姫様「じいや、何か面白い話をして欲しいのら」じいや『わかりました姫様。では、”追放された三匹目の子豚”という話はいかがでしょう』
初めまして。二重三重といいます。
女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」、という作品の形式がとても斬新で自分もこういった作品を書いてみたいと常々思っており、ようやく形にできたので投稿しました。
勇者の肋骨、とても面白いのでぜひ読んでみてください。
「じいや、いるのら?」チリンチリン
『はい、只今。
こんな夜中に何か御用でしょうか、姫様』
「眠れないのら」
『……左様でございますか。
して、わたくしめに何をご所望されますか?
演舞でしょうか?
歌唱でしょうか?』
「じいやはすぐにバテるから、そんなの求めてないのら」
『老いぼれですから』
「そんなの何とかしてほしいのら。
まあ、いいのら。
今日は何か面白いお話を聞かせてほしいのら」
『お話……ですか』
「そうなのら。
最近はやりの”なろう系?”というものを聞きたいのら」
『なろ……なろう系!?
姫様、どこでそのようなことをお知りになったのですか!?』
「大声を出さないで欲しいのら。
王宮のメイドが言ってたのら、なんでも星の数よりも沢山のお話が詰まったものって聞いたのら」
『申し訳ありません。あれは庶民が読んで楽しむもので、身分の高い者が嗜むものではありませんので……』
「いいから聞かせろなのら。
聞かせてくれないと毎晩夜中に呼び出してやるのら」
『わかりました姫様。
このじいや、喜んでさせていただきます。
なのでどうか、これ以上睡眠時間を削らないでください』
「分かったならいいのら。
で、どんなお話を聞かせてくれるのら?」
『では、“3匹の子豚”という物語を――「その話は知ってるのら」――もちろん、存じております。
ですが、今回のお話は“3匹の子豚”をモチーフにしたなろう系物語“追放された3匹目の子豚 ~今更戻って来いと言われてももう遅い~”でございます』
「タイトルが長いのら!!
“今更~~もう遅い“のくだりは絶対いらないのら」
『姫様、これはなろう界で流行りの1つで、読者に広く受け入れられている言い回しなのですよ。
どうか堪えてください』
「分かったのら。
面白くなかったら覚えておくのら」
『善処いたします。
では、ご清聴願います』
◆
『昔々あるところに3匹の子豚がおりました。
彼らは数日前にオオカミの大群に襲われ、その際に両親と家を失ったのです』
「喰われたのら?」
『ええ、それはもうガブガブと。
そして、彼らは生活の拠点も失ったわけですから、新たに家を作らなければなりません。
一番上の兄は稲刈りを終えた農家の元を訪ね、そこで手に入れた藁を使って家を近くの平原に建てました』
「毎回思うのだけど、どうして藁で家を作ったのら?
やっぱり簡単だから?」
『姫様、実は藁には保温効果や防腐効果など様々な恩恵があり、家の材料にピッタリなのですよ。
さて、僅か数日で拠点を構えた兄は弟2人が旅立つまでの間、仲良く暮らすことになります』
「確かに私の知っている物語とは少し違うのらね。
私が知っている話だと、兄子豚はここまで優しくなかったのら」
『ええ、2人の弟豚は兄の庇護下の元、せっせと自身の拠点づくりの準備をしていました。
一週間ほど経ったころ、2番目の兄は近くの森で木造の家ツリーハウスを作り上げ、2人を招き入れました』
「ツリーハウスとはまたかっこいい家を作ったのらね。
2番目の兄子豚はロマン思考なのら」
『そのようですね、私も昔作ったことがございます。
あれはいいものでした「それはどうでもいいのら。さっさと続きを話すのら」……はい。
弟たちとツリーハウスでとても楽しいひと時を過ごした1番上の兄は帰宅した際、自宅の近くの茶色の山に気が付きます。
よくよく見ればそれは積み木のようにきれいに角張った石が積み重なっていたものでした。
その場所はは1番下の弟が作業をしていた場所でもあったため、隣を歩いていた弟にこれは何なのかと尋ねました』
「レンガ……なのらよね。
兄子豚はそんなことも知らなかったのら?」
『兄は学が浅かったため、知らなかったようですね。
レンガというものを弟から説明されても遊んでいたようにしか思えず、怒った兄は弟を自身の家から追放したのでした』
「あー、追放ってそういうことなのらね。
大げさに言っていたからもっと凄いものかと思ったのら」
『はい。
追放と大げさに言っていますが、ただ追い出しているだけですからね。
さて、追い出された弟はレンガをたくさん作ることに夢中になっていたせいで、家をどこに建てるのか、そこまでどうやって持ち運ぶのか、全く考えておりませんでした』
「……賢いと思っていたのらけど、弟って実は馬鹿なのら?」
『姫様、そのような品のない言葉を使ってはいけません。
このような場合は‘先見の明がない’というのですよ』
「ふーん、先見の明がない馬鹿なのらね」
『姫様……「じいや。」わかりました。
活動する拠点を失った弟は2番目の兄を頼ることにしました。
