言ってやりました!
20.9.16
前話までの誤字の修正と、セリフの手直しをしました。
話の流れは変わっていません。
馬車はゆっくりと走り出した。
話は……何をすればいいのか。
普段見る殿下は受け身が多いから、自分から話をする所を見たことがない。ギルベルト様は無口で、必要以上のことは喋らない。となると、私が話題をふらなければならない。
いや、正直何を話せばいいか分かんないよ?! 殿下が私のことどこまで知っているのか知らないし、そもそも婚約者選びを任されていることは言っていいのか聞いてない。自国の話はほとんど放課後の交流会で話してるし、下手に殿下について聞いてその気があると思われたくないし……。
「ルーシー様、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
ギルベルト様だ。話題を提供してくれるみたい。やったぜ!
そういやお声を久しぶりに聞いたな。
「なんでしょうか?」
「ご両親が王宮にいらっしゃるのは何故ですか?」
何故? 私が聞きたい。
普通に考えて、王都のどこかに家を持つわよね? なんだったらお父様は外交官なんだから、大使館に居てもいいはずよね? なーんでか、ずっと王宮にいるのよね。謎だわ。
両親のことは別に隠してる訳じゃないし、嫌でも王宮に着いたら分かるよね。殿下も黙ったままだから多分知らないんだろうな。……ロベルト陛下、本当に家族の時間とやらを作ってるのだろうか?
「母がロベルト陛下の異母妹でして、」
「「えっ。」」
……陛下、何一つ伝えてないのでは?
「母が昔住んでいた離宮を住まいとして貸して頂いております。」
お母様からのお手紙にそう書いてありました。
「そう、でしたか。」
ギルベルト様も殿下も、珍しく驚いたままの顔をしている。そうだよねー、殿下からすれば、ただの留学生が実は従兄妹(従姉弟?)とか、ビックリするよねー。
「アルフォンス殿下、ギルベルト様。できれば今まで通りの対応でお願い致します。私も、この留学が決まった時に知ったことですし、今まで身分を気にしたことはございませんから。」
「……わかった。」
「かしこまりました。」
ギルベルト様が少し畏まるようになった気もしますが、まぁ、気にしないようにしよう。
「ルーシー嬢、私も一つ聞いてもいいだろうか?」
「なんでしょうか?」
「婚約者や恋人はいるのだろうか?」
コイツ……。
「殿下はどちらがよろしいですか?」
あ、思ったより低い声が出た。でも仕方ないよね。あれだけ女性を侍らせて曖昧にほっといて、さらに私にも誘ってるととられてもおかしくない言葉吐いてるんでしょ? 殺意の一つくらい湧くわ。
ギルベルト様の体が軽く強張っていたから、かなり殺意が漏れてしまったみたいね。ちょっと反省。
「いや、少し気になっただけだ。気に触ったなら謝る。すまなかった。」
「謝罪を受け入れます。それとアルフォンス殿下、私からも一つよろしいですか?。」
「なんだ?」
あ、少し残念そうな顔をした。私は質問していいとは言いましたが、それに答えるとは言ってませんよ。あと答えるつもりはない。
さぁ、前々から言いたかったことを言ってやろう。
「アルフォンス殿下は女性を侍らせすぎですっ!」
殿下はなんと言われたのかよく分かっていないような顔をしている。ギルベルト様は視線を窓の外に向けたから、思ってはいたのだろう。でもその行動は私を苛立たせる。
護衛とはいえ、家臣なら王の行動を諌めるくらいしなさいよっ!(皇太子だけど!)
「そうだろうか?」
「そうですよ! もちろん、アルフォンス殿下が彼女たちを集めているとは思っておりません。ですが、アルフォンス殿下の対応を拝見する限り、親しくしたいと思っている方がいるとは到底感じられません。彼女たちの好意を利用して侍らせて、彼女たちの気持ちを弄んでいるだけでは、」
「それは違う!」
あら。ちょっとキツイ言い方をしたけど、ちゃんと否定してくれるのね。それはよかった。
そんなこと、微塵も顔に出してやらないんだけど。
「……そうですか。それはなによりです。ですが、アルフォンス殿下。そう取られてもおかしくない言動をなさっていたことはご自覚くださいませ。それと、選ばれなかった彼女たちがどうなるか、考えたことはおありですか?」
これはガネーシャ様から聞いたことだけど、貴族の令嬢は学園の卒業と同時に結婚することが多いらしい。そこまでいかなくても、親しい男性を作ったり、パーティーに参加して婚約者を探したりするのが普通なんだとか。
ところが、殿下を慕っているイザベラ様たちはそういったことにあまりしていないらしい。そうよね、殿下に気に入られれば必要ないことだからね。
でも彼女たちの中にも焦りや諦めはある。
私に小言を言いに来た人の中にも、「諦められるのに諦めきれない。」って愚痴った子だって数人いるのよ。エリー様なんて、「あの時優しくしてくれた殿下の事が忘れられない。殿下は私のことを見てくれないけれど、殿下に優しくされる度に、その時のことを思い出して殿下の側にいたいと思ってしまう。殿下は私を見てくださらないのに。」って涙を流してたんだから! 半ば失恋してるのに諦められないなんてアホかと思ったけど、とっても健気でしょ?! あと励ますのがスッゴい大変だったのよ!?
「……」
殿下は無言のままだ。俯いた顔が何を思っているのかはわからない。
正直、考えたことがあるかどうかは、この際どうでもいい。今から考えてくれるかどうかだ。……まぁ、殿下だけでなく、彼女たちも考えなくてはいけないことだけど。
「誰とは申しませんが、"私では殿下を支えられない"と諦めながらも殿下を恋慕う方もいらっしゃいます。」
殿下は驚いた顔をした。
嘘だろ、気づいてなかったのか?
「アルフォンス殿下が何をお考えなのかは私には理解できませんが、特別に思えない女性にははっきりと断りを申した方が良いと存じます。アルフォンス殿下におっしゃっていただくことで諦めがつく方もいらっしゃるでしょう。」
「だが、それでは私の妃になってくれる人がいなくなってしまう。」
全員振るのか。