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イザベラ様が来ました。



 白熱した試合でした。また気が付いたら日が暮れていたわ。チェスって、難しいけどとっても楽しい!

 でも、お母様はチェスが嫌いなのよね。きっと相手をしてくれないわ。……お父様はチェスをするのかしら? 帰ったら聞いてみましょう。



 そろそろ横になろうかなと思っていると、コンコンと、扉をノックする音がします。


「ルーシー様。イザベラです。少し、よろしいでしょうか?」


 イザベラ様? 確か、アルフォンス殿下を囲っている一人よね。何の御用かな?


「どうぞ。」

「……」


 扉を開けて中に誘っても、イザベラ様は私を見据えたままちっとも動いてくれません。


「どうぞ中に――」

「邪魔をしないで頂けませんか!?」


 ……はて?


「邪魔、ですか?」

「そうです! 昼食の時、私の話の途中で声をかけてきたではありませんか!?」


 あの時、私には誰が何を言っていたのかわからなかったけれど、どうもイザベラ様が話していた時だったらしい。


「そうでしたか。申し訳ありません。気がついておりませんでした。」

「っ!」


 あらまぁ、イザベラ様は見る見るうちに真っ赤になってしまいました。これは怒っていますね。


「あ、あなたはご存じないでしょうけれど! 殿下は在学生の中から婚約者を選ぼうとしていらっしゃるの。 私は殿下の婚約者になりたくて必死で、少しでも殿下と親しくなるために努力してるの! だから、その邪魔をしないで頂戴っ!」


 イザベラ様は私を睨みながらそう叫びました。

 ……私が殿下の婚約者候補を選ぶ立場だといえば、どんな顔をするのでしょうね。面倒なので言いませんけど。


「そうでしたか。とてもよく存じております。」

「ご存じなかったのだから仕方がないですが、もう邪魔を……え?」


 イザベラ様はぽかんとした顔で私を見ます。ああ、普通の少女らしくてとても素敵ですね。怒っているよりずっと愛らしいです。


「はい。拝見していれば、どなただってわかります。」

「だったらなおさらっ!」

「だからこそ、あのような行動をとらせていただきました。」

「……は?」


 あー、うん。イザベラ様は私が何を言ったのか分かっていないみたい。


「イザベラ様。私は、ノヴェロ王国ではご家族や親しい友人と食事をする時は静かに食事をするものとお聞きしました。違いますか?」

「違わないわ。でもそれがどうしたの。」

「では今日の食事は静かでしたか?」

「……」

「ご自分をよく見せようとするのは決して悪いことではありません。ですが、周りに迷惑をかけるほどになってはいけません。そのようなことを平気でする人が、王妃になれるはずがありません。」


 イザベラ様はハッとして「王妃……」と呟いた。


「そうですよ。殿下の婚約者ということは、いずれ王妃となるということです。王妃になれば、王を支え、時には王をたしなめることも必要でしょう。殿下に気に入っていただくことも重要でしょうが、その先を見据えることも必要だと存じます。」


 王妃だけでなく家臣としても必要なことだけど、と心の中で添えておく。

 もうね、今日みたいなことが日常茶飯事だと、殿下に注意してもらうより、彼女たちで牽制しあった方が周りのためなんじゃないかなって。私はまだ二日だけど、他の人は一年近くこの状態でしょ? 気が滅入るんじゃないかな。私はもう面倒で面倒で、できれば関わりたくないくらいよ。


「殿下が何をお考えかは存じ上げませんが、もしかしたら、きちんと周りを気遣えるかどうか試しているのではありませんか?」

「!」

「それに、男性を気遣って支えられる女性は、男性からとても人気があるそうですよ。そういえば先日、ロベルト陛下とお会いした時に、殿下の婚約者候補として『アルフォンスを心から気遣える人を』ともおっしゃっていました。」


 イザベラ様が驚いた顔をする。そうよね、ただの留学生がどうして陛下と会っているのかとか、気になるわよね。


「あ! いけません! これは内緒の話でした。どうかご内密に。」


 軽く慌てたように声を潜めると、イザベラ様は驚きながらも頷いた。


「ル、ルーシー様は、陛下と、よくお会いになるのですか?」

「いいえ、先日初めてお会いしました。きっと初めての留学生ですからね。気を使ってくださったみたいで、気になることは気軽に相談してほしいとおっしゃっていただきました。その時に殿下のこともお聞きしたのです。」


 正確には殿下のことを聞いてから留学を知ったんだけどね。


「陛下は、もう殿下の婚約者を決めていらっしゃるの?」

「そこまでは存じ上げません。ですが、良き支えとなる令嬢をとは思っていらっしゃるようでしたね。」

「そ、そうなの。」

「ええ。」


 この後すぐ、イザベラ様は「夜分に急に来てごめんなさい。」と謝ってから帰ってくれた。

 イザベラ様が帰るとき、遠くの廊下で数人の足音がした。殿下を囲っている人たちだったら、明日からは少しは大人しくなってくれることを祈ろう。



 ……ねぇ、これ。あと16人相手することになるの?

 控えめに言ってとっても嫌。



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