鉢合わせました。
ノヴェロ王国の建国祭が近づいてきました。
明日から学園は二週間のお休みです。
お父様とお母様は少し残念そうに、でも嬉しそうな言葉と共に、「一日だけ」と許可を頂きました。よかった、ガネーシャ様と遊べるわ!
他はすべて、各地域で行われる式典に家族で参加することになりました。
これもお父様が外交官になったからだ。「愛する妻のためにも、外交官としても、各地域の式典を見て回らなければ!」と、手紙に書いてた。お母様のためにお父様が動くのはいつものことだけど、理由に仕事を入れられては私には止められない。そしてお母様が「ルーシーも一緒に」と言えば、私には事後承諾しか残っていない。(いつものことです。)
今は迎えの馬車を待っている。
やろうと思えば魔法で王宮まで飛んで帰れるけど、ここはジェラード帝国ではない。きっと「人が空を飛んでいる」と騒ぎになってしまう。お父様なら、専用の魔法陣さえあれば転移魔法が使えるから、あっという間に帰れるのに。あぁ、私も早く転移魔法覚えたい。
そういや最近、生活魔法以外の魔法を使ってない。こんなにも長い間魔物討伐に参加していないのも、何年ぶりかな? 基礎訓練だけは毎日やってるけど、それだけじゃ体が鈍ってしまいそう。あぁ、死なない程度に殺し合える稽古でもあればいいなぁ。
ガネーシャ様もトヴィアス様も先に行ってしまいました。いや、先に出る予定のお二人と話すために来たので、私が早く来すぎているだけか。そろそろ来る頃だと思うけど……あ、それらしい馬車が見えてきた。
「やぁ、ルーシー嬢。」
アルフォンス殿下とギルベルト様だ。お二人だけとは珍しい。
「ごきげんよう、アルフォンス殿下。ギルベルト様。」
「馬車が遅れているのかい?」
「いいえ、私が早く着きすぎてしまっただけですわ。」
「そうか。」
……嫌な予感がする。
「ルーシー。建国祭の間、どこかに行く予定はあるか?」
「三日目はガネーシャ様と街を歩く予定ですわ。他は両親と一緒に各地を回るつもりです。」
「各地をか? 大変だな。」
馬車で行くならそりゃ大変だろうね。お父様のことだから転移魔法だと思うけど、ちょっと心配になってきた。
ガタンっと音がした。馬車が到着したみたい。
「アルフォンス殿下、ルーシー様、ギルベルト様。お待たせ致しました。」
従者は恭しくそう言い一礼をした。
やっぱりぃー! 殿下たちが来たときから「一緒になるんじゃ?」とか思ってたわ!
「ルーシーも一緒か?」
アルフォンス殿下が尋ねた。ギルベルト様も聞いてないのか、不思議そうにしている。そう、お二人も知らなかったのね。私も知らないわ。
「はい。そのように仰せつかっております。」
従者もびっくりしているようだ。そうだよね、仕事で来て「本当にそうか?」と聞かれたら慌てるよね。気持ちは分かるわ。
私の手紙にも馬車の時間しか書いていなかったから、どうせいつもの伝え忘れだろうと、心の中で溜め息を吐く。
「アルフォンス殿下、ギルベルト様。私の両親は王宮の離れに住まわせて頂いておりますから、もしかしたら両親が頼んだのかもしれませんわ。」
「申し訳ございませんがご同行してもよろしいでしょうか?」と問うと、殿下は「そうだったのか。」と頷いた。
「もちろん構わない。ただ。少し驚いただけだ。気にしないで欲しい。」
殿下はそう言ったあと、従者にも謝っていた。
……そういう所はちゃんとした皇太子なのになぁ。いやむしろ、誰に対しても平等な対応ができるのも、悪いと思ったことをきちんと謝罪できるのも、凄いと思う。次期王としては十分立派に務められるよね。アレ(婚約者問題)を除けば。
「お手をどうぞ。」
私にエスコートしてくれるとは思わなかった。いや、殿下の性格を考えれば、しない方がおかしいか。