事情を聴いた2番目の兄は仕方ない兄だ、と言いながら彼を快く家に招き入れました。
そこから2週間後、弟の住居地が決まって順調に家が完成しつつあるときにそれは起こりました。
天の災い、大雨です。
雨そのものは家に何の影響も与えませんでしたが、近くの川が氾濫して、野ざらしの平原に建てられたばかりの藁の家はそこに住む兄共々流し去ってしまいました』
「何ともいえない馬鹿……先見の明がない兄子豚なのらね」
『ええ……そうですね。
2番目の兄は1番目の兄のことをとても心配し、彼の捜索を弟に提案します』
「2番目の兄子豚はとても兄弟思いなのらね。
もっとあくどい奴だと思ってたのら」
『しかし、そんなときに更なる凶報がもたらされます。
大雨によって満足な食事ができず、お腹をすかせたオオカミの集団が近くに出没したというのです。
末っ子の子豚は危険だから逃げるべきだ、と2番目の兄を説得します。
彼は泣く泣く兄の捜索を断念しました。
そこから少しずつ2人の間の溝が深くなっていったのです』
「うちの暑苦しい騎士団長といけ好かない魔法師総隊長と似た感じなのらね。
私は総隊長のことあまり好きじゃないから、兄子豚に同情するのら」
『ツリーハウスでの生活の居心地が悪くなった末っ子の子豚はさっさと家を完成させ、引っ越しを完了させます。
早く引っ越してほしいと思っていた兄は素直に喜びました。
こうして2人が平和にそれぞれの家で暮らしていたある日、突然天気が悪くなったかと思うと雷雨となり、ツリーハウスが建っている森に大きな雷が落ちてきて瞬く間に森全体が火事となりました』
「この兄弟、雨に嫌われ過ぎじゃないのら?
先見の明があってもこんな不運に見舞われたらどうしようもないのら」
『いいえ姫様、それは少し違います。
森での生活を生業とする猟師はそのあたりのことをきちんと考慮して住居を建てるので、慣れないことをした2番目の兄の落ち度になるのですよ』
「へー、知らなかったのら。
じいやは物知りなのら」
『いえいえ、いつか本で読んだことがありまして、そのおかげでございます。
雷雨に怯え、寝床で身体を丸くしていた2番目の兄がギリギリのところで火事に気付きました。
しかし、彼のツリーハウスは半分燃えており、命からがら脱出しましたが家は全焼。
彼は住むべき家を失ってしました。
対して末っ子の子豚、彼の家は頑丈で天災などもろともしません。
2人の兄から追放された彼はゆっくり下見をして決めた安全な地でその後も幸せに暮らしたのでした。
めでたしめでたし。
姫様、いかがでしたか?」
「確かに私の知っている物語とは違っていたのら。
面白かったのらよ」
『姫様に気に入ってもらえるとは感謝の極みでございます』
「でも、“今更~~もう遅い”のくだりがなかったのら。
どういうことなのら?」
『それはですね……えーと、「はやく言うのら」はい。
結末の蛇足感が否めないものだったため、スマートな内容に私が少し修正させていただいたのです』
「どういう内容なのら?」
『その……ですね。
話を聞かずに追い出した1番目の兄。
危険だと説得しただけで、気に食わないからと邪険に扱った2番目の兄。
2回も追放された末っ子は酷く傷付き、2人を恨んでいました』
「……末っ子豚は自己中心的な馬鹿だったのらね。
さすがの私ですらびっくりなのら」
『ご自分がわがままだという自覚はおありだったのですね』
「当たり前なのら、でも超えてはいけないラインはきちんと心得ているのら」
『姫様の配慮に涙が止まりません。
さて、話は雷雨が過ぎ去って少し経った頃、2番目の兄が家をなくしたから助けてほしい、と尋ねてきました。
邪険に扱っていたのに困り果てた途端、謝りもせず助けを乞うその姿を見て、末っ子の子豚は彼にこれ以上関わりたくないと思い、レンガの作り方を簡単に教えて追い返しました。
せっかくレンガの作り方を教わった2番目の兄ですが、活動する拠点もないため満足な家を建てられないまま森の肉食獣に襲われ亡くなってしまいました。
めでたしめでたし』
「全くめでたくないのら。
展開が急すぎるし独りよがりなのら……」
『姫様、なろう系というのはこういう作品が多くあるのですよ』
「残念なのら。
ところでじいや、狩りをしてみたくなったのら」
『姫様! そんなことが姫様の父上の耳に入ってしまえばどうなってしまうか……どうかお考え直しください』
「ええー、行きたいのら行きたいのら」
『どうかご容赦ください』
「むぅー。
仕方ないのら。
じゃあ、毎晩物語を話してほしいのら」
『……?
どうして、そうなったのですか?』
「じいやは言ったのら「こういう作品が多くある」って。
じゃあ、そうじゃない作品もあるということなのら」
『そ、それは言葉の綾というものでして――「じゃあ、狩りに」――わかりました姫様。
このじいや、喜んでお話を話させていただきます』
「そ、分かったならいいのら。
これから、毎晩よろしくなのら」
『はい……承知いたしました』
「じゃあ、満足したから私は寝るのら。
おやすみなのら」
『はい、おやすみなさいませ。姫様』
『.......はて、何か大事なことを忘れているような』