ映画だろうが。
当然映画を見終わった俺たちの間には気まずい空気が流れるわけで……
「ねえ……」
「なんだ」
「あんたもああいうこと、興味あんの?」
「あるよ」
「加奈と……したの?」
「ないよ?」
なんだ? 俺と加奈の恋愛事情を聞いてどうしようって言うんだ。
「じゃあさ、私で……練習してみる? あんたとなら……嫌じゃない、かも。って何言わせんのよバカァ!」
「理不尽っ!」
俺は美羽の渾身のリバーブローを受けてなすすべなく崩れ落ちた。
……どうやら映画を見て発情したらしい。
それに視線がふにゃふにゃになって酔っ払っているみたいだ。
まさかコーラで酔っ払うとかそんな漫画みたいな属性がついてるわけじゃないよな?
何はともあれ二人目もクリアだ。
俺は加奈一筋なんだ。
例えどんな相手が来ても……絶対に屈しないからな。
【エントリーNo.3 純真系ギャル】
「お願い、今日だけでいいから彼氏のフリをして!」
三人目の相手、金髪を腰まで伸ばしたギャルが開口一番そう言ってきた。
どうやらこのギャルは他のギャル仲間に彼氏がいる、と嘘をついていたらトリプルデートに誘われて引くに引けなくなってしまった、とのことだった。
どうしようか、と困っていた所で加奈が俺を紹介してきたらしい。
……加奈の人脈どうなってんだよ。
「ウチさぁ、この歳で恋愛経験0とかハズいじゃん? それがバレてミー子たちにハブられたくないの、ほんとお願い!」
「いや、まあ別にいいけど……」
なるほど今回はそう来たか。
だがトリプルデート、と言うならば、そんなに危ないことにはならないんじゃないか?
──と思っていた。
ギャル仲間とその彼氏たちとまずはカラオケに行ってバカ騒ぎをした。
そこまではいい。
ギャルたちのノリに合わせるのに疲れたがそれは些細なことだ。
なんとこのギャルたち、カラオケ終わりに「ちょっとコンビニでも寄ってこうぜ」みたいなノリでラブホに向かったのだ。
当然俺は断ろうとしたのだが……
「頼むって……私ノリ悪いと思われたくないの。ホント何もしないでいいから!」
というギャルのノリに押されて、なし崩し的にホテルに連れ込まれてしまった。
「どうやって時間つぶそっか」
押し黙っていると甘い嬌声が漏れ聞こえてくる部屋の中。
ピンク色の空間でギャルが気まずそうにしている。
俺としては乗り気じゃないのはありがたかったのだが……
ミー子と呼ばれていたギャルがやってきて、
「ちょっと彼氏チェンジしない?」
とか言ってきやがった。
いやお前らの貞操観念どうなってんだよ、ダメに決まってんだろ。
(おい、何とか理由つけて断れよ)
(分かってるって)
ギャルもさすがにそれはマズいと判断したのか
「ウチの彼氏はウチだけのもんだから!」
若干、というかだいぶ誤解を招きそうな言葉で断った。
──また彼氏のフリしてくれとか言われないよなぁ……
結局何もしないまま、服も脱がないままホテルを後にした。
※※ ※
ホテルから出てくると、再びお忍び芸能人みたいな恰好をした加奈が一目散に駆け寄ってきた。
「どうだった? ヤッたの?」
女の子がそんなこと言うんじゃありません。
「何もしてないよ、誓って」
「そっか……」
「何で哀しそうな顔してんだよ」
ここは俺の貞操観念の高さを褒めて欲しいところだ。
「それで? 次は誰と会えばいいんだ?」
こうなりゃもうヤケだ。
加奈が満足するまで何人でも付き合ってやる。
誰だろうと屈しはしないがな!
「もう終わり……他に声を掛けてる人はいないの」
残念そうな様子で加奈はボソリと声を漏らす。
どうやら俺の完全勝利らしい。
「ありがとね……颯太の気持ちは分かったから」
「分かってくれて嬉しいよ、俺は加奈一筋だからさ」
「ありがとう……嬉しい」
過程は最悪だけど、かなり良い雰囲気になった。
「お詫びに……何でもするから」
加奈がホテルの方をチラチラと見ながらそう言ってきた。
「じゃあさ、お願いがあるんだ」
「うん……」
俺は決めていた。
何でもするって加奈が言ってくれた時から。
「……会ってほしい男子がいるんだ」
「え?」
何を隠そう俺も同好の士、つまり寝取られ願望持ちなのだ。
いや全く。
性癖は呪いだよ、本当に。
こざかしくも伏線を仕込んでみました。
途中で気づかれた方は寝取られマニアです。おめでとうございます。
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